
- 1. はじめに
- 2. ほとんど語られない「潜熱」の話
- 3. うさぎラクダハウスでの除湿負荷計算
- 4. 顕熱と潜熱の比較:どちらが大きいのか
- 5. 全熱交換器の効果
- 6. まとめ:断熱だけでは解決しない夏の冷房費
- 7. おわりに
- Appendix A: 計算に使用した式と定数
- Appendix B: 計算例
- 参考文献
1. はじめに
断熱等級5の家に住んで約1年、冬の暖房費は予想通り抑えられていたのですが、夏の冷房費が暖房費とさほどかわらないことに疑問を持ちました。そこで、データを分析してみると意外な事実が見えてきました。
冷房期に、冷房負荷をあげる大きな要因になっているのが、日射と、湿度のコントロールです。どちらも断熱性・気密性への言及に較べると、ほとんどといってよいほど取り上げないテーマだと思います。
しかし、日射(遮蔽)は、断熱性と並んでZEHに明示的に基準が定められていますし、換気を通じて外部から取り込む湿気を抑える仕組み(全熱型熱交換器)も、消費する1次エネルギーが削減されるかたちでZEH基準の達成に有利に働くようになっており、住宅設計においてはしっかりと考えるべきポイントです。
今回は、湿度管理に焦点をあて、実際にどれくらいのエネルギーが除湿に使われているのか、定量的に計算してみました。この記事では、その結果を共有したいと思います。
1.1. この記事でご紹介したいこと
温度を下げるより、湿度を下げる方が電力を使っている。
- 冷房には「顕熱(温度を下げる)」と「潜熱(湿度を下げる)」の2つの負荷がある
- 東京の夏では、条件によっては冷房エネルギーの約半分が除湿(潜熱)に使われている
- 断熱性能を上げても、除湿負荷には効かない
- うさぎラクダハウス(延床185㎡、断熱等級5)を例にした除湿エネルギーコストの推計
1.2. 先に結論
我が家の除湿にかかるエネルギーコストを、複数のシナリオで理論計算してみました:
シナリオ1(最も現実的): - 前提:外気28.7℃・76%RH(2020-2024年の8月平均)、24時間稼働、COP 2.5 - 月間約209kWh、約6,500円/月(理論値) - 重要:この条件では、除湿負荷(701W)が外皮からの熱侵入(688W)とほぼ同等になります
シナリオ2(楽観的): - 前提:外気28.7℃・76%RH、稼働率75%、COP 3.5 - 月間約112kWh、約3,500円/月(理論値)
シナリオ3(酷暑時): - 前提:外気35℃・70%RH、24時間稼働、COP 2.5 - 月間約363kWh、約11,300円/月(理論値)
※すべて全熱交換器(潜熱効率66%)ありの場合 ※電気代単価は31円/kWhで計算
近年の温暖化により、8月の実際の平均気温(28.7℃)は30年平均(26.9℃)より約2℃高くなっています。この結果、8月平均条件では除湿負荷が外皮からの熱侵入とほぼ同等になり、断熱等級を上げても除湿負荷は減りません。全熱交換器の有無が、夏の冷房費を大きく左右すると言えます。
2. ほとんど語られない「潜熱」の話
住宅の断熱性能について語られるとき、多くの場合「UA値」や「断熱等級」といった指標が注目されます。しかし、夏の冷房費を考える上で、もう一つ重要な要素があります。それが「潜熱」、つまり除湿です。
2.1 顕熱と潜熱:空調の2つの負荷
空調のエネルギー消費には、実は2種類の負荷があります。
顕熱(Sensible Heat):
- 温度を変えるために必要なエネルギー
- 例:外気35℃を室内26℃まで冷やす
- 外皮(壁・屋根・窓)からの熱侵入は断熱性能を上げると削減できる
- 換気による外気の温度を下げる分も顕熱に含まれるが、これは断熱性能では削減できない(全熱交換器で削減可能)
潜熱(Latent Heat):
- 湿度を変えるために必要なエネルギー
- 例:外気湿度80%を室内湿度55%まで下げる
- 外との空気の出入り(換気)に含まれ、計画換気が主なソース
- 断熱性能を上げても削減できない
- 全熱交換器で削減可能
この区別は、夏の冷房費を理解する上で非常に重要です。なぜなら、断熱性能を上げても潜熱負荷は全く減らないからです。
2.2 なぜ除湿にエネルギーがかかるのか
空気中の水分を取り除くには、以下のプロセスが必要です:
- 空気を露点温度以下まで冷やす
- 水蒸気を凝縮させて水にする(この時、蒸発潜熱2,500 kJ/kgが放出される)
- 水分を除去した空気を室内に戻す
重要なポイント:
- 1kgの水を蒸発させるエネルギー ≈ 0℃の水1kgを100℃まで加熱するエネルギーの約6倍
- 東京の夏、換気で入ってくる湿った外気から、1日に約22~64kgの水分を除去する必要がある(全熱交換器の有無による)
つまり、除湿というのは非常にエネルギーを使う作業なのです。エアコンの冷房運転中、室外機から水がポタポタと滴っているのを見たことがあるでしょうか。あれは、空気中の水蒸気が凝縮して水になったものです。その水の量だけ、エネルギーを消費しているのです。
2.3 東京の夏の湿度環境
では、東京の夏はどのくらい湿度が高いのでしょうか。気象庁の最近5年間の実測データ(2020-2024年)を見てみましょう。
気象庁データ(2020-2024年平均):
| 月 | 平均気温 | 相対湿度 | 絶対湿度 | 露点温度 |
|---|---|---|---|---|
| 7月 | 26.9℃ | 79.0% | 17.7 g/kg | 23.3℃ |
| 8月 | 28.7℃ | 76.2% | 19.0 g/kg | 24.3℃ |
| 9月 | 25.0℃ | 74.2% | 14.8 g/kg | 20.3℃ |
| 冷房期平均 | 26.9℃ | 76.5% | 17.1 g/kg | 22.6℃ |
参考:30年平均(1991-2020年)との比較: - 8月平均気温:26.9℃ → 28.7℃(+1.8℃) - 8月絶対湿度:16.7 g/kg → 19.0 g/kg(+2.3 g/kg、+14%)
近年の温暖化の影響により、実際の夏は30年平均よりも大幅に高温多湿になっていることがわかります。
ここで重要なのは「絶対湿度」です。相対湿度は温度によって変わりますが、絶対湿度は空気1kgあたりに含まれる水分の量(g)を表すため、除湿負荷を計算する際にはこちらを使います。
我が家の室内目標条件: - 温度:26℃ - 湿度:55% - 絶対湿度:約11.6 g/kg
うさぎとラクダが理想とする湿度は50%以下なのですが、これを達成するのはなかなか困難です。
計算してみると、エアコンの除湿能力には余裕があり湿度をさらに下げることもできそうなのですが、除湿を強化すると部屋の温度が下がり過ぎてしまい快適ではなくなってしまうのです。
再熱型の除湿機能を使うとか、異なる方式の独立した除湿器を使うことで温度と湿度の双方を理想に近づけることも可能ではありますが、これは一度冷やした空気をまた温めるわけで、エネルギーが余計にかかります。
さすがにそこまでやるなら55%で我慢しよう、ということで55%をターゲットにしています。
除湿が必要な水分量:
- 外気と室内の絶対湿度差:約7.4 g/kg(8月平均条件、2020-2024年)
- これは空気1kgあたり7.4gの水分を除去する必要があることを意味します
3. うさぎラクダハウスでの除湿負荷計算
それでは、実際に我が家(うさぎラクダハウス)での除湿にかかるエネルギーコストを計算してみましょう。
3.1 我が家のスペック
基本情報: - 延床面積:185 m²(約56坪) - UA値:0.55 W/(m²·K)(断熱等級5相当) - 換気システム:第一種換気(全熱交換型) - 換気量:300 m³/h(0.5回+α/h相当) - エアコン:各部屋に設置、夏季は除湿運転が中心
外皮面積: - 外壁・屋根・床の合計:約463 m²
3.2 除湿負荷の2つの発生源
住宅内の除湿負荷は、主に2つの原因で発生します:
(1) 換気による外気からの水分流入
第一種換気システムにより、常時300 m³/hの外気を取り入れています。この外気には大量の水分が含まれており、それを室内の湿度レベルまで下げる必要があります。
計算の考え方:
水分流入量 [kg/h] = 換気量 [m³/h] × 空気密度 [kg/m³] × 絶対湿度差 [kg/kg]
(2) 室内での水分発生
人の呼吸・発汗、調理、入浴、洗濯物の室内干しなどにより、室内でも水分が発生します。
一般的な推定値: - 4人家族:約4~6 kg/日 - 我が家の場合:約5 kg/日 ≈ 208 g/h
ただし、この発生は活動時間帯(6:00~24:00)に集中すると考えられるため、24時間平均では約半分の104 g/h程度と推定します。
3.3 計算の前提条件:3つのシナリオ
実際の夏の状況は日によって大きく変わります。そこで、今回は3つのシナリオで計算してみます:
シナリオ1(最も現実的):8月平均条件、24時間稼働、除湿モード - 外気条件:温度28.7℃、相対湿度76.2%、絶対湿度19.0 g/kg(2020-2024年8月平均) - 室内条件:温度26℃、相対湿度55%、絶対湿度11.6 g/kgを24時間維持 - 運転時間:24時間稼働(湿度は連続発生するため) - エアコンCOP:2.5(除湿モード、実測的な値)
シナリオ2(楽観的):8月平均条件、間欠稼働、冷房モード - 外気条件:温度28.7℃、相対湿度76.2%、絶対湿度19.0 g/kg(2020-2024年8月平均) - 室内条件:温度26℃、相対湿度55% - 運転時間:実質稼働率75%(18時間相当、夜間の湿度低下を考慮) - エアコンCOP:3.5(冷房モード相当)
シナリオ3(酷暑時):猛暑日条件、24時間稼働、除湿モード - 外気条件:温度35℃、相対湿度70%、絶対湿度25.1 g/kg(真夏の酷暑日) - 室内条件:温度26℃、相対湿度55%を24時間維持 - 運転時間:24時間稼働 - エアコンCOP:2.5(除湿モード)
これらのシナリオで、換気と内部発生による除湿負荷を計算してみます。
3.4 換気による潜熱負荷の計算
シナリオ1:8月平均条件(最も現実的)
計算に使用する数値: - 外気条件:28.7℃、相対湿度76.2% → 絶対湿度19.0 g/kg - 室内条件:26℃、相対湿度55% → 絶対湿度11.6 g/kg - 換気量:300 m³/h - 空気密度:1.2 kg/m³
全熱交換器なしの場合:
換気によって流入する水分量を計算します:
水分流入量 [kg/h] = 換気量 [m³/h] × 空気密度 [kg/m³] × 絶対湿度差 [kg/kg]
我が家の場合:
水分流入量 = 300 m³/h × 1.2 kg/m³ × (0.0190 - 0.0116) kg/kg
= 300 × 1.2 × 0.0074
= 2.7 kg/h
24時間では約64 kg/日の水分が換気によって室内に流入します。
この水分を除去するための潜熱負荷は:
潜熱負荷 [W] = 833 × 換気量 [m³/h] × 絶対湿度差 [kg/kg]
= 833 × 300 × 0.0074
= 1,849W
これは24時間で約44kWh、月間(31日)で約1,374kWhのエネルギー消費になります。
全熱交換器あり(潜熱効率66%):
我が家は全熱交換型の第一種換気システムを導入しています。全熱交換器は、排気する室内の空気と、給気する外気の間で、温度だけでなく湿度も交換してくれます。
文献によると、実際の運用における潜熱効率は約66%程度です(カタログ値は80%以上と書かれていることが多いですが、フィルターの目詰まりや結露などの影響で、実際にはもう少し低くなります)。
全熱交換器により削減された後の水分流入量:
実質的な水分流入量 = 2.7 kg/h × (1 - 0.66) = 0.9 kg/h
24時間では約22 kg/日の水分を除去すればよいことになります。全熱交換器により、除去すべき水分量が約42 kg/日(66%)削減されています。
対応する潜熱負荷は:
潜熱負荷 = 1,849W × (1 - 0.66) = 629W
これは24時間で約15kWh、月間で約467kWhのエネルギー消費になります。
全熱交換器により、約907kWh/月(約66%)のエネルギー削減ができていることになります。
シナリオ2:8月平均条件、稼働率75%
外気条件は同じですので、潜熱負荷も同じ629Wです。ただし、稼働時間が18時間/日(75%)と仮定します。
シナリオ3:酷暑時(35℃・70%RH)
同様に計算すると、酷暑時の外気条件(35℃、70%RH、絶対湿度25.1 g/kg)では:
全熱交換器ありの場合: - 換気による潜熱負荷:1,147W - 24時間で約28kWh、月間で約854kWh
3.5 内部発生による潜熱負荷
室内での水分発生による潜熱負荷も計算に含めます。
前提条件: - 内部発生:208 g/h(5 kg/日相当) - ただし、活動時間帯に集中すると考え、24時間平均では約104 g/h(50%)と推定
潜熱負荷の計算:
潜熱負荷 [W] = (水分発生量 [g/h] / 1000) × 蒸発潜熱 [kJ/kg] / 3.6
= (104 / 1000) × 2500 / 3.6
= 72W
この内部発生による潜熱負荷は、シナリオ1~3すべてで同じです。
3.6 総除湿負荷とエネルギーコスト
それでは、3つのシナリオでの総エネルギーコストを理論計算してみましょう。
シナリオ1(最も現実的):8月平均、24時間、COP 2.5
総潜熱負荷(全熱交換器あり): - 換気:629W - 内部発生:72W - 合計:701W
エネルギー消費量:
消費電力 = 701W ÷ 2.5 = 280W 日間消費量 = 280W × 24h = 6.7kWh/日 月間消費量 = 6.7kWh × 31日 = 209kWh/月
電気代(31円/kWh):
月額 = 209kWh × 31円 = 6,479円/月 ≈ 6,500円/月
夏季3か月(7~9月)では、約19,500円になります。
シナリオ2(楽観的):8月平均、75%稼働、COP 3.5
総潜熱負荷(全熱交換器あり): - 換気:629W - 内部発生:72W - 合計:701W
エネルギー消費量(稼働率75%):
消費電力 = 701W ÷ 3.5 = 200W 日間消費量 = 200W × 18h = 3.6kWh/日 月間消費量 = 3.6kWh × 31日 = 112kWh/月
電気代(31円/kWh):
月額 = 112kWh × 31円 = 3,472円/月 ≈ 3,500円/月
シナリオ3(酷暑時):35℃、24時間、COP 2.5
総潜熱負荷(全熱交換器あり): - 換気:1,147W - 内部発生:72W - 合計:1,219W
エネルギー消費量:
消費電力 = 1,219W ÷ 2.5 = 488W 日間消費量 = 488W × 24h = 11.7kWh/日 月間消費量 = 11.7kWh × 31日 = 363kWh/月
電気代(31円/kWh):
月額 = 363kWh × 31円 = 11,253円/月 ≈ 11,300円/月
3.7 結果のまとめと考察
3つのシナリオの結果をまとめると:
| シナリオ | 外気条件 | 稼働条件 | 月間消費量 | 月額電気代 |
|---|---|---|---|---|
| 1(現実的) | 8月平均(28.7℃・76%) | 24h稼働、COP 2.5 | 209kWh | 6,500円 |
| 2(楽観的) | 8月平均(28.7℃・76%) | 75%稼働、COP 3.5 | 112kWh | 3,500円 |
| 3(酷暑時) | 酷暑日(35℃・70%) | 24h稼働、COP 2.5 | 363kWh | 11,300円 |
この計算からわかること:
前提条件が大きく影響する:外気条件、稼働時間、COPの設定により、結果は3倍程度変動します
実際の8月平均でも相応のコストがかかる:近年の温暖化により、8月の実際の平均気温(28.7℃)でも、24時間の除湿運転を行うと月6,500円(理論値)のコストが発生します
酷暑時のコストは非常に大きい:35℃を超える温度が日夜問わず続く極端なケースを想定すると、除湿だけで月11,300円(理論値)のコストになる可能性があります
注記: - これらの金額は、除湿だけにかかるコストの理論値です。温度を下げるためのコスト(顕熱)、日射取得、内部発熱は別途かかります - 実際の運用では、エアコンの間欠運転、部屋間の温湿度ムラ、制御誤差などにより、実際の消費電力は理論値より大きくなります - 実際の運用では、外気条件、稼働時間、モード選択などが日々変動するため、実際のコストはこれらの中間値になると考えられます
4. 顕熱と潜熱の比較:どちらが大きいのか
それでは、除湿(潜熱)と温度制御(顕熱)のエネルギーを比較してみましょう。
4.1 顕熱負荷の計算
顕熱負荷には、以下の2つの要素があります:
(1) 外皮貫流による熱侵入
外壁・屋根・床・窓などを通じて、外部の熱が室内に侵入します。
貫流熱負荷 [W] = UA値 [W/(m²·K)] × 外皮面積 [m²] × 温度差 [K]
シナリオ1(8月平均、28.7℃):
貫流熱負荷 = 0.55 × 463 × (28.7 - 26)
= 0.55 × 463 × 2.7
= 688W
シナリオ3(酷暑時、35℃):
貫流熱負荷 = 0.55 × 463 × (35 - 26)
= 0.55 × 463 × 9
= 2,292W
(2) 換気による顕熱負荷
換気により流入する外気を室内温度まで冷やすための負荷です。
全熱交換器あり(顕熱効率80%)の場合:
シナリオ1(8月平均):
換気顕熱負荷 = 0.33 × 300 × 2.7 × (1 - 0.80)
= 53W
シナリオ3(酷暑時):
換気顕熱負荷 = 0.33 × 300 × 9 × (1 - 0.80)
= 178W
4.2 顕熱と潜熱の比較
それでは、各シナリオでの顕熱と潜熱を比較してみましょう:
シナリオ1:8月平均(28.7℃・76%RH)、全熱交換器あり
| 負荷の種類 | 値 | 備考 |
|---|---|---|
| 潜熱負荷(除湿) | 701W | 換気629W + 内部発生72W |
| 外皮貫流(顕熱) | 688W | |
| 換気顕熱 | 53W | |
| 総顕熱負荷 | 741W | |
| 総負荷 | 1,442W | |
| 潜熱比率 | 48.6% | 約半分が除湿 |
| 潜熱/外皮貫流比 | 102% | 除湿が外皮貫流とほぼ同等 |
重要な発見:近年の実測データ(2020-2024年)に基づくと、8月平均条件では除湿負荷が外皮貫流による熱侵入とほぼ同等になります。
シナリオ3:酷暑時(35℃・70%RH)、全熱交換器あり
| 負荷の種類 | 値 | 備考 |
|---|---|---|
| 潜熱負荷(除湿) | 1,219W | 換気1,147W + 内部発生72W |
| 外皮貫流(顕熱) | 2,292W | |
| 換気顕熱 | 178W | |
| 総顕熱負荷 | 2,470W | |
| 総負荷 | 3,689W | |
| 潜熱比率 | 33.0% | |
| 潜熱/外皮貫流比 | 53% | 除湿は外皮貫流の半分強 |
酷暑時は、温度差が大きくなるため顕熱の比率が高くなりますが、それでも潜熱負荷は総負荷の33%を占めます。
4.3 考察:断熱等級を上げても減らないもの
ここで重要なのは、断熱等級を上げても、潜熱負荷は全く減らないということです。
仮に、UA値を0.55から0.35(断熱等級6~7相当)に改善したとしましょう:
シナリオ1の場合(8月平均):
| 項目 | UA 0.55 | UA 0.35 | 削減量 |
|---|---|---|---|
| 外皮貫流 | 688W | 437W | -251W |
| 潜熱負荷 | 701W | 701W | 0W |
| 総負荷 | 1,442W | 1,191W | -251W |
断熱性能を大幅に改善しても、除湿負荷は全く減りません。結果として、総負荷に占める潜熱の割合は、さらに高くなります(48.6% → 58.9%)。
これは、高断熱化すればするほど、相対的に除湿負荷の重要性が増すことを意味します。
5. 全熱交換器の効果
前節の計算では、すべて全熱交換器ありの場合を示しました。それでは、全熱交換器がない場合、どれだけコストが増えるのでしょうか。
5.1 全熱交換器なしの場合
シナリオ1(8月平均、24時間稼働)で、全熱交換器がない場合を計算してみます。
潜熱負荷(全熱交換器なし): - 換気:1,849W(削減なし) - 内部発生:72W - 合計:1,921W
エネルギー消費量:
消費電力 = 1,921W ÷ 2.5 = 768W 日間消費量 = 768W × 24h = 18.4kWh/日 月間消費量 = 18.4kWh × 31日 = 571kWh/月 月額電気代 = 571kWh × 31円 = 17,701円/月 ≈ 17,700円/月
全熱交換器ありとの比較: - 消費量差:571 - 209 = 362kWh/月 - 電気代差:17,700 - 6,500 = 11,200円/月 - 夏季3か月(7~9月):33,600円
全熱交換器の有無で、夏季の除湿だけで約3.4万円(理論値)の差が出ることになります。
6. まとめ:断熱だけでは解決しない夏の冷房費
この計算から、以下のことが明らかになりました:
除湿は大きなエネルギーコスト:
- 8月平均条件で月6,500円(理論値、全熱交換器あり、24時間稼働)
- 酷暑時には月11,300円(理論値)に達する可能性
近年の温暖化の影響:
- 8月の実測平均(2020-2024年)は30年平均より約2℃高い
- この結果、除湿負荷が外皮貫流とほぼ同等になる
断熱等級を上げても除湿負荷は減らない:
- 潜熱負荷は換気と内部発生由来
- UA値を改善しても、潜熱には効果なし
全熱交換器の効果は絶大:
- 潜熱負荷を約66%削減
- 夏季だけで約3.4万円(理論値)の除湿コスト削減
7. おわりに
高断熱住宅に住んでみて、冬は確かに暖房費が抑えられていると実感しています。しかし、夏の冷房費については、断熱性能だけでは解決できない課題があることがわかりました。
特に、除湿にかかるエネルギーコストは想像以上に大きく、断熱等級を上げても全く削減できません。むしろ、高断熱化すればするほど、相対的に除湿負荷の重要性が増していきます。
近年の温暖化により、8月の実際の平均気温は30年平均より約2℃も高くなっています。この結果、除湿負荷は外皮からの熱侵入とほぼ同等になっており、もはや無視できない要素となっています。
住宅を設計する際、断熱等級ばかりに注目するのではなく、全熱交換型の換気システムや日射遮蔽にも十分な配慮をすることが、本当の省エネ住宅を実現する鍵だと感じています。
この記事が、これから家を建てる方、リフォームを検討されている方の参考になれば幸いです。
Appendix A: 計算に使用した式と定数
A.1 絶対湿度の計算
絶対湿度(空気1kgあたりの水蒸気量 [g/kg])は、以下の式で計算します:
x = 0.622 × Pv / (P - Pv) × 1000
ここで: - x:絶対湿度 [g/kg] - Pv:水蒸気圧 [Pa] - P:大気圧 [Pa](標準大気圧 = 101,325 Pa)
水蒸気圧は、温度と相対湿度から以下のように計算します:
Pv = (RH / 100) × Ps(T)
ここで: - RH:相対湿度 [%] - Ps(T):温度Tにおける飽和水蒸気圧 [Pa]
飽和水蒸気圧は、Antoine式を使用:
Ps(T) = 610.78 × exp(17.27 × T / (T + 237.3))
A.2 潜熱負荷の計算
換気による潜熱負荷 [W] は、以下の式で計算します:
潜熱負荷 = 833 × V × Δx
ここで: - V:換気量 [m³/h] - Δx:外気と室内の絶対湿度差 [kg/kg] - 833:係数 [W/(m³/h)/(kg/kg)]
この係数は、以下から導かれます:
833 = 空気密度 [kg/m³] × 蒸発潜熱 [kJ/kg] / 3.6
= 1.2 × 2500 / 3.6
= 833.3 ≈ 833
A.3 顕熱負荷の計算
外皮貫流による顕熱負荷:
Q = UA × A × ΔT
ここで: - Q:熱負荷 [W] - UA:熱貫流率 [W/(m²·K)] - A:外皮面積 [m²] - ΔT:内外温度差 [K]
換気による顕熱負荷:
Q = 0.33 × V × ΔT
ここで: - V:換気量 [m³/h] - ΔT:内外温度差 [K] - 0.33:係数 [W/(m³/h)/K]
この係数は、以下から導かれます:
0.33 = 空気密度 [kg/m³] × 比熱 [kJ/(kg·K)] / 3.6
= 1.2 × 1.005 / 3.6
= 0.335 ≈ 0.33
Appendix B: 計算例
B.1 シナリオ1の詳細計算
外気条件: - 温度:28.7℃ - 相対湿度:76.2% - 絶対湿度:19.0 g/kg
室内条件: - 温度:26℃ - 相対湿度:55% - 絶対湿度:11.6 g/kg
Step 1: 換気による潜熱負荷(全熱交換器なし)
潜熱負荷 = 833 × 300 × (0.0190 - 0.0116)
= 833 × 300 × 0.0074
= 1,849W
Step 2: 全熱交換器の効果(潜熱効率66%)
潜熱負荷(HEXあり) = 1,849 × (1 - 0.66)
= 1,849 × 0.34
= 629W
Step 3: 内部発生による潜熱負荷
内部発生 = (104 g/h / 1000) × 2500 kJ/kg / 3.6
= 0.104 × 2500 / 3.6
= 72W
Step 4: 総潜熱負荷
総潜熱負荷 = 629 + 72 = 701W
Step 5: エネルギーコスト(COP 2.5)
消費電力 = 701 / 2.5 = 280W 日間消費量 = 280 × 24 = 6.7kWh/日 月間消費量 = 6.7 × 31 = 209kWh/月 月額電気代 = 209 × 31円 = 6,479円/月
B.2 顕熱負荷の計算
外皮貫流:
貫流熱負荷 = 0.55 × 463 × (28.7 - 26)
= 0.55 × 463 × 2.7
= 688W
換気顕熱(全熱交換器あり、顕熱効率80%):
換気顕熱負荷 = 0.33 × 300 × 2.7 × (1 - 0.80)
= 0.33 × 300 × 2.7 × 0.20
= 53W
総顕熱負荷:
総顕熱負荷 = 688 + 53 = 741W
総負荷と潜熱比率:
総負荷 = 701 + 741 = 1,442W 潜熱比率 = 701 / 1,442 = 48.6%
参考文献
- 気象庁「過去の気象データ検索」https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/
- 空気調和・衛生工学会「空気調和・衛生工学便覧」
- 国土交通省「住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する建築主の判断の基準」
- 全熱交換器の性能に関する研究論文(空気調和・衛生工学会論文集)
- 住宅の内部発熱・発湿に関する調査研究(建築学会論文集)
※本記事の計算は、筆者の理解と仮定に基づくものであり、実際の値とは異なる場合があります。個別具体的な計算が必要な場合は、専門家にご相談ください。
















