積水ハウスで、夢をかたちに。

憧れをかたちに、はできなかったけど、3社で迷い積水ハウスになりました。

換気(2):全熱型一種換気、湿気だけでなく匂いも戻してしまう?

こちらの記事で書いた通り、全熱型の一種換気を採用しました。

 

building-dream-home.hatenablog.com

 

この記事では、全熱型の特徴についてまとめます。

全熱熱交換と顕熱熱交換の仕組み

熱交換には2種類あります。

 

顕熱型:排気する空気の熱を、吸気する空気の熱に移すことで、エネルギー効率をたかめる。例えば、夏は排気する冷房で冷やされた空気で、外から取り入れる熱い空気を冷やす。冬は逆に暖房で温められた暖かい空気を排気する際に、外から入ってくる詰め板空気を温める。

 

全熱型:顕熱型の機能に加えて、湿度も交換してくれる。例えば、冬は加湿した屋内の空気から水蒸気を回収して、外から取り入れた乾いた空気に湿度を与えるし、夏は屋外から取り入れる高い湿度の空気から、排出する低い湿度の空気に水蒸気を移すことで、外から取り込む空気の湿気を抑える。

 

機能面からいえば、全熱型の方が断然よさそう。エネルギー効率的にも全熱型の方が優れています。

 

全熱型熱交換器の性能を理解するために、パナソニックのホームページから仕組みを説明した図をお借りしました。

 

熱交換素子の仕組み

パナソニックのホームページからお借りしました。)

 

この図にあるように、給気と排気は、紙のような細かな”穴”の開いた仕切りで仕切られた通り道を通ります。熱は紙を通じて伝わるし、”穴”より小さい分子は”穴”を通り抜けることができます。

ある粒子の濃度が高い空気と低い空気がある場合、高い方から低い方に粒子が移動する特徴を利用すれば、水蒸気の分子よりも大きな穴を持つ仕切りを用意しておけば、熱だけでなく水蒸気も交換することができるわけです。

これがうまくいけば、夏は外から入ってくる湿度を抑えられるし、冬は外から入ってくる乾いた空気にある程度加湿できるなど、快適になるはずです。

ただし、穴があいているので、排気に含まれる「余分なもの」も、給気側に漏れ出る可能性があります

穴の大きさをどんどん大きくしていくと、仕切りが無い状態と同じになります。これでは、排気したかった空気を外からの空気と混ぜて給気することになり、換気の意味をなしません。したがって、特に二酸化炭素や有害物質のような分子は通さないけれど、水蒸気は通す仕切り壁(熱交換エレメント)が必要になります。

 

これに対して、顕熱型は水蒸気は通さず熱だけ伝えればよいので、仕切り壁に穴が開いている必要はありません。金属など熱伝導率が高いものだったらなんでもよいわけです。穴があいていないので、「余分なもの」が排気側からもれ出る心配はありません。

排気から給気に漏らしたくないものの代表格は「臭い」

全熱型の注意点として、匂いが排気から給気に移るので、臭いの強い空間からの排気の取入れはしない。といわれることがあります。ただし、匂いがうつるという主張は目にしても、そのエビデンスや、単なる懸念を超えた説得力がある説明を見つけることができませんでした。ありがちなパターンですね。

 

提案されているプランでは、靴箱も兼ねる土間収納が一回の排気口になるため、靴から発生するかもしれない臭いが屋内に戻ってしまうか、気になるところです。そこで、Googleさんに頼ってエビデンスを探してみました。

 

すると、水蒸気とアンモニア(お手洗いの臭いですね)を対象に実験を行った、ぴったりの論文(種々の透湿膜の水蒸気および臭 気物質の透過性に関する研究)が日本建築学会で発表されていました。

趣旨としては、

 

「全熱交換素子として使われるセルロース膜は、水蒸気は通すものの、アンモニアはあまり通さない。ただし、高温多湿でアンモニアが水蒸気に溶け込む状態になると、アンモニアを通しやすくなる。」

 

というものです。ちなみに、ここでの高温多湿とは、温度40度、相対湿度90%とかなり極端なケースです。これを見ると、臭気がもどることについてはさほど気にしなくてよいように思えるのですが、この論文は実験結果の報告に主眼があり、なぜそうなるかの説明が余りありません。このため、環境が異なれば、結果が異なるなどの懸念もありそうです。

 

水蒸気は通すけど、臭いは通さないのはなぜか

Claude3による要約

今度は、Calaude3さんらの助けを借りて、もう少し掘り下げて調べてみました。以下は、会話を重ねた末にClaude3から出てきた概要です。なお、熱交換エレメントとは、全熱交換機の中の仕切りのことです。

 

1. 熱交換エレメントの原理
熱交換エレメントは、多孔質膜を利用して空気から水蒸気のみを選択的に透過・回収する装置である。親水性の微細多孔質膜を使うことで、水分子は透過するが不純ガスは阻止される[1]。

2. 分子ふるい効果
多孔質膜には、細孔径が分子径程度の大きさの極微細孔が無数に存在する。この微細孔を通過できるのは分子サイズ以下の分子のみである。この現象を「分子ふるい効果」と呼ぶ[2]。

3. 極性の影響 
極性の高い分子ほど親水性膜に溶解・拡散しやすく、無極性の分子はほとんど透過しない[3]。強い極性を持つ水(双極子モーメント1.85D)は容易に透過するが、無極性の二酸化炭素はほとんど透過しない[4]。

4. アンモニアの透過性
アンモニア(双極子モーメント1.47D)は中程度の極性を持つ。常温常湿下ではあまり膜を透過しないが、高温多湿時には水蒸気に溶解し、溶解アンモニアが一部透過する可能性がある[5]。

5. アンモニア阻止メカニズム
分子径だけでなく、以下の要因も重要である。
  - 膜の疎水性により、アンモニアの透過が抑制される[6]  
  - 静電気的反発がアンモニア分子の透過を妨げる[7]
  - 複雑な細孔構造がアンモニア分子の透過経路を困難にする[8]

出典

[1] 永田民久,柘植綾子,機能性高分子膜の最新展開,シ-エムシ-,2004,p.125
[2] R.M. Felder, R.W. Rousseau, Elementary Principles of Chemical Processes, Wiley, 2005
[3] S.J. Meltzer et al., Macromolecules, 1997, 30, 962-966  
[4] 早野茂夫,含気系膜分離プロセスの理論と応用,東大出版会, 1995, p.162
[5] M.M. Euseb et al., J.Membrane Sci., 2002, 197, 167-179
[6] K.S.W Sing et al., Characterization of Porous Solids III, Elsevier, 1994, p.597
[7] Shoumen P. Datta, Heat Transfer - Princ. and Applic., Academic Press, 2016, p.293  
[8] Y. Yin et al., Chem. Eng. Sci., 2019, 195, 744-754

簡単に言えば

仕切り壁を通り抜けられるかどうかは、二つの要素が大きく左右する。一つは、分子の大きさ、もう一つは静電気的な特性(極性)。アンモニアは、分子の大きさは水蒸気と同じぐらいなので、水蒸気を通す仕切りなら、アンモニアも通しておかしくない。ただし、水蒸気とアンモニアの極性の違いから、アンモニアは通り抜けにくい。

その他の分子

臭いの代表選手としてアンモニアについて調べましたが、分子の大きさと極性という物差しを使って、他の臭いの元(ブチルメルカプタン、イソ吉草酸、インドール、硫化ジメチルなど)をみると、アンモニアにも増して通り抜けしにくいという結果になりました。

結論

積極的に臭いのもとを一種換気の排気につなぐ必要はないものの、屋内の悪臭が熱交換を通じて給気側に戻ってしまう危険性はほとんど気にしなくてよい。従って、下駄箱から排気でも問題なし。

 

と考えることにします。