積水ハウスで、夢をかたちに。

憧れをかたちに、はできなかったけど、3社で迷い積水ハウスになりました。

断熱性能を上げても夏の電気代が減らない理由──"除湿"のエネルギーコスト

1. はじめに

断熱等級5の家に住んで約1年、冬の暖房費は予想通り抑えられていたのですが、夏の冷房費が暖房費とさほどかわらないことに疑問を持ちました。そこで、データを分析してみると意外な事実が見えてきました。

冷房期に、冷房負荷をあげる大きな要因になっているのが、日射と、湿度のコントロールです。どちらも断熱性・気密性への言及に較べると、ほとんどといってよいほど取り上げないテーマだと思います。

しかし、日射(遮蔽)は、断熱性と並んでZEHに明示的に基準が定められていますし、換気を通じて外部から取り込む湿気を抑える仕組み(全熱型熱交換器)も、消費する1次エネルギーが削減されるかたちでZEH基準の達成に有利に働くようになっており、住宅設計においてはしっかりと考えるべきポイントです。

今回は、湿度管理に焦点をあて、実際にどれくらいのエネルギーが除湿に使われているのか、定量的に計算してみました。この記事では、その結果を共有したいと思います。

1.1. この記事でご紹介したいこと

温度を下げるより、湿度を下げる方が電力を使っている。

  1. 冷房には「顕熱(温度を下げる)」と「潜熱(湿度を下げる)」の2つの負荷がある
  2. 東京の夏では、条件によっては冷房エネルギーの約半分が除湿(潜熱)に使われている
  3. 断熱性能を上げても、除湿負荷には効かない
  4. うさぎラクダハウス(延床185㎡、断熱等級5)を例にした除湿エネルギーコストの推計

1.2. 先に結論

我が家の除湿にかかるエネルギーコストを、複数のシナリオで理論計算してみました:

シナリオ1(最も現実的): - 前提:外気28.7℃・76%RH(2020-2024年の8月平均)、24時間稼働、COP 2.5 - 月間約209kWh、約6,500円/月(理論値) - 重要:この条件では、除湿負荷(701W)が外皮からの熱侵入(688W)とほぼ同等になります

シナリオ2(楽観的): - 前提:外気28.7℃・76%RH、稼働率75%、COP 3.5 - 月間約112kWh、約3,500円/月(理論値)

シナリオ3(酷暑時): - 前提:外気35℃・70%RH、24時間稼働、COP 2.5 - 月間約363kWh、約11,300円/月(理論値)

※すべて全熱交換器(潜熱効率66%)ありの場合 ※電気代単価は31円/kWhで計算

近年の温暖化により、8月の実際の平均気温(28.7℃)は30年平均(26.9℃)より約2℃高くなっています。この結果、8月平均条件では除湿負荷が外皮からの熱侵入とほぼ同等になり、断熱等級を上げても除湿負荷は減りません。全熱交換器の有無が、夏の冷房費を大きく左右すると言えます。


2. ほとんど語られない「潜熱」の話

住宅の断熱性能について語られるとき、多くの場合「UA値」や「断熱等級」といった指標が注目されます。しかし、夏の冷房費を考える上で、もう一つ重要な要素があります。それが「潜熱」、つまり除湿です。

2.1 顕熱と潜熱:空調の2つの負荷

空調のエネルギー消費には、実は2種類の負荷があります。

顕熱(Sensible Heat)

  • 温度を変えるために必要なエネルギー
  • 例:外気35℃を室内26℃まで冷やす
  • 外皮(壁・屋根・窓)からの熱侵入は断熱性能を上げると削減できる
  • 換気による外気の温度を下げる分も顕熱に含まれるが、これは断熱性能では削減できない(全熱交換器で削減可能)

潜熱(Latent Heat)

  • 湿度を変えるために必要なエネルギー
  • 例:外気湿度80%を室内湿度55%まで下げる
  • 外との空気の出入り(換気)に含まれ、計画換気が主なソース
  • 断熱性能を上げても削減できない
  • 全熱交換器で削減可能

この区別は、夏の冷房費を理解する上で非常に重要です。なぜなら、断熱性能を上げても潜熱負荷は全く減らないからです。

2.2 なぜ除湿にエネルギーがかかるのか

空気中の水分を取り除くには、以下のプロセスが必要です:

  1. 空気を露点温度以下まで冷やす
  2. 水蒸気を凝縮させて水にする(この時、蒸発潜熱2,500 kJ/kgが放出される)
  3. 水分を除去した空気を室内に戻す

重要なポイント

  • 1kgの水を蒸発させるエネルギー ≈ 0℃の水1kgを100℃まで加熱するエネルギーの約6倍
  • 東京の夏、換気で入ってくる湿った外気から、1日に約22~64kgの水分を除去する必要がある(全熱交換器の有無による)

つまり、除湿というのは非常にエネルギーを使う作業なのです。エアコンの冷房運転中、室外機から水がポタポタと滴っているのを見たことがあるでしょうか。あれは、空気中の水蒸気が凝縮して水になったものです。その水の量だけ、エネルギーを消費しているのです。

2.3 東京の夏の湿度環境

では、東京の夏はどのくらい湿度が高いのでしょうか。気象庁の最近5年間の実測データ(2020-2024年)を見てみましょう。

気象庁データ(2020-2024年平均)

平均気温 相対湿度 絶対湿度 露点温度
7月 26.9℃ 79.0% 17.7 g/kg 23.3℃
8月 28.7℃ 76.2% 19.0 g/kg 24.3℃
9月 25.0℃ 74.2% 14.8 g/kg 20.3℃
冷房期平均 26.9℃ 76.5% 17.1 g/kg 22.6℃

出典:気象庁「過去の気象データ検索」(東京管区気象台

参考:30年平均(1991-2020年)との比較: - 8月平均気温:26.9℃ → 28.7℃(+1.8℃) - 8月絶対湿度:16.7 g/kg → 19.0 g/kg(+2.3 g/kg、+14%

近年の温暖化の影響により、実際の夏は30年平均よりも大幅に高温多湿になっていることがわかります。

ここで重要なのは「絶対湿度」です。相対湿度は温度によって変わりますが、絶対湿度は空気1kgあたりに含まれる水分の量(g)を表すため、除湿負荷を計算する際にはこちらを使います。

我が家の室内目標条件: - 温度:26℃ - 湿度:55% - 絶対湿度:約11.6 g/kg

うさぎとラクダが理想とする湿度は50%以下なのですが、これを達成するのはなかなか困難です。

計算してみると、エアコンの除湿能力には余裕があり湿度をさらに下げることもできそうなのですが、除湿を強化すると部屋の温度が下がり過ぎてしまい快適ではなくなってしまうのです。

再熱型の除湿機能を使うとか、異なる方式の独立した除湿器を使うことで温度と湿度の双方を理想に近づけることも可能ではありますが、これは一度冷やした空気をまた温めるわけで、エネルギーが余計にかかります。

さすがにそこまでやるなら55%で我慢しよう、ということで55%をターゲットにしています。

除湿が必要な水分量

  • 外気と室内の絶対湿度差:約7.4 g/kg(8月平均条件、2020-2024年)
  • これは空気1kgあたり7.4gの水分を除去する必要があることを意味します

3. うさぎラクダハウスでの除湿負荷計算

それでは、実際に我が家(うさぎラクダハウス)での除湿にかかるエネルギーコストを計算してみましょう。

3.1 我が家のスペック

基本情報: - 延床面積:185 m²(約56坪) - UA値:0.55 W/(m²·K)(断熱等級5相当) - 換気システム:第一種換気(全熱交換型) - 換気量:300 m³/h(0.5回+α/h相当) - エアコン:各部屋に設置、夏季は除湿運転が中心

外皮面積: - 外壁・屋根・床の合計:約463 m²

3.2 除湿負荷の2つの発生源

住宅内の除湿負荷は、主に2つの原因で発生します:

(1) 換気による外気からの水分流入

第一種換気システムにより、常時300 m³/hの外気を取り入れています。この外気には大量の水分が含まれており、それを室内の湿度レベルまで下げる必要があります。

計算の考え方

水分流入量 [kg/h] = 換気量 [m³/h] × 空気密度 [kg/m³] × 絶対湿度差 [kg/kg]

(2) 室内での水分発生

人の呼吸・発汗、調理、入浴、洗濯物の室内干しなどにより、室内でも水分が発生します。

一般的な推定値: - 4人家族:約4~6 kg/日 - 我が家の場合:約5 kg/日 ≈ 208 g/h

ただし、この発生は活動時間帯(6:00~24:00)に集中すると考えられるため、24時間平均では約半分の104 g/h程度と推定します。

3.3 計算の前提条件:3つのシナリオ

実際の夏の状況は日によって大きく変わります。そこで、今回は3つのシナリオで計算してみます:

シナリオ1(最も現実的):8月平均条件、24時間稼働、除湿モード - 外気条件:温度28.7℃、相対湿度76.2%、絶対湿度19.0 g/kg(2020-2024年8月平均) - 室内条件:温度26℃、相対湿度55%、絶対湿度11.6 g/kgを24時間維持 - 運転時間:24時間稼働(湿度は連続発生するため) - エアコンCOP:2.5(除湿モード、実測的な値)

シナリオ2(楽観的):8月平均条件、間欠稼働、冷房モード - 外気条件:温度28.7℃、相対湿度76.2%、絶対湿度19.0 g/kg(2020-2024年8月平均) - 室内条件:温度26℃、相対湿度55% - 運転時間:実質稼働率75%(18時間相当、夜間の湿度低下を考慮) - エアコンCOP:3.5(冷房モード相当)

シナリオ3(酷暑時):猛暑日条件、24時間稼働、除湿モード - 外気条件:温度35℃、相対湿度70%、絶対湿度25.1 g/kg(真夏の酷暑日) - 室内条件:温度26℃、相対湿度55%を24時間維持 - 運転時間:24時間稼働 - エアコンCOP:2.5(除湿モード)

これらのシナリオで、換気と内部発生による除湿負荷を計算してみます。

3.4 換気による潜熱負荷の計算

シナリオ1:8月平均条件(最も現実的)

計算に使用する数値: - 外気条件:28.7℃、相対湿度76.2% → 絶対湿度19.0 g/kg - 室内条件:26℃、相対湿度55% → 絶対湿度11.6 g/kg - 換気量:300 m³/h - 空気密度:1.2 kg/m³

全熱交換器なしの場合

換気によって流入する水分量を計算します:

水分流入量 [kg/h] = 換気量 [m³/h] × 空気密度 [kg/m³] × 絶対湿度差 [kg/kg]

我が家の場合:

水分流入量 = 300 m³/h × 1.2 kg/m³ × (0.0190 - 0.0116) kg/kg
          = 300 × 1.2 × 0.0074
          = 2.7 kg/h

24時間では約64 kg/日の水分が換気によって室内に流入します。

この水分を除去するための潜熱負荷は:

潜熱負荷 [W] = 833 × 換気量 [m³/h] × 絶対湿度差 [kg/kg]
            = 833 × 300 × 0.0074
            = 1,849W

これは24時間で約44kWh、月間(31日)で約1,374kWhのエネルギー消費になります。

全熱交換器あり(潜熱効率66%)

我が家は全熱交換型の第一種換気システムを導入しています。全熱交換器は、排気する室内の空気と、給気する外気の間で、温度だけでなく湿度も交換してくれます。

文献によると、実際の運用における潜熱効率は約66%程度です(カタログ値は80%以上と書かれていることが多いですが、フィルターの目詰まりや結露などの影響で、実際にはもう少し低くなります)。

全熱交換器により削減された後の水分流入量:

実質的な水分流入量 = 2.7 kg/h × (1 - 0.66) = 0.9 kg/h

24時間では約22 kg/日の水分を除去すればよいことになります。全熱交換器により、除去すべき水分量が約42 kg/日(66%)削減されています。

対応する潜熱負荷は:

潜熱負荷 = 1,849W × (1 - 0.66) = 629W

これは24時間で約15kWh、月間で約467kWhのエネルギー消費になります。

全熱交換器により、約907kWh/月(約66%)のエネルギー削減ができていることになります。

シナリオ2:8月平均条件、稼働率75%

外気条件は同じですので、潜熱負荷も同じ629Wです。ただし、稼働時間が18時間/日(75%)と仮定します。

シナリオ3:酷暑時(35℃・70%RH)

同様に計算すると、酷暑時の外気条件(35℃、70%RH、絶対湿度25.1 g/kg)では:

全熱交換器ありの場合: - 換気による潜熱負荷:1,147W - 24時間で約28kWh、月間で約854kWh

3.5 内部発生による潜熱負荷

室内での水分発生による潜熱負荷も計算に含めます。

前提条件: - 内部発生:208 g/h(5 kg/日相当) - ただし、活動時間帯に集中すると考え、24時間平均では約104 g/h(50%)と推定

潜熱負荷の計算

潜熱負荷 [W] = (水分発生量 [g/h] / 1000) × 蒸発潜熱 [kJ/kg] / 3.6
            = (104 / 1000) × 2500 / 3.6
            = 72W

この内部発生による潜熱負荷は、シナリオ1~3すべてで同じです。

3.6 総除湿負荷とエネルギーコスト

それでは、3つのシナリオでの総エネルギーコストを理論計算してみましょう。

シナリオ1(最も現実的):8月平均、24時間、COP 2.5

総潜熱負荷(全熱交換器あり): - 換気:629W - 内部発生:72W - 合計:701W

エネルギー消費量

消費電力 = 701W ÷ 2.5 = 280W
日間消費量 = 280W × 24h = 6.7kWh/日
月間消費量 = 6.7kWh × 31日 = 209kWh/月

電気代(31円/kWh)

月額 = 209kWh × 31円 = 6,479円/月 ≈ 6,500円/月

夏季3か月(7~9月)では、約19,500円になります。

シナリオ2(楽観的):8月平均、75%稼働、COP 3.5

総潜熱負荷(全熱交換器あり): - 換気:629W - 内部発生:72W - 合計:701W

エネルギー消費量(稼働率75%)

消費電力 = 701W ÷ 3.5 = 200W
日間消費量 = 200W × 18h = 3.6kWh/日
月間消費量 = 3.6kWh × 31日 = 112kWh/月

電気代(31円/kWh)

月額 = 112kWh × 31円 = 3,472円/月 ≈ 3,500円/月

シナリオ3(酷暑時):35℃、24時間、COP 2.5

総潜熱負荷(全熱交換器あり): - 換気:1,147W - 内部発生:72W - 合計:1,219W

エネルギー消費量

消費電力 = 1,219W ÷ 2.5 = 488W
日間消費量 = 488W × 24h = 11.7kWh/日
月間消費量 = 11.7kWh × 31日 = 363kWh/月

電気代(31円/kWh)

月額 = 363kWh × 31円 = 11,253円/月 ≈ 11,300円/月

3.7 結果のまとめと考察

3つのシナリオの結果をまとめると:

シナリオ 外気条件 稼働条件 月間消費量 月額電気代
1(現実的) 8月平均(28.7℃・76%) 24h稼働、COP 2.5 209kWh 6,500円
2(楽観的) 8月平均(28.7℃・76%) 75%稼働、COP 3.5 112kWh 3,500円
3(酷暑時) 酷暑日(35℃・70%) 24h稼働、COP 2.5 363kWh 11,300円

この計算からわかること

  1. 前提条件が大きく影響する:外気条件、稼働時間、COPの設定により、結果は3倍程度変動します

  2. 実際の8月平均でも相応のコストがかかる:近年の温暖化により、8月の実際の平均気温(28.7℃)でも、24時間の除湿運転を行うと月6,500円(理論値)のコストが発生します

  3. 酷暑時のコストは非常に大きい:35℃を超える温度が日夜問わず続く極端なケースを想定すると、除湿だけで月11,300円(理論値)のコストになる可能性があります

注記: - これらの金額は、除湿だけにかかるコストの理論値です。温度を下げるためのコスト(顕熱)、日射取得、内部発熱は別途かかります - 実際の運用では、エアコンの間欠運転、部屋間の温湿度ムラ、制御誤差などにより、実際の消費電力は理論値より大きくなります - 実際の運用では、外気条件、稼働時間、モード選択などが日々変動するため、実際のコストはこれらの中間値になると考えられます


4. 顕熱と潜熱の比較:どちらが大きいのか

それでは、除湿(潜熱)と温度制御(顕熱)のエネルギーを比較してみましょう。

4.1 顕熱負荷の計算

顕熱負荷には、以下の2つの要素があります:

(1) 外皮貫流による熱侵入

外壁・屋根・床・窓などを通じて、外部の熱が室内に侵入します。

貫流熱負荷 [W] = UA値 [W/(m²·K)] × 外皮面積 [m²] × 温度差 [K]

シナリオ1(8月平均、28.7℃)

貫流熱負荷 = 0.55 × 463 × (28.7 - 26)
          = 0.55 × 463 × 2.7
          = 688W

シナリオ3(酷暑時、35℃)

貫流熱負荷 = 0.55 × 463 × (35 - 26)
          = 0.55 × 463 × 9
          = 2,292W

(2) 換気による顕熱負荷

換気により流入する外気を室内温度まで冷やすための負荷です。

全熱交換器あり(顕熱効率80%)の場合

シナリオ1(8月平均)

換気顕熱負荷 = 0.33 × 300 × 2.7 × (1 - 0.80)
            = 53W

シナリオ3(酷暑時)

換気顕熱負荷 = 0.33 × 300 × 9 × (1 - 0.80)
            = 178W

4.2 顕熱と潜熱の比較

それでは、各シナリオでの顕熱と潜熱を比較してみましょう:

シナリオ1:8月平均(28.7℃・76%RH)、全熱交換器あり

負荷の種類 備考
潜熱負荷(除湿) 701W 換気629W + 内部発生72W
外皮貫流(顕熱) 688W
換気顕熱 53W
総顕熱負荷 741W
総負荷 1,442W
潜熱比率 48.6% 約半分が除湿
潜熱/外皮貫流 102% 除湿が外皮貫流とほぼ同等

重要な発見:近年の実測データ(2020-2024年)に基づくと、8月平均条件では除湿負荷が外皮貫流による熱侵入とほぼ同等になります。

シナリオ3:酷暑時(35℃・70%RH)、全熱交換器あり

負荷の種類 備考
潜熱負荷(除湿) 1,219W 換気1,147W + 内部発生72W
外皮貫流(顕熱) 2,292W
換気顕熱 178W
総顕熱負荷 2,470W
総負荷 3,689W
潜熱比率 33.0%
潜熱/外皮貫流 53% 除湿は外皮貫流の半分強

酷暑時は、温度差が大きくなるため顕熱の比率が高くなりますが、それでも潜熱負荷は総負荷の33%を占めます。

4.3 考察:断熱等級を上げても減らないもの

ここで重要なのは、断熱等級を上げても、潜熱負荷は全く減らないということです。

仮に、UA値を0.55から0.35(断熱等級6~7相当)に改善したとしましょう:

シナリオ1の場合(8月平均)

項目 UA 0.55 UA 0.35 削減量
外皮貫流 688W 437W -251W
潜熱負荷 701W 701W 0W
総負荷 1,442W 1,191W -251W

断熱性能を大幅に改善しても、除湿負荷は全く減りません。結果として、総負荷に占める潜熱の割合は、さらに高くなります(48.6% → 58.9%)。

これは、高断熱化すればするほど、相対的に除湿負荷の重要性が増すことを意味します。


5. 全熱交換器の効果

前節の計算では、すべて全熱交換器ありの場合を示しました。それでは、全熱交換器がない場合、どれだけコストが増えるのでしょうか。

5.1 全熱交換器なしの場合

シナリオ1(8月平均、24時間稼働)で、全熱交換器がない場合を計算してみます。

潜熱負荷(全熱交換器なし): - 換気:1,849W(削減なし) - 内部発生:72W - 合計:1,921W

エネルギー消費量

消費電力 = 1,921W ÷ 2.5 = 768W
日間消費量 = 768W × 24h = 18.4kWh/日
月間消費量 = 18.4kWh × 31日 = 571kWh/月
月額電気代 = 571kWh × 31円 = 17,701円/月 ≈ 17,700円/月

全熱交換器ありとの比較: - 消費量差:571 - 209 = 362kWh/月 - 電気代差:17,700 - 6,500 = 11,200円/月 - 夏季3か月(7~9月):33,600円

全熱交換器の有無で、夏季の除湿だけで約3.4万円(理論値)の差が出ることになります。


6. まとめ:断熱だけでは解決しない夏の冷房費

この計算から、以下のことが明らかになりました:

  1. 除湿は大きなエネルギーコスト

    • 8月平均条件で月6,500円(理論値、全熱交換器あり、24時間稼働)
    • 酷暑時には月11,300円(理論値)に達する可能性
  2. 近年の温暖化の影響

    • 8月の実測平均(2020-2024年)は30年平均より約2℃高い
    • この結果、除湿負荷が外皮貫流とほぼ同等になる
  3. 断熱等級を上げても除湿負荷は減らない

    • 潜熱負荷は換気と内部発生由来
    • UA値を改善しても、潜熱には効果なし
  4. 全熱交換器の効果は絶大

    • 潜熱負荷を約66%削減
    • 夏季だけで約3.4万円(理論値)の除湿コスト削減

7. おわりに

高断熱住宅に住んでみて、冬は確かに暖房費が抑えられていると実感しています。しかし、夏の冷房費については、断熱性能だけでは解決できない課題があることがわかりました。

特に、除湿にかかるエネルギーコストは想像以上に大きく、断熱等級を上げても全く削減できません。むしろ、高断熱化すればするほど、相対的に除湿負荷の重要性が増していきます。

近年の温暖化により、8月の実際の平均気温は30年平均より約2℃も高くなっています。この結果、除湿負荷は外皮からの熱侵入とほぼ同等になっており、もはや無視できない要素となっています。

住宅を設計する際、断熱等級ばかりに注目するのではなく、全熱交換型の換気システムや日射遮蔽にも十分な配慮をすることが、本当の省エネ住宅を実現する鍵だと感じています。

この記事が、これから家を建てる方、リフォームを検討されている方の参考になれば幸いです。


Appendix A: 計算に使用した式と定数

A.1 絶対湿度の計算

絶対湿度(空気1kgあたりの水蒸気量 [g/kg])は、以下の式で計算します:

x = 0.622 × Pv / (P - Pv) × 1000

ここで: - x:絶対湿度 [g/kg] - Pv:水蒸気圧 [Pa] - P:大気圧 [Pa](標準大気圧 = 101,325 Pa

水蒸気圧は、温度と相対湿度から以下のように計算します:

Pv = (RH / 100) × Ps(T)

ここで: - RH:相対湿度 [%] - Ps(T):温度Tにおける飽和水蒸気圧 [Pa]

飽和水蒸気圧は、Antoine式を使用:

Ps(T) = 610.78 × exp(17.27 × T / (T + 237.3))

A.2 潜熱負荷の計算

換気による潜熱負荷 [W] は、以下の式で計算します:

潜熱負荷 = 833 × V × Δx

ここで: - V:換気量 [m³/h] - Δx:外気と室内の絶対湿度差 [kg/kg] - 833:係数 [W/(m³/h)/(kg/kg)]

この係数は、以下から導かれます:

833 = 空気密度 [kg/m³] × 蒸発潜熱 [kJ/kg] / 3.6
    = 1.2 × 2500 / 3.6
    = 833.3 ≈ 833

A.3 顕熱負荷の計算

外皮貫流による顕熱負荷

Q = UA × A × ΔT

ここで: - Q:熱負荷 [W] - UA:熱貫流率 [W/(m²·K)] - A:外皮面積 [m²] - ΔT:内外温度差 [K]

換気による顕熱負荷

Q = 0.33 × V × ΔT

ここで: - V:換気量 [m³/h] - ΔT:内外温度差 [K] - 0.33:係数 [W/(m³/h)/K]

この係数は、以下から導かれます:

0.33 = 空気密度 [kg/m³] × 比熱 [kJ/(kg·K)] / 3.6
     = 1.2 × 1.005 / 3.6
     = 0.335 ≈ 0.33

Appendix B: 計算例

B.1 シナリオ1の詳細計算

外気条件: - 温度:28.7℃ - 相対湿度:76.2% - 絶対湿度:19.0 g/kg

室内条件: - 温度:26℃ - 相対湿度:55% - 絶対湿度:11.6 g/kg

Step 1: 換気による潜熱負荷(全熱交換器なし)

潜熱負荷 = 833 × 300 × (0.0190 - 0.0116)
        = 833 × 300 × 0.0074
        = 1,849W

Step 2: 全熱交換器の効果(潜熱効率66%)

潜熱負荷(HEXあり) = 1,849 × (1 - 0.66)
                   = 1,849 × 0.34
                   = 629W

Step 3: 内部発生による潜熱負荷

内部発生 = (104 g/h / 1000) × 2500 kJ/kg / 3.6
        = 0.104 × 2500 / 3.6
        = 72W

Step 4: 総潜熱負荷

総潜熱負荷 = 629 + 72 = 701W

Step 5: エネルギーコスト(COP 2.5)

消費電力 = 701 / 2.5 = 280W
日間消費量 = 280 × 24 = 6.7kWh/日
月間消費量 = 6.7 × 31 = 209kWh/月
月額電気代 = 209 × 31円 = 6,479円/月

B.2 顕熱負荷の計算

外皮貫流

貫流熱負荷 = 0.55 × 463 × (28.7 - 26)
          = 0.55 × 463 × 2.7
          = 688W

換気顕熱(全熱交換器あり、顕熱効率80%)

換気顕熱負荷 = 0.33 × 300 × 2.7 × (1 - 0.80)
            = 0.33 × 300 × 2.7 × 0.20
            = 53W

総顕熱負荷

総顕熱負荷 = 688 + 53 = 741W

総負荷と潜熱比率

総負荷 = 701 + 741 = 1,442W
潜熱比率 = 701 / 1,442 = 48.6%

参考文献

  1. 気象庁「過去の気象データ検索」https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/
  2. 空気調和・衛生工学会「空気調和・衛生工学便覧」
  3. 国土交通省「住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する建築主の判断の基準」
  4. 全熱交換器の性能に関する研究論文(空気調和・衛生工学会論文集)
  5. 住宅の内部発熱・発湿に関する調査研究(建築学会論文集)

※本記事の計算は、筆者の理解と仮定に基づくものであり、実際の値とは異なる場合があります。個別具体的な計算が必要な場合は、専門家にご相談ください。

HDD/CDDで見る冷暖房需要の真実(後編):断熱性に関連した冷暖房負荷の計算

アイキャッチ

はじめに:前編の概要

前編では、HDD/CDDの基本概念と気候データ分析を見てきました:

building-dream-home.hatenablog.com

前編の重要ポイント

  • HDD(暖房度日)、CDD(冷房度日)は冷暖房需要を定量化する指標
  • 気候変動で冬は暖かく(HDD−8.7%)、夏は猛暑化(CDD約2倍)
  • しかし、依然として暖房需要が圧倒的(東京で4.6倍、札幌で54.8倍)

後編では、HDD/CDDから理論上の冷暖房負荷を計算し、家づくりへの実践的な示唆を導き出します。


HDD/CDDの前提条件と計算結果の解釈

まず最初に、この記事全体の重要な前提を説明します。

HDD/CDDから冷暖房負荷を計算する前に、この指標の前提を把握することで、計算結果をより正確に解釈できるようになります。

HDD/CDDが想定する住まい方

HDD(18)/CDD(24)の計算には、以下の前提条件があります:

1. 家全体を24時間一定温度に保つ

  • 冬季:家全体を常に20℃に維持
  • 夏季:家全体を常に26℃に維持
  • すべての部屋、すべての時間帯で同じ温度

2. 基準温度の設定根拠

前編で説明したように、HDD18、CDD24という基準温度は、以下の考え方に基づいています:

HDD18(暖房度日の基準18℃)の意味: * 外気温が18℃のとき、内部発熱(人・家電・照明)と日射取得により、無暖房でも室温約20℃を維持できる * つまり、外気温18℃以下になると暖房が必要という設定

CDD24(冷房度日の基準24℃)の意味: * 外気温が24℃のとき、内部発熱と日射の影響を受けても、無冷房で室温約26℃を保てる * つまり、外気温24℃以上になると冷房が必要という設定

これらの基準温度は、「家全体を24時間快適な温度に保つ」という理想的な全館空調を前提としています。

実際の住まい方との違い

しかし、実際の生活は、この前提とは大きく異なります。

(1)実際の室内温度

多くの家庭では: * 冬季:20℃に達していない(暖房を控えめにする、朝晩だけ暖房、など) * 夏季:26℃を超えている(節電のため設定温度を高めにする、など)

例えば、冬に居間を20℃にしても、寝室や廊下は15℃程度という家も多いでしょう。夏に冷房を28℃設定にしている家も珍しくありません。

環境省の調査(令和4年度)によると、夏の暑い時期の平日におけるエアコン(1台目)の使用時間分布は下のグラフの通りです。

エアコンの使用時間

この分布から、8時間未満の使用が約45.5%を占め、24時間連続運転はわずか8.5%と、多くの家庭が間欠運転を行っている実態が示されています。

また、環境省の「家庭部門のCO2排出実態統計調査」(令和4年度)によると、日本の家庭における冷房設定温度は最頻値は28℃で全体の30.5%を占め、27℃が29.0%でこれに続きます。全体として、26度より高め、省エネ寄りの温度設定になっています。

冷房温度設定

一方で、暖房については22℃以上に設定している世帯が約65%を占め、想定よりも高め(エネルギーをより消費)と、暖房が控えめという印象とは真逆の結果になりました。データが無いので何とも言えませんが、高い温度で短期間だけ動かすことで一気に温度をあげる、といった使い方をされているのかもしれません。

暖房温度設定

(2)局所空調 vs 全館空調

HDD/CDDの計算では、屋内の温度を一つの基準温度で代替します。言い換えれば、朝から晩まで24時間の間屋内の温度ははどこでも均一と言っているのと同じですから、居室だけでなく廊下や玄関も含めた全館空調を24時間行っている場合に対応していると考えて良いでしょう。

  • 全館空調:すべての部屋を同じ温度に保つ
  • 局所空調:使用している部屋だけを冷暖房する

実際には局所空調を間欠的に行っている家が多く、その場合:

  • 冷暖房している面積が家全体より小さい
  • 冷暖房していない時間帯がある(就寝中、外出中など)

となります。全館空調を推しているハウスメーカーの中では、新築における全館空調の割合が、

など、採用率が高いところもありますが、日本全体の戸建て住宅に占める全館空調の割合は5~10%未満と推定され、90%以上の家庭は局所空調を採用しているようです。うさぎラクダハウスのように、システムとしては局所空調ですが、空間を開放的にとり、ドアも開けた状態で常時エアコンをかける+一種換気で、家全体の気温を一定に保とうと試みている家もあるとは思いますが、まだまだ局所間欠型空調が一般的のようです。

実際の冷暖房負荷は、みなさんそれぞれのライフスタイルによりますが、「標準的な使い方」として局所・間欠的空調を想定した場合には、外皮の性能に対応した冷暖房負荷は、HDD/CDDから計算した値よりも大幅に小さくなります。

HDD/CDD計算で測れるもの・測れないもの

HDD/CDDは「外皮を通じた熱移動」を計算するために使う指標です。しかし、家全体の熱エネルギーの出入りを考える上では、換気(および気密性に関連した漏気)、日射取得、人間や家電が出す熱(内部発熱)など、外皮を通じた熱移動以外の要素も大きな役割を果たします。

このため、上で触れた、局所・間欠空調と24時間全館空調の違いとあわせて、HDD/CDDに基づいて計算した冷暖房負荷と、実際の冷暖房負荷の間には大きな違いがあるのが一般的です。

外皮を通じた熱移動に関連する冷暖房負荷

局所・間欠空調を採用していたり、冷房の設定温度が高かったり、暖房の設定温度が低かったりすると、HDD/CDDに基づいた理論的な冷暖房負荷よりも、実際の外被からの熱損失に対応する冷暖房負荷が小さくなります。従って、こうした条件を満たす多くの家庭では、HDD/CDDに基づく計算は、外皮からの熱損失の理論的上限の役割を果たしています。

家全体の冷暖房負荷との関係

外被以外の熱の出入りの大きな要素である換気、日射取得、内部発熱の3つの要素のうち、換気がもたらす冷暖房負荷は、外皮関連の冷暖房負荷と同じで夏は冷房負荷、冬は暖房負荷をもたらす方向ですが、日射取得と内部発熱は常に熱を取り入れる方向に働きます。このため、屋外が寒い冬には、外皮からの熱損失を部分的に補い、家全体の暖房負荷を低減する働きがあります。逆に屋外が暑い夏は、外皮からの熱流入に加えて、日射や内部発熱による熱が加わることから、冷房負荷が増えることになります。

これらを総合的に勘案すると、

  • 家全体の暖房負荷 = 外皮からの熱損失 +換気・漏気の熱損失- 日射取得 - 内部発熱

となります。換気の熱損失は、日射取得と内部発熱の合計に比べて小さいことが多く、家全体の暖房負荷は、外皮からの熱損失(暖房負荷)よりも大幅に小さくなるのが一般的です。このため、冬のHDD計算は、実際の総暖房負荷の(かなり上振れした)上限値となると考えて良いでしょう。

これに対して、

  • 家全体の冷房負荷 = 外皮からの熱取得 + 換気・漏気の熱取得 + 日射取得 + 内部発熱

となり、どの項目も冷房負荷を増やす方向に働きます。このため、実際の外被からの熱取得がCDD計算で示された理論値より小さかったとしても、その他の項目の影響で、家全体の冷房負荷は大幅に大きくなります。なおここでは、簡単のため、潜熱・顕熱をまとめて換気・漏気として扱っています。各項目のインパクトについては別の記事で試算をご紹介します。

【図表1:熱収支の概念図(推奨)】

┌─────────────────────────────────────┐
│ 冬(暖房期)の熱収支              │
│                                     │
│ 実際の暖房負荷 =                    │
│   外皮からの熱損失(HDD計算)      │
│   - 日射取得 ▼                     │
│   - 内部発熱 ▼                     │
│   + 換気・漏気による負荷                                  │
│                                     │
│ HDD計算 > 実際の総暖房負荷        │
└─────────────────────────────────────┘

┌─────────────────────────────────────┐
│ 夏(冷房期)の熱収支              │
│                                     │
│ 実際の冷房負荷 =                    │
│   外皮からの熱取得(CDD計算)      │
│   + 日射取得 ▲                     │
│   + 内部発熱 ▲                     │
│   + 換気・漏気による負荷 ▲                     │
│                                     │
│ CDD計算 ≪ 実際の総冷房負荷        │
└─────────────────────────────────────┘

※ この図は、冬と夏で日射・内部発熱の働きが正反対であることを視覚的に示しています。

HDD/CDD計算の正しい使い方

では、HDD/CDD計算はどう活用すべきでしょうか?

非常に有用な使い方

  1. 地域間の比較
  2. 東京と札幌で外皮を通じた熱移動が何倍違うか
  3. 冬も夏も、外皮性能の重要度を地域ごとに比較できる

  4. 気候変動のトレンド

  5. 年次変化を定量的に把握
  6. 「今年は寒かった/暑かった」を数値で確認

  7. 断熱性能向上の効果試算

  8. UA値を改善したときの外皮分の削減効果
  9. 地域ごとの効果の違いを比較

誤った使い方(注意!)

実際の電気代の予測 * 特に冷房費は、CDD計算だけでは大幅な過小評価 * 暖房費も、HDD計算は過大評価(上限値)


HDD, CDDと冷暖房負荷の関係

理論的な関係式

それでは、前節で説明した前提を踏まえたうえで、HDD/CDDから冷暖房負荷を計算する基本的な考え方を見ていきます。

基本式:熱損失量

建物から熱が逃げる(または入ってくる)量は、以下の式で表されます:

熱損失量 Q [W] = 熱損失係数 H [W/K] × 温度差 ΔT [K]

ここでKは、ケルビンという温度の単位を表しますが、この記事の中では摂氏何℃の℃と同じものとして扱って頂いても同じ結果になります。

外皮を通じた熱損失の場合:

H = UA × A
  • UA:外皮平均熱貫流率 [W/m²K](断熱性能の指標)
  • A:外皮表面積 [m²](壁・屋根・窓の合計面積)

うさぎラクダハウス(UA値0.55、外皮表面積469m²)を例にすると、

  • H = 0.55 × 469 ≈ 258 W/K

これは「内外の温度差が1℃あると、258Wの熱が逃げる(または入ってくる)」ことを意味します。そして、この温度差が1℃の状態が1時間続くと、

258W/K × 1℃ × 1 hour = 258Wh

の熱量が逃げていく(または入ってくる)ことになります。

HDD/CDDを用いた年間負荷の近似式

HDD/CDDは「温度差の積算」なので、これを使えば外被からの年間の熱損失量を概算できます:

年間暖房負荷 Q_h ≈ H × HDD × 24 [Wh]
              ≈ (UA × A) × HDD × 24 / 1000 [kWh]

単位換算

計算で使う単位換算: * 1℃·日(度日)= 24℃·h(度時) * 熱量 [kWh] ÷ COP = 電力量 [kWh]

COPとは?

COP(Coefficient of Performance:成績係数)は、冷暖房機器のエネルギー効率を表す指標です。「1kWhの電力を使って、何kWhの冷暖房能力(熱エネルギー)を得られるか」を示す数値で、値が大きいほど効率が良いことを意味します。

  • エアコン:暖房COP 2.5~4.0、冷房COP 3.0~5.0程度
    • 例:COP 3.0のエアコンは、1kWhの電力で3kWhの冷暖房能力を発揮
  • 電気ヒーター:COP = 1.0(電力をそのまま熱に変換)

エネルギー保存の法則をご存じの方は、「COPが1を超えるのはおかしいのでは?」と疑問に思われるかもしれません。この秘密は、エアコンが採用しているヒートポンプという仕組みにあります。

電気ヒーターは電気エネルギーを熱エネルギーに直接変換するため、エネルギー保存則によりCOPは1を超えません。一方、ヒートポンプは熱を「作る」のではなく「運ぶ」装置です。外気や地中など、既に存在する熱を集めて室内に運び込む(暖房時)、あるいは室内の熱を外に運び出す(冷房時)ことで、投入した電力以上の熱を移動させることができます。電力は熱の生成ではなく、熱の運搬に使われるため、COPが1を大きく超えることが可能なのです。

計算例(ケーススタディ:うさぎラクダハウス)

実際の住宅を例に、HDD/CDDから冷暖房負荷を計算してみましょう。

想定条件

建物のSpec * UA値:0.55 W/m²K(断熱等級5) * 外皮表面積:468.96 m² * 延床面積:185㎡(約56坪) * 地域:6地域(関東地方、東京)

気候データ(東京2020-2024年平均) * HDD18 = 1,451℃·日 * CDD24 = 315℃·日 * HDD/CDD比 = 4.6(暖房需要が冷房需要の4.6倍)

期間の定義 * 暖房期:12月~2月(3ヶ月間、約90日) * 冷房期:6月~9月(4ヶ月間、約120日)

暖房負荷の計算

ステップ1:外皮熱損失係数の計算

H_e = UA × A = 0.55 × 468.96 ≈ 258 W/K

ステップ2:年間暖房負荷の計算(外皮分のみ)

Q_h_envelope = H_e × HDD18 × 24 / 1000
            = 258 × 1,451 × 24 / 1,000
            ≈ 8,980 kWh/年

これは「外皮を通じて逃げる熱量」の年間合計です。

ステップ3:エアコンCOPを考慮した電力量

エアコンは1kWhの電力で、COP倍のkWhの熱を生み出します。 仮に、熱量全てをエアコンから発生させる熱で賄うと仮定すると、

電力量 = Q_h / COP
       = 8,980 / 2.8  (暖房COP平均2.8と仮定)
       ≈ 3,207 kWh/年

となり、年間約3,200kWhの電力を使うことになります。

注意:前節で説明したとおり、この計算は実際の総暖房負荷の上限値です(日射・内部発熱が相殺するため)。実際の暖房負荷は、この数字の20~40%程度になることが多いです。

冷房負荷の計算

冷房負荷に関しても同様に計算してみましょう。

ステップ1:外皮熱取得係数(暖房と同じ)

H_e = 258 W/K

ステップ2:年間冷房負荷の計算(外皮分のみ)

Q_c_envelope = H_e × CDD24 × 24 / 1000
            = 258 × 315 × 24 / 1,000
            ≈ 1,950 kWh/年

ステップ3:エアコンCOPを考慮した電力量

電力量 = Q_c / COP
       = 1,950 / 3.5  (冷房COP平均3.5と仮定)
       ≈ 557 kWh/年

エアコンは冷房の方が暖房よりもCOPが高い(効率が良い)ため、電力量で見ると、HDD・CDDの比率以上に、外皮からの熱移動による電力消費の差が開くことになります。

重要な注意:前節で説明したとおり、夏は冬とは逆の関係になります:

  • 冬:HDD計算>実際の総暖房負荷(日射・内部発熱が相殺)
  • 夏:CDD計算≪実際の総冷房負荷(日射・内部発熱・除湿が追加)

したがって、CDD計算は実際の総冷房負荷の一部に過ぎません。実際の冷房負荷は、この計算値の2~4倍程度になることが多いです。これらの詳細な分析は別の記事で取り上げます。

計算結果のまとめ

項目 暖房 冷房 比率
HDD/CDD 1,451℃·日 315℃·日 4.6倍
熱負荷(外皮分) 8,980 kWh 1,950 kWh 4.6倍
電力量(COP考慮) 3,207 kWh 557 kWh 5.8倍

この表から分かること

  • HDD/CDD比と熱負荷比が一致している(4.6倍)
  • COPの違いにより、電力量比は5.8倍に拡大
  • 外皮性能の改善効果は、主に暖房期に現れる

計算例のまとめ

HDD/CDDを使うと、外皮性能から理論的な冷暖房負荷を概算できることが分かりました:

  • 東京、UA値0.55の住宅の場合
  • 年間暖房負荷(外皮分):約8,980 kWh
  • 年間冷房負荷(外皮分):約1,950 kWh

実際の負荷は日射・換気・内部発熱・除湿などの要因で変動しますが、HDD/CDD比(4.6倍)が外皮を通じた熱移動において暖房優位という構造を示している点が重要です。


HDD/CDDから分かること

ここまでで、HDD/CDDの基本概念と、それを使った冷暖房負荷の計算方法を見てきました。このセクションでは、HDD/CDDから何が分かるのか、どう活用できるのかを整理します。

前提の再確認:第1節で説明したとおり、HDD/CDDは外皮を通じた熱移動のみを計算し、冬と夏で意味が異なることに注意してください。

1. 地域の冷暖房需要の「構造」が見える

東京2020-2024年平均:

  • HDD18 = 1,451℃·日
  • CDD24 = 315℃·日
  • 比率: 暖房需要は冷房需要の4.6倍

この数値から分かること:

  • 外皮を通じた熱移動では、東京でも「冬の暖房 > 夏の冷房」
  • 体感的には「夏が厳しい」と感じても、熱の物理では冬の方が大きい
  • 断熱性能の向上は、主に暖房費削減に効く

2. 地域間の比較が定量的にできる

地域 HDD18 CDD24 暖房需要比 冷房需要比
東京 1,451 315 1.0 1.0
札幌 3,236 59 2.2倍 0.2倍

札幌は東京の2.2倍の暖房が必要だが、冷房は1/5以下:

  • 寒冷地で断熱等級が厳しい理由
  • 地域区分ごとのUA値基準の根拠

地域比較の棒グラフ

3. 気候変動のトレンドを数値で把握できる

東京の変化(1995年→2020-2024年):

  • 暖房需要: 1,590 → 1,451 (-8.7%)
  • 冷房需要: 154 → 315 (+104.5%、約2倍)

この30年で:

  • 冬は温暖化(暖房需要減)
  • 夏は猛暑化(冷房需要倍増)
  • ただし、依然として暖房需要の方が大きい(4.6倍)

札幌の変化(1995年→2020-2024年):

  • 暖房需要: 3,613 → 3,236 (-10.4%)
  • 冷房需要: 0 → 59 (冷房需要が出現)
  • 「北海道は冷房不要」は過去の常識

4. 断熱性能向上の効果を試算できる

HDD/CDDを使えば、断熱改善の効果を地域差・冷暖房別に比較できます。

計算の前提

建物条件(うさぎラクダハウスと同じ)

  • 外皮表面積:468.96 m²
  • UA値の改善:0.55 → 0.46(断熱等級5 → 等級6相当)
  • 削減率:(0.55 - 0.46) / 0.55 = 16%

エアコン効率

  • 暖房COP:2.8(年間平均)
  • 冷房COP:3.5(年間平均)

東京の場合(HDD18 = 1,451℃·日、CDD24 = 315℃·日)

暖房負荷の削減効果

現状の暖房負荷(UA0.55):8,980 kWh/年
削減される暖房負荷:8,980 × 0.16 = 1,437 kWh/年
削減される電力量:1,437 / 2.8 = 513 kWh/年
年間削減金額(@30円/kWh):約15,400円

冷房負荷の削減効果

現状の冷房負荷(UA0.55、外皮分):1,950 kWh/年
削減される冷房負荷:1,950 × 0.16 = 312 kWh/年
削減される電力量:312 / 3.5 = 89 kWh/年
年間削減金額(@30円/kWh):約2,700円

東京での合計削減効果

  • 電力量削減:513 + 89 = 602 kWh/年
  • 金額削減:約18,100円/年
  • 暖房:冷房 = 513:89 = 5.8:1

削減効果の解釈

この計算結果をどう見るべきでしょうか?

記事の冒頭で説明したとおり、この計算は外皮を通じた熱移動のみを対象としています:

暖房削減(513 kWh/年、約15,400円/年)

  • これは実際の総暖房負荷削減の上限値
  • 日射・内部発熱があるため、実際の削減効果はもっと小さい
  • 全館空調なら近い値、局所空調ならさらに小さい

冷房削減(89 kWh/年、約2,700円/年)

  • これは外皮分の削減のみ
  • 実際の総冷房負荷には、日射・内部発熱・除湿が支配的
  • 外皮性能改善の冷房への効果は限定的

合計削減効果(約18,100円/年)の意味

  • うさぎラクダハウスの年間冷暖房費(約135,000円)の約13%に相当
  • ただし、これは理論上の上限値(特に暖房分)
  • 断熱等級を1つ上げる追加コストを考えると、その回収には長い年月が必要
  • 実際の削減効果はこれより小さいため、投資回収はさらに困難

多くの方が断熱性能向上に期待する経済効果と比べると、意外に小さいと感じられるのではないでしょうか。

面積による削減効果のスケーリング

外皮性能の計算で見たように、他の条件(気候、家の形状、UA値など)が同じであれば、家の熱損失は外皮表面積に比例します。外皮表面積は床面積にほぼ比例するため、削減効果も床面積に比例すると考えられます。

例えば、うさぎラクダハウスと同じ形状・UA値で、床面積が35坪(約116㎡)のケースを考えると、削減金額の理論的上限は11,400円となります。

札幌の場合(HDD18 = 3,236℃·日、CDD24 = 59℃·日)

札幌の場合は断熱等級の区分が異なるので、等級5と6の比較であれば違うUA値を使わなければいけないのですが、ここでは東京との比較を容易にするため、UA値0.55→0.46のままで試算をすることにします。

暖房負荷の削減効果

現状の暖房負荷(UA0.55):258 × 3,236 × 24 / 1000 = 20,040 kWh/年
削減される暖房負荷:20,040 × 0.16 = 3,206 kWh/年
削減される電力量:3,206 / 2.8 = 1,145 kWh/年
年間削減金額(@30円/kWh):約34,400円

冷房負荷の削減効果

現状の冷房負荷(UA0.55、外皮分):258 × 59 × 24 / 1000 = 365 kWh/年
削減される冷房負荷:365 × 0.16 = 58 kWh/年
削減される電力量:58 / 3.5 = 17 kWh/年
年間削減金額(@30円/kWh):約500円

札幌での合計削減効果 - 電力量削減:1,145 + 17 = 1,162 kWh/年 - 金額削減:約34,900円/年 - 暖房:冷房 = 1,145:17 = 67:1

地域比較のまとめ

項目 東京 札幌 札幌/東京比
暖房削減 513 kWh/年 1,145 kWh/年 2.2倍
冷房削減 89 kWh/年 17 kWh/年 0.2倍
合計削減 602 kWh/年 1,162 kWh/年 1.9倍
金額削減 約18,100円/年 約34,900円/年 1.9倍
暖房:冷房 5.8:1 67:1 -

この表から分かること

  • 寒冷地ほど断熱性能向上の効果が大きい(札幌は東京の1.9倍)
  • 効果のほとんどは暖房費削減(東京で85%、札幌で99%)
  • 冷房負荷削減は相対的に小さい(東京で15%、札幌で1%)
  • 地域のHDD/CDD比がそのまま削減効果の比率に反映される

5. 年次変動を評価できる

「今年の冬は寒かった」という実感を定量化:

  • 2022年(HDD18=1,606):例年並み
  • 2023年(HDD18=1,326):暖冬(−17%)

自分の地域のHDDを毎年計算すれば、「なぜ今年は電気代が高い/安いのか」を客観的に説明できます。

HDD/CDDが表現するもの

HDD/CDDは外皮(壁・屋根・床・窓)を通じた熱の出入り定量化する指標です。

HDD/CDDに含まれるもの

  • 外気温と室温の差による熱伝導
  • 温度差が大きいほど、また長期間続くほど、HDD/CDDは大きくなる
  • 外皮の断熱性能(UA値)と掛け算することで、熱損失・熱取得を計算できる

HDD/CDDに含まれないもの

  • 日射:窓から入る太陽熱(冬は暖房負荷を軽減、夏は冷房負荷を増大)
  • 換気:空気の入れ替えによる熱の出入り
  • 内部発熱:人体・家電・照明からの発熱(冬は暖房負荷を軽減、夏は冷房負荷を増大)
  • 除湿:湿度制御に必要なエネルギー(特に夏季に重要)

したがって、HDD/CDDから計算する冷暖房負荷は、外皮性能に起因する部分のみとなります。実際の冷暖房負荷は、これに上記の要素が加減されます。


まとめ

この記事では、HDD(暖房度日)とCDD(冷房度日)という指標を用いて、日本の冷暖房需要の実態を定量的に分析しました。

HDD/CDDは、外気温と基準温度の差を年間で積算することで、外皮を通じた熱移動を定量化する指標です。日本では一般的にHDD18(基準18℃)とCDD24(基準24℃)が使われます。気象庁のデータを使えば、読者自身が自分の地域のHDD/CDDを計算できます(Appendix参照)。

分析の結果、東京では暖房需要(HDD18=1,451)が冷房需要(CDD24=315)の4.6倍、札幌では54.8倍にも達することが分かりました。気候変動により、東京のCDDは過去30年で約2倍に増加しましたが、それでも外皮を通じた熱移動では暖房需要が圧倒的に大きいのです。

この事実から導かれる最も重要な結論は、UA値(断熱性能)の改善効果を評価する際は、暖房費削減を重視すべきということです。UA値の改善は外皮を通じた熱移動を減らすため、その効果は主に暖房期に現れます。東京でUA値を0.55から0.46に改善した場合、暖房負荷の削減効果は冷房の4.6倍になります。

一方、冷房負荷については注意が必要です。HDD/CDDが捉えるのは外皮を通じた熱移動のみで、実際の冷房負荷の一部に過ぎません。、冷房対策に影響を与える要因についても別の記事で定量的に分析をしてみたいと思います。

この記事が、皆さんの家づくりの一助となれば幸いです。


Appendix

このAppendixでは、本文で簡略化した内容を、読者が自分で計算・検証できるレベルまで詳しく示します。

A. 理論的背景:HDD/CDDと熱収支式の関係

A.1 基本的な熱収支式

定常状態の熱収支式(暖房期)

暖房負荷 Q_h [W] = 熱損失 - 熱取得
             = (外皮伝熱 + 換気損失 + 漏気損失) - (日射取得 + 内部発熱)
             = (H_e + H_vent + H_inf) × ΔT - (Q_sol + Q_int)

注意(暖房): - HDD/CDDから計算できるのは「H_e × ΔT」の部分(外皮伝熱)のみ - 日射取得と内部発熱が負の項として働くため、HDD計算は総暖房負荷の上限値となる

定常状態の熱収支式(冷房期)

冷房負荷 Q_c [W] = 熱取得
             = (外皮伝熱 + 日射取得 + 内部発熱 + 換気取得 + 漏気取得 + 除湿負荷)
             = H_e × ΔT + Q_sol + Q_int + (H_vent + H_inf) × ΔT + Q_dehum

注意(冷房): - CDD/CDDから計算できるのは「H_e × ΔT」の部分(外皮伝熱)のみ - 日射取得と内部発熱と除湿が正の項として働くため、CDD計算は総冷房負荷の一部のみ

A.2 各項の定義と計算式

外皮熱損失係数 H_e [W/K]

H_e = UA × A
  • UA:外皮平均熱貫流率 [W/m²K]
  • A:外皮表面積 [m²]

換気熱損失係数 H_vent [W/K]

H_vent = ρ × c × V × n_vent × (1 - η_HEX)
      ≈ 0.33 [W·h/m³K] × V × n_vent × (1 - η_HEX)
  • ρ:空気密度 ≈ 1.2 kg/m³
  • c:空気比熱 ≈ 1.0 kJ/kgK
  • V:室容積 [m³]
  • n_vent:換気回数 [回/h]
  • η_HEX:熱交換効率(第一種:0.7、第三種:0)

漏気熱損失係数 H_inf [W/K]

H_inf ≈ 0.33 × V × n_inf
  • n_inf:漏気回数 [回/h](C値から推定)

A.3 HDD/CDDとの関係

HDD/CDDの定義

HDD_base = Σ max(0, T_base - T_avg_d) [℃·日]
CDD_base = Σ max(0, T_avg_d - T_base) [℃·日]

年間暖房負荷の簡易推定

Q_h_annual ≈ (H_e + H_vent + H_inf) × HDD × 24 [Wh]
           ≈ H_total × HDD × 24 / 1000 [kWh]

注意:この式は日射取得・内部発熱を考慮していないため、実際より過大評価となる

A.4 単位系の整理

物理量 単位 換算
度日(Degree Day) ℃·日 1℃·日 = 24℃·h
熱損失係数 W/K -
熱量 Wh, kWh 1kWh = 3,600kJ = 3.6MJ
電力量 kWh 熱量 [kWh] ÷ COP

B. 東京・札幌の実測例(2020-2024年)

B.1 データソース

B.2 計算条件

  • 基準温度:HDD18、CDD24(日本標準)
  • 集計:日次データを年次で合計
  • 欠測処理:線形補間(3日以内)、それ以上は除外

B.3 計算結果(再掲)

東京

HDD18 CDD24 HDD/CDD比
2020 1,512.0 252.5 6.0
2021 1,414.2 202.0 7.0
2022 1,606.3 291.6 5.5
2023 1,325.6 417.1 3.2
2024 1,396.8 413.3 3.4
平均 1,451.0 315.3 4.6

札幌

HDD18 CDD24 HDD/CDD比
2020 3,300.4 33.2 99.4
2021 3,250.7 72.4 44.9
2022 3,243.8 13.4 242.2
2023 3,162.4 122.3 25.9
2024 3,221.5 53.5 60.2
平均 3,235.8 59.0 54.8

D. データ再現手順(ExcelまたはPython

D.1 Excelでの計算方法

ステップ1:気象庁からCSVダウンロード 1. 気象庁「過去の気象データ・ダウンロード」にアクセス 2. 地点を選択(例:東京) 3. 期間を指定(例:2020年1月1日~2024年12月31日) 4. 項目:日平均気温を選択 5. CSVでダウンロード 6. 文字コードShift_JIS、先頭3-4行はヘッダー

ステップ2:HDD18の計算 - B列:日平均気温 - C列(HDD18):=MAX(0, 18-B2) - 下にオートフィル

ステップ3:CDD24の計算 - D列(CDD24):=MAX(0, B2-24) - 下にオートフィル

ステップ4:年間合計 - 年ごとにSUM関数で集計 - 例:=SUMIFS(C:C, A:A, ">=2020/1/1", A:A, "<=2020/12/31")

D.2 Pythonでの計算方法

import pandas as pd
import numpy as np

# データ読み込み
df = pd.read_csv("tokyo_2020-2024.csv", encoding="shift_jis", skiprows=3)

# 日付・気温の列を選択
data = df[['年月日', '日平均気温(℃)']].copy()
data.columns = ['date', 'temp']

# データ型変換
data['date'] = pd.to_datetime(data['date'], errors='coerce')
data['temp'] = pd.to_numeric(data['temp'], errors='coerce')
data = data.dropna()

# 年の列を追加
data['year'] = data['date'].dt.year

# HDD/CDD計算
data['HDD18'] = np.maximum(0, 18 - data['temp'])
data['CDD24'] = np.maximum(0, data['temp'] - 24)

# 年次集計
yearly = data.groupby('year').agg({
    'HDD18': 'sum',
    'CDD24': 'sum',
    'date': 'count'
}).round(1)
yearly.columns = ['HDD18', 'CDD24', 'days']

print(yearly)

D.3 グラフ化

Excelでの作成 - HDD/CDDの年次推移:折れ線グラフ - 1995年基準との比較:積み上げ棒グラフ

Pythonでの作成

import matplotlib.pyplot as plt

fig, (ax1, ax2) = plt.subplots(1, 2, figsize=(12, 5))

# HDD18の推移
ax1.plot(yearly.index, yearly['HDD18'], marker='o', label='HDD18')
ax1.axhline(y=1590, color='r', linestyle='--', label='1995年基準')
ax1.set_xlabel('Year')
ax1.set_ylabel('HDD18 [℃·日]')
ax1.legend()
ax1.grid(True)

# CDD24の推移
ax2.plot(yearly.index, yearly['CDD24'], marker='o', label='CDD24')
ax2.axhline(y=154, color='r', linestyle='--', label='1995年基準')
ax2.set_xlabel('Year')
ax2.set_ylabel('CDD24 [℃·日]')
ax2.legend()
ax2.grid(True)

plt.tight_layout()
plt.savefig('HDD_CDD_trend.png', dpi=150)
plt.show()

F. 参考文献・データソース


HDD/CDDで見る冷暖房需要の真実(前編):基本概念と気候データ分析

アイキャッチ

はじめに

断熱性能をめぐる素朴な疑問

断熱性の重要性については言うまでもありません。しかし、実際に家づくりを考えると、こんな疑問が浮かびませんか:

性能に関する根本的な疑問

  • 「結局のところ、断熱性能ってどの程度あればいいのか?」
  • 「断熱等級を1つ上げると、実際どのくらい違いが出るのか?」
  • 「性能向上のコストに見合う効果は本当にあるのか?」

私もその一人です。しかし、UA値の数字を見ても、実のところ全く実感が湧きません。そうなると、もうゲームのスコアと同じ。スコアが良い方がいいに決まっている、と数字を追求する悪癖にとらわれそうになります。

夏と冬、どちらを重視すべきか?

断熱性の基準は、伝統的に「冬の寒さを防ぐこと」を前提に設計されています。実際、HEAT20やZEH基準を見ても、寒冷地ほど厳しい断熱性能が求められています。

しかし、最近の酷暑を経験すると、違和感が生まれます:

  • 「断熱性が低い家は、夏がとても暑くなるのでは?」
  • 「むしろ夏に断熱性がどう機能するか、どの程度必要か、ということも重要なのでは?」
  • 「2023年、2024年の記録的猛暑を考えると、冷房対策こそ優先すべきでは?」

体感的には「夏の方が深刻」と感じる方も多いのではないでしょうか。

温暖化で変わる暖房需要

一方で、こんな疑問も浮かびます:

  • 「本当に温暖化しているとすれば、冬の暖房負荷は昔に比べて減っているのでは?」
  • 「1990年代の基準で設計された断熱性能は、2025年の気候に対して過剰なのでは?」
  • 「求められる断熱性について、なんらかの見直しが必要なのでは?」

「冬は暖かくなり、夏は猛暑化している」—これは多くの人が肌で感じていることです。だとすれば、30年前の気候データに基づく基準は、現在の気候に合っているのでしょうか?

数値で答える必要性

これらの疑問に、感覚ではなく客観的なデータで答える—それがこの記事の目的です。

今回は、こうした疑問を解決すべく、断熱性に関して私が調べたこと、考えたことをまとめてみなさんと共有したいと思います。

断熱性のおさらい

ご存じの方も多いと思いますが、この記事だけを読まれている方のために、改めて断熱性の基本的な特徴をご紹介します。

断熱性能とエネルギー負荷の関係

断熱性とは、家の冷暖房負荷を決めるいくつかの要因の一つです。具体的には、家の外皮(天井、床、壁、窓など)を通じて熱が外に逃げたり、外から入ってきたりするのを防ぐ性能を指します。

ただし、断熱性だけで冷暖房負荷が決まるわけではありません。空気の出入り(換気・漏気)や日射の影響は、断熱性能(UA値)では考慮されていません。

断熱性に関連する家の冷暖房負荷は、次のような関係で決まります:

冷暖房負荷 ∝ 断熱性能(UA値) × 家の表面積 × 内外の温度差

この式から分かるように、断熱性能と表面積が同じであれば、あとは家の内外の温度差で冷暖房負荷が決まります。

内外の温度差

上の関係式から、断熱性能と表面積が同じであれば、あとは家の内外の温度差で冷暖房負荷が決まります。

この内外の温度差を、地域ごとに表すための強力なツールが、HDD(暖房度日)とCDD(冷房度日)という指標です。

家の外の温度は、気象条件で決まります。地域によってこれが大きく違うので、補正するために地域区分を設けて要求される断熱性能の数字を変えているわけですね。

一方で、家の中の温度は、冷暖房シーズンに家の中を何度に保とうとするかで決まるので、家ごとに違います。温度設定だけでなく、局所冷暖房か全館空調か、といった違いも影響するため戸別に違います。このため、HDD、CDDを計算する際には、基準温度として一定の数字を使うことで標準化されています。

家の形は断熱性能と同じぐらい効く!

少し脱線しますが、家の形が同じであれば、家の表面積は家の床面積に比例します。従って、上の関係式によれば、UA値が0.4で40坪の家と、UA値が0.5で30坪の家を較べると、UA値が0.4の家の方がエネルギー損失が大きく(冬に寒く)なります。

更に、家の床面積と天井の高さが同じでも家の形が異なれば、表面積は変わってきます。最も表面積が小さいのは、敷地が正方形をしており総二階の家。表面積が大きくなるのは、敷地が細長い長方形、L字型、T字型などいびつな形をしている場合や、平屋の場合は表面積が大きくなるので、やはりエネルギー損失が大きくなります。特に平屋と総二階の差は大きく、25%ぐらいの差(UA値で補おうとすると、0.45と0.60ぐらいの差!!)がでることもあります。

外被を通じた熱の出入りを抑えることが目標であるならば、壁・床・窓・天井の材質・構造(UA値)と同程度以上に、家の形にも配慮をすべき、ということですね。

ちなみにうさぎラクダハウスは、細長い長方形を含むT字型をしている点はかなり不利なのですが、ほぼ総二階で少し救われています。

HDD/CDDで分かること

この指標を使えば:

1. 冬と夏、どちらの対策が重要か?

  • 東京と札幌で、暖房需要と冷房需要の比率はどうなっているのか?
  • 気候変動で、そのバランスは変化しているのか?

2. 気候は本当に変わったのか?

  • 1990年代と比べて、冬の暖房需要はどのくらい減ったのか?
  • 夏の冷房需要は、どのくらい増えたのか?
  • その変化は、断熱基準の見直しを必要とするほど大きいのか?

3. 断熱性能向上の効果はどこに現れるのか?

  • UA値(断熱性能)を改善すると、冬と夏でどちらの削減効果が大きいのか?
  • 断熱等級を上げる投資は、どこで回収されるのか?

この記事(前編)で分かること

1. HDD/CDDの基本

  • 用語の定義と計算方法
  • 基準温度の考え方(なぜHDD18℃、CDD24℃なのか?)
  • 日本における標準設定

2. 気候データの客観的分析

  • 東京・札幌の30年間の変化を定量
  • HEAT20の1995年基準値 vs 2020-2024年の実測データ
  • 重要な発見:冬は暖かく、夏は猛暑化している
  • しかし:依然として暖房需要が圧倒的(東京で4.6倍)

この記事全体の核心的メッセージ(予告)

後編では、HDD/CDDから冷暖房負荷を実際に計算して、冒頭の疑問に明確に答えます:

「夏と冬、どちらを重視すべきか?」 → 外皮を通じた熱移動は、暖房期が圧倒的に大きい(東京で4.6倍、札幌で54.8倍)

「温暖化で断熱性の重要性は変わったか?」 → 冬は暖かくなったが、それでも暖房需要は冷房の4.6倍。構造は変わっていない

「断熱性能向上の効果はどこに現れるのか?」UA値(断熱性能)の改善効果は、主に暖房費削減として現れる

それでは、まずHDD・CDDとは何かから見ていきましょう。


HDD, CDDとは

用語の定義

HDD(Heating Degree Days:暖房度日) - 外気温が基準温度より低い分を積算した値 - 「どれだけ暖房が必要だったか」を示す指標 - 単位:℃·日(度日)

CDD(Cooling Degree Days:冷房度日) - 外気温が基準温度より高い分を積算した値 - 「どれだけ冷房が必要だったか」を示す指標 - 単位:℃·日(度日)

この2つの指標は、気候の「厳しさ」を数値化するものです。数字が大きいほど、暖房・冷房がたくさん必要だった、ということを意味します。

基準温度の考え方

HDD/CDDを理解する上で重要なのが「基準温度」です。日本ではHDD18℃、CDD24℃が標準として使われていますが、なぜこの温度なのでしょうか?

なぜHDD18℃なのか?

想像してみてください。外気温が18℃のとき、家の中の暖房を切っても、意外と寒くないですよね。

これは、無暖房でも、内部発熱(人・家電・照明)と日射取得により、外気温より室温は高くなるからです。

一般的な住宅では: - 外気温18℃のとき → 内部発熱と日射で室温約20℃を維持できる - つまり外気温18℃以下になると暖房が必要という設定

なぜCDD24℃なのか?

同様に、外気温が24℃のとき、冷房なしでも比較的快適に過ごせます。

しかし、24℃を超えると: - 内部発熱と外皮からの熱侵入で室温が上昇 - 快適な室温(26℃程度)を保つために冷房が必要 - 外気温24℃以上で冷房が必要という設定

重要な注意点

これらの基準温度は、建物性能や生活スタイルで変動します。例えば: - 断熱性能が低い家:外気温がもっと高くても暖房が必要 - 内部発熱が多い家:基準温度がずれる

しかし、日本では比較の基準として標準化されています。同じ基準を使うことで、地域間や年次間の比較が可能になります。

計算方法の基本式

HDD/CDDの計算は、とてもシンプルです。

日次のDegree Day

1日ごとに、基準温度との差を計算します:

HDD18 (1日分) = max(0, 18℃ - 日平均気温)
CDD24 (1日分) = max(0, 日平均気温 - 24℃)

max(0, ...) は「マイナスになったらゼロにする」という意味です。

年間のDegree Day

1年分を合計します:

年間HDD18 = Σ (各日のHDD18)
年間CDD24 = Σ (各日のCDD24)

簡単な計算例

東京の1月のある3日間の気温データで、HDD18を計算してみましょう:

日付 日平均気温 18℃との差 HDD18
1月1日 8℃ 18 - 8 = 10℃ 10
1月2日 12℃ 18 - 12 = 6℃ 6
1月3日 20℃ 18 - 20 = -2℃ → 0 0
合計 16度日

1月3日の解説:外気温が基準温度より高いので、HDD = 0(暖房不要)

この3日間のHDD18は16度日となります。これは「基準温度18℃を維持するために、3日間で合計16℃分の暖房が必要だった」ことを意味します。

HDD/CDDの比較表

項目 HDD(暖房度日) CDD(冷房度日)
英語名 Heating Degree Days Cooling Degree Days
基準温度(日本) 18℃ 24℃
意味 外気温が基準温度より低い分の積算 外気温が基準温度より高い分の積算
用途 暖房需要の評価 冷房需要の評価
単位 ℃·日(度日) ℃·日(度日)
計算例 外気温8℃の日:18-8=10度日 外気温28℃の日:28-24=4度日

東京のHDD, CDD

ここからは、実際のデータを見ていきます。HDD/CDDを使って、東京の気候がどう変化しているのかを分析します。

HEAT20が仮定している数字(1995年基準)

日本の住宅の断熱基準を検討する際、HEAT20という団体が「拡張アメダス1995版」に基づく標準年データを使用しています。

HEAT20とは: - 正式名称「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」 - 研究者・住宅・建材メーカーなどで構成される民間団体 - 国の省エネ基準を超える高い断熱性能基準(G1、G2、G3グレード)を提案 - 現在の断熱等級6はG2、等級7はG3に相当 - 日本の住宅高断熱化をリードする存在

東京の代表値(HDD18-18、CDD24-24、日平均気温ベース): - HDD18 = 1,590℃日 - CDD24 = 154℃日 - 比率:暖房需要10.3倍>冷房需要

この数値が示すもの

1995年時点では: - 暖房需要が圧倒的に大きい(冷房の10.3倍) - 冷房需要は相対的に小さい - だから断熱基準は、寒冷地ほど厳しく設定されている

この「暖房需要が圧倒的」という構造が、日本の住宅設計の基本的な考え方になっています。

実際に計算した数字(2020-2024年実測)

では、約30年後の現在はどうでしょうか?気象庁のデータをもとに実際に計算してみました。

データソースと計算方法

  • データ気象庁「過去の気象データ」から日平均気温を取得
  • 期間:2020年1月1日~2024年12月31日(5年間)
  • 計算式
    • HDD18 = Σ max(0, 18 - 日平均気温)
    • CDD24 = Σ max(0, 日平均気温 - 24)

年次データ(東京)

HDD18 1995年比 CDD24 1995年比 対象日数
2020 1,512.0 −4.9% 252.5 +64.0% 366
2021 1,414.2 −11.1% 202.0 +31.2% 365
2022 1,606.3 +1.0% 291.6 +89.4% 365
2023 1,325.6 −16.6% 417.1 +170.8% 365
2024 1,396.8 −12.2% 413.3 +168.4% 366
5年平均 1,451.0 −8.7% 315.3 +104.5% -

注目ポイント

1995年基準と過去5年間の平均を比較すると、

  • 暖房需要(HDD):8.7%減少
  • 冷房需要(CDD):104.5%増加(約2倍!)

となっています。

比較:札幌の年次データ

東京だけでなく、寒冷地の札幌も見てみましょう:

HDD18 1995年比 CDD24 1995年差 対象日数
2020 3,300.4 −8.7% 33.2 +33.2 366
2021 3,250.7 −10.0% 72.4 +72.4 365
2022 3,243.8 −10.2% 13.4 +13.4 365
2023 3,162.4 −12.5% 122.3 +122.3 365
2024 3,221.5 −10.8% 53.5 +53.5 366
5年平均 3,235.8 −10.4% 59.0 +59.0 -

:札幌の1995年基準はHDD18=3,613、CDD24=0

驚くべき事実: - 1995年は「北海道は冷房不要」(CDD=0)だった - 2020-2024年は冷房需要が出現(CDD=59) - 2023年は異例の122と突出

1995年のCDDが0であったため、HEAT20とは比率ではなく差で比較していることにご留意ください(0では割れないため)。

HDD、CDDの傾向の評価・解説

データから何が読み取れるでしょうか?

1. 暖房需要(HDD)の変化

東京:1,590 → 1,451(−8.7%減少) - 冬の温暖化が進行 - 年によって変動が大きい: - 2022年は1995年並み - 2023年は−16.6%の暖冬

この結果、1995年にUA値0.46だった場合の熱損失と、過去5年にUA値0.50だった場合の熱損失がほぼ同じになります。さらに過去2年に絞れば、UA値がほぼ0.54で同程度の熱損失に抑えられる、という結果になっています。

札幌:3,613 → 3,236(−10.4%減少) - 寒冷地でも温暖化の影響が顕著 - それでも東京の2.2倍の暖房需要

2. 冷房需要(CDD)の急増

東京:154 → 315(+104.5%増加、約2倍!) - 2023-2024年は特に突出(417, 413) - 記録的猛暑の影響が明確 - 体感的にも「夏が厳しくなった」を数値で裏付け

温暖化しており、夏が暑くなったという実感に合う数値といえるのではないでしょうか? 特に2023年、2024年の猛暑が数値に明確に現れています。この計算を行ったのが2025年の途中なので、2025年の数値は含めていませんが、2025年も猛暑でした。従って、来年アップデートすると5年平均は更に温暖化にむけてシフトしているはずです。

札幌:0 → 59(1995年は冷房不要だった) - 2023年は122と異例の高さ - 「北海道は冷房不要」はもはや過去の常識

3. 暖房/冷房比率の変化

この比率の変化が、最も重要なポイントです。

東京 - 1995年:暖房需要10.3倍>冷房需要 - 2020-2024年:暖房需要4.6倍>冷房需要 - 変化:冷房需要の相対的重要性が急上昇

札幌 - 1995年:冷房不要(CDD=0) - 2020-2024年:暖房需要54.8倍>冷房需要 - 変化:冷房需要が出現したが、暖房が依然圧倒的

4. 重要な結論:依然として暖房需要が圧倒的

気候変動の影響: - 冬は暖かくなっている(HDD減少) - 夏は猛暑化が進行(CDD倍増) - 冷房需要の相対的重要性は上昇(東京で10.3倍→4.6倍)

しかし: - それでも外皮を通じた熱移動は暖房期が圧倒的に大きい(東京で4.6倍、札幌で54.8倍) - この構造は変わっていない

この結論が意味すること: - 断熱性能(UA値)の改善は、主に暖房費削減に効果がある - 外皮性能による冷房負荷は相対的に小さい - UA値の評価は暖房重視で行うべき


前編のまとめと後編の予告

前編で分かったこと

1. HDD/CDDという指標 - 暖房度日(HDD)と冷房度日(CDD)は、冷暖房需要を定量化する指標 - 日本ではHDD18℃、CDD24℃が標準 - 気象庁の日平均気温データから誰でも計算できる

2. 気候変動の定量的把握 - 冬は暖かくなり(HDD8.7%減)、夏は猛暑化(CDD約2倍) - 「北海道は冷房不要」は過去の常識 - しかし、依然として暖房需要が圧倒的(東京で4.6倍)

後編の内容

後編では、HDD/CDDから実際の冷暖房負荷を計算していきます:

1. HDD/CDDと冷暖房負荷の関係 - 理論的な関係式(Q = UA × A × ΔT、Aは外皮表面積) - うさぎラクダハウス(断熱等級5)をケーススタディとした計算例

2. HDD/CDDから分かること - 地域の冷暖房需要の「構造」 - 断熱性能向上の効果試算 - HDD/CDDが表現するもの、表現しないもの

3. 核心的メッセージ - UA値(断熱性能)の改善効果は、主に暖房費削減として現れる - 断熱等級を判断する際は、暖房需要の削減効果を重視すべき

4. Appendix - 詳細な計算方法(Excel/Python) - 読者が自分の地域のHDD/CDDを計算できるように

後編もお楽しみに!

断熱等級あげると、光熱費はどれだけ節約できる?実測データから見えた意外な真実

アイキャッチ

1. はじめに:冷暖房費の真実に迫る

以前の記事:

building-dream-home.hatenablog.com

で、我が家の電気代の全体像をお伝えしました。

  • 月平均使用電力量コスト:37,769円
  • 実際の家計支出:18,172円(太陽光発電のおかげ)
  • 冷暖房費は全体の33.4%

今回は、この冷暖房費にフォーカスして、さらに詳しく分析します。

この記事で明らかにすること: - 夏と冬、どちらが冷暖房費が高い? - 断熱等級を上げると、実際にどれくらい削減できるのか? - 断熱性能向上への投資は本当に合理的なのか?

前提条件の確認(詳細は前回記事参照): - 地域:6地域(関東地方) - 延床面積:約56坪(約185㎡) - 家族構成:2人(夫婦、在宅時間長い) - 断熱性能:UA値0.55(断熱等級5) - 気密性能:C値1.2~1.3 - 設備:オール電化エコキュート、IH、Miele食洗機・乾燥機


2. 冷暖房費の季節変動

2.1 月別の冷暖房費

暖房シーズンと冷房シーズンそれぞれでどれくらい冷暖房費を使っているかを分かりやすく見るために、月ごとの電気使用量を冷暖房費とそれ以外に分けてみました。

冷暖房費VSその他‗コスト

冷暖房費 その他 総使用量 割合 特徴
1月 17,417円 27,263円 44,680円 39.0% 冬ピーク
2月 16,447円 24,822円 41,269円 39.9% 冬ピーク
3月 10,191円 28,080円 38,271円 26.6%
4月 1,758円 25,879円 27,637円 6.4% 最小
5月 2,208円 26,465円 28,673円 7.7%
6月 8,077円 28,937円 37,014円 21.8%
7月 14,490円 28,182円 42,672円 34.0%
8月 15,051円 28,171円 43,222円 34.8% 夏ピーク
9月 11,459円 25,025円 36,484円 31.4%

金額で見ると、電気料金の変動の影響と、電力使用量の変動が混ざってしまうので、電力使用量で見た月別グラフも作成しました。

冷暖房費VSその他‗使用量

こうして電力使用量をグラフにしてみると、いろいろな気づきがありました。

冷暖房以外の光熱費は安定している

冷暖房以外の光熱費は、季節を問わずかなり安定しています。2月の使用量が他の月に比べて1割弱少ないようですが、2月が他の月に比べて2~3日(1割弱)日数が少ないことを考えると、妥当な数値です。

また9月もやや使用量が少ないのですが、こちらは家を開けていた日数が他の月に比べて格段に多かったことが影響しているものと思われます。ただ、家を開けていた日数に比して電力使用量の減り方が少なく感じられるため、常時通電している電気製品や換気などが占める割合が高いことが分かりました。

(当たり前だけれど)冷暖房費は季節性が高い

暖房は1月・2月(1年間通じて測っていれば12月も?)、冷房は6月から9月にかけて使用されています。なお暖房がピークの1月や冷房がピークの8月でも、冷暖房が総電力使用量に占める比率は40%以下となっています。

暖房期と冷房期の電力使用量が思ったほど違わない

データを見るまでは漠然と暖房費の方が冷房費より顕著に高いはず!と思っていたので、これはとても意外な発見でした。

なぜ暖房費の方がずっと高いと思っていた?

断熱性能を高める目的は、家の外皮(壁、窓、天井、床)と外部の間の熱伝導によるエネルギーの移動を防ぐこと。そして、熱伝導によるエネルギー損失は、UA値が同じであれば、家の中と外の温度差に比例します。

家の中の温度設定が温暖地域と寒冷地域で大差ないとすれば、家の内外の夏と冬の温度差について以下の関係が成り立ちます。

地域 冬の特徴 夏の特徴 室内外温度差(仮定)
寒冷地 冬はとても寒い 夏は相対的に涼しい 冬:大きい
夏:小さい
温暖地 冬は相対的に暖かい 夏はとても暑い 冬:小さい
夏:大きい

この仮定が正しいかどうかを検証するためには、Heating/Cooling Degree Dayという数値を検証すれば良いのですが、煩雑になるのを避けるため今回の記事では詳細は割愛します。ひとまずこの仮定が正しいという前提で進めましょう。

一方で、同じ断熱等級であっても、寒冷地とされる地域区分1から、温暖な地域区分6や7になるにつれ、要求される断熱性能の数値(UA値)が大きく(要求性能が低く)なっていきます。

このことから、省エネを実現するためには、専ら冬の暖房エネルギーの削減に焦点を当てれば良いと考えられていることが分かるわけです。(仮に夏の冷房エネルギーの影響がより大きければ、東京の方が札幌より断熱性能が高くないといけないため。)

参考までに断熱等級6、7などの基準の原型となったHEAT20という規格を設定する際の参照気象データ(拡張アメダス等)として、例えば東京で "HDD18 = 1590/CDD24 = 154" という値が記載されています。

このことからも、断熱性に関していえば暖房用エネルギーの削減が冷房用エネルギーの削減に比して圧倒的に重要であるということが分かります。

こうした背景を踏まえて、暖房用電力消費の方が冷房用電力消費より圧倒的に多いはず、と思っていたのでした。

なぜ冷房費が暖房費に比肩するぐらい大きい?

実際には冷房費が暖房費に肉薄する結果となったわけですが、二つの理由が考えられます。

  1. ここ数年の夏は異常に暑く、過去の気象データが当てはまらない
  2. 外皮とは異なる経路(断熱性では防げない経路)で熱が家の中に入ってきている

どちらも重要な視点ですが、視点2については、さらに二つの候補が考えられます。

  • (2a) 家の内外での空気の出入りを通じたエネルギー伝搬
  • (2b) 主に窓を通じた日射取得によるエネルギー伝搬

特に(2a)を見ると、「だから気密性が大事なんだ。」という一部のインフルエンサーの声が飛んできそうですが、この点も別途定量的に検証してみたいと思います。

ひとまずの結論

家の断熱性は大事だけれど、夏と冬の冷暖房電気使用量を見る限り、断熱性以外の要因の影響も大きい。他の要因も把握したうえで、総合的に考えることが重要であるように思える。

2.2 一階・二階/床暖房・エアコンの内訳

次に、冷暖房費を、床暖房・1階エアコン(2台合計)・2階エアコン(5台合計)に分類した月次グラフをご紹介します。

冷暖房費内訳_コスト

  • 暖房期は一階の暖房(床暖房+AC)が大半で、一階のエアコンが7割以上を占める。

  • 使用法を反映して、一階暖房は床暖房の電力使用量がACと比較して顕著に大きい

  • 冷房期は一階と二階でほぼ同じ電力量を使用

うさぎラクダハウスの床暖房は、ヒートポンプを用いて温水を用意し、それを循環させる方式です。

大出力になるとCOP(Coefficient of Performance:=取り出した暖房熱量÷消費電力)が少し下がる傾向があるため、床暖房の方がエアコンより若干エネルギー効率が低い傾向はありますが、床暖房の電力使用量が大きいのはもっぱらよく使っているから、と考えてよさそうです。

温まった空気は軽く上に昇っていきます。このため、一階を温めると、二階にも一部の熱が伝わっていくことから、あまり二階ではエアコンを使わなくても快適に過ごせているのだと思います。

逆に冷たい空気は下に降りていくため、冷房期にはエアコン二階の比率が暖房期に比べて高くなるはずです。確かに冬に比べると二階のエアコンの使用比率は高くなっており、データからもこの傾向が確認できます。

こちらも電力価格の変動に左右されずに比較ができるように、電力量ベースのグラフも載せておきます。

冷暖房費内訳_使用量

3. 年間冷暖房費の推計

今回は1月から9月のデータを使っています。このデータをもとに、10月~12月の電気代金相当額を推計し、年間冷暖房費を算出すると、約13万5千円になります。

年間冷暖房費(確定値)

  • 1~3月(実績):44,055円
  • 4~5月(実績):3,966円
  • 6~9月(実績):49,077円
  • 10~12月(推定):38,000円
    • 10月:約8,000円(中間期)
    • 11月:約12,000円(中間期)
    • 12月:約18,000円(暖房期)
  • 年間合計:約135,000円

なおこの金額は、「冷暖房用に使った電力をすべて電力会社から購入していたら、いくらになっていたか?」という試算値です。前回の記事でご紹介した通り、電力量で見れば7割強は太陽光発電で賄えているので、実際に冷暖房を賄うために支払っている金額は大幅に小さくなります。

4. 潜在的な冷暖房費の削減余地はどれくらい?

13万5千円という金額が大きいか小さいか、絶対水準の評価はひとまず置いておくとしても、家の性能を向上させることによる光熱費の削減効果は、この内数である、ということは重要なポイントです。

たとえば、家のエネルギー効率を全体として20%向上させることができれば、電気代は年間に2万7千円安くなるはず、といった具合です。

家全体が必要とする暖房や冷房の熱量が20%下がるか、同じ熱量をコントロールするために必要な電力量(冷暖房器具のエネルギー効率)が20%向上することで、これが実現できるはずです。

夏と冬の冷暖房費比較をした際に、断熱性能の向上では説明できない熱エネルギーの出入りが大きな影響を及ぼしていることが明らかになりました。

従って、断熱性能を20%上げても、家全体のエネルギー効率が20%上がることにはなりませんが、それ以外の影響をすべて無視しても、最大でも年に2万7千円。30年で約81万円分の光熱費の違い、ということになります。これは、坪当たりで見ると、年に480円、30年で1万4,400円です。仮に35坪の家であれば、年に1万6,800円、30年で50万6,000円が上限です。さらに、電力の半分以上が太陽光発電で賄われていることを踏まえると、実際の冷暖房用の電力コストはさらに下がります。

仮に外皮以外でのエネルギーロス寄与分が30%とすれば、外皮の性能(=断熱性)を20%向上させることによる費用削減効果は、年に1万2,000円弱、30年で35万円程度という試算になります。一般的な長方形・総二階の家に比べると、うさぎラクダハウスの形状がT字型のため床面積に対して表面積(外皮面積)が大きいといった事情もあり、条件が良い家では、性能が同じであっても、費用削減効果がさらに2~3割減り、8,000円~1万円程度に落ち着くのではないかと思います。

実証データとの比較

実際に、桧家住宅が、延床面積約30坪のほぼ同じ間取りの家を、同じ地域に断熱等級5と断熱等級6で二軒建てて、全館空調を回しながら光熱費の比較実験を行ったレポートが出ています。

これによれば、6地域でUA値が0.53(等級5)と0.45(等級6)の比較では、暖房期の3か月間(12月、1月、2月)の電気使用量の差が131kWh、金額にして4,600円だったという結果が出ています。桧家住宅の実験では冷房期は計測していないようですが、これに夏の冷房代の差を加味すれば、我が家の試算と似たような数字になりそうです。

参考資料: - 桧家住宅 プレスリリース - 詳細レポート

今回は試算していませんが、断熱等級6から7へのアップグレードに関していえば、性能アップにかかる費用が大幅に上がる一方で省エネ効果は5から6よりも減るため、コストパフォーマンスが大幅に劣化することが容易に想像できます。

このことから経済性に限って見た場合、(少なくとも温暖地域では)追加費用を払って断熱性能をアップグレードしても、その費用を光熱費の削減効果で賄うのは難しいと言えるのではないでしょうか。

5. まとめ

今回は、月ごとの冷暖房費をご紹介しながら、断熱性能と実際の冷暖房用エネルギーの関係について考えてみました。

そのうえで、断熱等級5と6の間でどの程度冷暖房費に違いが出るか、簡単な推計を行ってみましたが、結果は35坪の家で年間に1万円弱、と多くの皆さんが思われるよりずっと小さな数字になったのではないかと思います。

冷暖房費の総額を抑えるという点だけを取れば、等級が5よりは6、6よりは7の方が良いのですが、建てようとしているハウスメーカー工務店が標準で5をクリアしているのであれば、選んだ建築会社の標準仕様を採用し、あえてオプションで断熱性を上げにいかない、というのがコストパフォーマンスが最もよくなるので、一つの見識ではないかと思います。

また、今回の結果は、定量的に見れば、ある程度の性能をクリアしていると、それより上にするメリットは思われているより小さい可能性が高い、ということを示唆しています。これまでは、建築会社で迷った際に性能を重視してデザインやその他を劣後させたり、予算を大幅に増やすことを余儀なくされたり、といったことがあったかもしれません。しかし、実際にはある程度の性能をクリアしていれば、それから先の性能の優劣は決定的な論点にはならない、という風に割り切って、デザインや相性で建築会社を選んで良い、ということです。

私が契約した2024年12月は、断熱等級5時代の終わりのはじめでした。当時は、一部のインフルエンサーや性能重視工務店系YouTuberなどが、「断熱等級5はダメ、最低でも6」と言っていました。今は断熱等級6が本格的に普及し始めた段階かと思います。すると、「断熱等級6でも、断熱材の種類によっては・・・。」とか、「断熱等級は外皮の平均値で決まるけど、実際にはまんべんなく性能が高くないとダメ。」といった声が聞こえてくるようになりました。

差別化のために何かを言わないといけないという事情は分かるし、言っていることは必ずしも間違いではないのだけれど、定量的に見れば実際の違いは大きくないし、本来最も重要であるはずの快適性にはほとんど影響がないものを針小棒大に言って、それを聞く人を脅かす行為は、大いなるミスリーディングだと思います。率直に言って、こうした脅しにも近いポジショントーク、営業トークは多くの施主にとって害でしかないように思えます。

施主の皆さんには、こうした性能競争の呪縛から離れて、より柔軟に理想の家を目指して家づくりをしていただけたらと願ってやみません。


データ分析期間:2025年1月〜9月 分析ツール:HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)

シリーズ記事

何に電気を使ってる?家電別消費電力の実態を大公開

「我が家の電気代公開」では、我が家の電気代の全体像をお伝えしました。

building-dream-home.hatenablog.com

  • 月平均使用電力量コスト:37,769円
  • 実際の家計支出:18,172円(太陽光発電のおかげ)
  • 太陽光・蓄電池の効果:月平均19,597円

今回は、HEMSの強みを活かして、何に電気を使っているのかを詳しく見ていきます。

特に、Miele食洗機・乾燥機、IH、オーブンレンジなど、読者の皆さんが興味を持ちそうな家電の実測データを公開します。「この家電、実際どれくらい電気代がかかるの?」という疑問に、データでお答えします。

また、「断熱等級5の家は快適なのか?」の記事:

building-dream-home.hatenablog.com

で、冷暖房を使えばとても快適とお伝えしましたが、その冷暖房費にどのぐらいの費用が掛かったかも公開します。 ただし、冷暖房費については別の記事でさらに掘り下げて検証します。


2. 全体の内訳:6つのカテゴリー

まず、9ヶ月分の電気使用量を6つのカテゴリーに分類したのがこちらです。

1-9月累計の内訳(総計290,019円)

カテゴリ 金額 割合
照明 126,496円 43.6%
エアコン 70,048円 24.1%
家電 32,531円 11.2%
床暖房 27,049円 9.3%
エコキュート 18,692円 6.4%
その他 15,204円 5.2%

2.1 「照明43.6%」の真実

最大の電力消費項目が「照明」となっていますが、これには注意が必要です。

電気工事の回路構成上、「照明」として分類されている回路には、以下のものが全て含まれています:

  1. 照明器具:各部屋のLED照明
  2. 一般コンセント:照明回路に接続された一般コンセント
    • PC、モニター、スマホ充電器、小型家電等
  3. 換気システム:24時間稼働の第一種換気
  4. 外構のライトアップ:玄関アプローチ、庭園灯等(照度センサーで自動オンオフ)

たとえばラクダの書斎は結構電気使用量が多かったのですが、31.5インチのデュアルモニター(×2)と小型デスクトップPCがあり、モニターは24時間つけっぱなしです。デュアルモニターだけで40W程度消費していると推定され、24時間×9ヶ月で約260kWh、これだけで約8,000円になります。これらも便宜上、"照明"のカテゴリーに入っています。

一般的な住宅では純粋な照明のみであれば全体の10~15%程度と言われているそうです。我が家も、コンセントにつながれた小型家電を除外すれば、ほぼ同じ水準になりそうで、まずは妥当な数値ではないかと思います。

2.2 冷暖房費は全体の33.4%

エアコン(24.1%)と床暖房(9.3%)を合わせた冷暖房費は、全体の33.4%です。

これは重要なポイントです:断熱性能を向上させても改善できるのは、この冷暖房費の部分のみ。つまり、電気代の約2/3には断熱性能は影響しないということです。

冷暖房費の詳細については、別の記事で更に詳しく分析したいと思います。


3. 家電の実測データ詳細

ここからが本記事のメインです。HEMSで計測できた家電について、実測データを公開します。

3.1 全体像:家電カテゴリの内訳

専用回路で計測できた家電の内訳がこちらです。

家電カテゴリ内訳(1-9月累計)

家電項目 9ヶ月合計 月平均 割合
パントリー 24,296円 2,700円 35.3%
TV・オーディオ 15,204円 1,689円 22.1%
浴室乾燥機 7,869円 874円 11.4%
洗濯機 6,946円 772円 10.1%
食器洗乾燥機 5,954円 662円 8.7%
IH 4,812円 535円 7.0%
衣類乾燥機 3,402円 378円 4.9%
ウォッシュレット 1,408円 156円 2.0%
トースター・ポット 1,178円 131円 1.7%
オーブンレンジ 961円 107円 1.4%

※ パントリーには冷蔵庫・ウォーターサーバーワインセラー・パントリー照明が含まれます。


4. 家電別の詳細分析

4.1 パントリー(冷蔵庫・ウォーターサーバーワインセラー

9ヶ月累計:24,296円 | 月平均:2,700円

パントリーは部屋全体で一つの回路になっており、以下の機器が含まれています:

これらはすべて24時間稼働しており、家電に分類した回路の中で断トツのトップです。特に大容量冷蔵庫とウォーターサーバーが主な消費源と思われます。


4.2 TV・オーディオ

9ヶ月累計:15,204円 | 月平均:1,689円

  • TV:75インチ
  • 視聴時間:全く見ない日も多いが、休日など5時間以上見ることも
  • オーディオ:常時スイッチが入っている(スタンバイモード)

特徴:良い音質で聴くためには回路が温まっている方が良いため、常時スイッチを入れています。スタンバイモードでもそれなりに電気を消費します。さすがに長期旅行のときはスイッチを切ります。

ポイント:待機電力が意外と大きい。音質へのこだわりと電気代のトレードオフです。


4.3 浴室乾燥機

9ヶ月累計:7,869円 | 月平均:874円

  • 使用頻度:春〜秋は風呂・シャワーのあと毎回使用(1日1〜2回)、冬は使わない
  • 1回の運転時間:3時間(エコモードなら6時間だが、通常は普通運転)
  • 主な用途:浴室・ダクトの乾燥とカビ防止

使い方の詳細: - 冬は家全体が暖かいので暖房としては使っていません - 衣類の乾燥にも使っていません - 浴室そのものを乾かすと共に、ダクトの中の湿気を完全に排除する目的 - 冬は屋内の湿度が低いため、浴室のドアを開けておくだけですぐ乾くので使いません - ラクダとうさぎが違うタイミングで浴室を使うことも多いので、1日2回使うことも多いです

ポイント:カビ対策として非常に有効。春〜秋の高湿度シーズンに集中使用。使う時期にむらがあるため、月平均の金額は参考値です。


4.4 洗濯機(Miele)

9ヶ月累計:6,946円 | 月平均:772円

  • 使用頻度:毎日数回洗うことも(色物、白物、デリケートなど種類を分けて洗濯)
  • 1回の運転時間:2時間以上(Mieleはエコロジーに配慮した設計で、水・電気の使用量を抑えながらしっかりと洗うため、ゆっくりと時間をかけて洗います)
  • 主な使用モード:洗濯物の種類によって様々。特にスポーツウェアを温水でしっかり洗い、汗の臭いを取ってくれるスポーツモードが重宝

ポイント:Mieleの洗濯機は、水を温めて温水にしながら洗濯します。このため、外部からお湯を供給する必要がなく、給湯システムへの負担がかかりません。にもかかわらず、月平均800円弱というのは、とても経済的です。


4.5 Miele食器洗乾燥機

9ヶ月累計:5,954円 | 月平均:662円

  • 使用頻度:毎日夜間に1回
  • 容量:深型で幅60cmモデルなので、容量は十分
  • 主な使用モード:標準モードで十分
  • 運転タイミング:煩いというほどではないけれど、音がするので、LDKを使わない夜間に回す。忘れそうなときは予約運転をセット

手洗いと比較したメリット: - 水道代:食洗機の方が安い - 洗浄力:十分。ステムの長いワイングラスなどは手で洗うと割ってしまわないか心配だし、なかなかピカピカにするのが難しいが、食洗機だときれいになる - 手軽さ:なにものにも代えがたい

ポイント:毎日使っても月662円。時間と水道代の節約を考えると十分にペイします。こちらも洗濯機と同じで、水を温めて温水にしながら食器を洗うので、給湯システムでつくったお湯を入れる必要がありません。


4.6 IHレンジ

9ヶ月累計:4,812円 | 月平均:535円

  • 使用頻度:昼・夜の2回(朝はパンやシリアル中心なのでトースターやポットを使い、IHは使わない)
  • よく使う調理方法:炒め物、煮物、焼き物が多い(湯沸かしは電気ポットを使用)

意外な発見:IHは意外と電気を食わない!もっと電気を多く使っているかと思っていました。

ポイント:熱効率が良く、短時間で調理でき、経済的です。


4.7 Miele衣類乾燥機

9ヶ月累計:3,402円 | 月平均:378円

  • 使用頻度:毎日
  • 主な使用モード:やや乾燥力が弱いので、コットンで時間を伸ばして回すことが多い(2時間以上)
  • 1回あたりの洗濯物の量:洗濯機1回分(ただし色物、白物、デリケートなど種類を分けて洗濯するので、1回あたりの洗濯量は少なめ)

外干し vs 室内干し vs 乾燥機: - 外干しは一切しない:美観を損ねる、花粉・ほこりがつくのが嫌、ベランダをそもそも作っていない - 乾燥機 vs 室内干しの二択:室内干しができる場所は2箇所用意しており、湿度もコントロールしているので、便利でよく乾く - デリケートなもの:乾燥機を使わず部屋干し

ポイント:思ったよりずっと経済的。外干ししない生活スタイルには必須。時間はかかるけれど、しっかりと乾きます。ガス式に比べて、縮みにくいのではないかと思います。


4.8 ウォッシュレット(1F + 2F)

9ヶ月累計:1,408円 | 月平均:156円

1Fと2Fの2台分の合計です。温水と便座をあたためる電力ではないかと思います。

ポイント:快適性を考えると、非常にコストパフォーマンスが高い。こうした機器も地味に電力を使っていることがわかって、HEMSは面白いです。


4.9 トースター・ポット

9ヶ月累計:1,178円 | 月平均:131円

朝食時に活躍。パンやシリアル中心の朝食なので、トースターと電気ポットは毎日使用しています。

ポイント:毎日使っても月平均131円と非常に経済的。


4.10 オーブンレンジ

9ヶ月累計:961円 | 月平均:107円

  • 使用頻度:毎日数回以上
  • 主な用途:電子レンジ中心(冷凍ご飯や冷凍食品を温める、まとめて作って冷蔵庫に入れておいたものを温める)
  • オーブン機能:たまに使用(1回30分程度)

意外な発見:毎日数回使っているのに、9ヶ月で961円、月平均107円と驚くほど安い!

ポイント:電子レンジ機能は非常に省エネ。オーブン機能を使うと電気代は上がりますが、それでも全体としては非常に経済的です。


5. 「うさぎとかめ」の教訓:瞬間パワーより使用時間

つい「瞬間的に大きな電力(W)を使う家電=電気代が高い」と思いがちですが、実際には電力量(Wh)は「電力×使用時間」で決まります。

たしかに食洗機や乾燥機、IHなどはHEMSで見ると一時的に1.5~2kWもの電力を消費することがあり、インパクトは大きいのですが、使用時間が短いため、トータルの電気代では意外と目立ちません。

一方で、消費電力自体は小さくても、長時間・毎日使い続ける家電の方が、結果的に電気代に大きく影響します。たとえば冷蔵庫や大型モニター、冬場の加湿器(今回のデータでは照明に含まれています)などは、ずっと稼働していることで電力量が積み重なります。加湿器は水を蒸発させるために熱を発生させるので、見た目以上に電力を消費します。

このように、「うさぎとかめ」の例えの通り、瞬間的なパワーよりも"じわじわ型"の家電が、電気代の主役になることがよく分かりました。


6. まとめ:データから見えた発見

6.1 断熱性能で改善できるのは1/3のみ

電気使用量の内訳から分かること:

  • 冷暖房費:33.4%(断熱性能で改善可能)
  • 給湯(エコキュート:6.4%(断熱性能では改善不可)
  • 照明・一般家電等:60.2%(断熱性能では改善不可)

つまり、断熱性能を向上させても、電気代の約2/3には影響しないことが明確です。

6.2 Miele家電の評価

  • 食洗機:月662円、時間と水道代の節約、洗浄力も十分
  • 衣類洗濯機:月772円、時間はかかるが水と電気の使用量を抑えた設計
  • 衣類乾燥機:月378円、外干ししない生活スタイルには必須

いずれも、電気代だけでなく、時間・水道代・生活の質を総合的に考えると、非常にコストパフォーマンスが高いと評価できます。


7. 次回予告

次回は、冷暖房費にフォーカスして、さらに詳しく分析します:

  • 夏と冬でどちらが高い?
  • 断熱等級を上げると、どれくらい削減できる?
  • 投資回収期間は現実的か?

お楽しみに!


データ分析期間:2025年1月〜9月 分析ツール:HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)

うさぎラクダハウスの電気代公開!データで見る実態

1. はじめに:我が家の電気代、他の家より高い?

「断熱等級5の家は快適なのか? 9ヶ月住んでみた実感」で、断熱等級5(UA値0.55)の我が家で、冷暖房を適切に利用すれば、非常に快適に暮らせることをお伝えしました。

building-dream-home.hatenablog.com

「二人暮らしとしては電気を非常に多く使っている」とされる我が家。 実際のところ、電気代はどうなのか?

今回は、入居後9か月(2025年1月~2025年9月)のHEMSデータを詳細に分析して、その真実に迫ります。

HEMSとはHome Energy Management Systemの略で、家の中の電気系統をモニタリングしてくれる機器です。ここでは、ざっくりと分電盤のブレーカー単位で使用電力量を計算してくれるツール、と思っていただければ十分です。

この記事では、まず電気代の全体像の外観をお見せします。


2. データの前提条件と注意事項

2.1 我が家の立地・気候条件

データを正しく理解するため、我が家の条件を明記します:

  • 地域:6地域(関東地方)
  • 延床面積:約56坪(約185㎡)
  • 家族構成:2人(夫婦)
  • 在宅時間:長い(リモートワーク中心)
  • 換気システム:全熱型熱交換器付き第一種換気
  • 気密性能:C値1.2~1.3
  • 断熱性能UA値0.55(断熱等級5)
  • 設備仕様オール電化、給湯はエコキュート、調理はIH
  • 生活スタイル:洗濯はMiele電気式乾燥機を積極利用、食器洗いはMiele食洗機を利用

気候データ(実測値、気象庁データ)1: - 暖房期(2024年11月~2025年4月):平均気温10.7℃、期間181日 - 冷房期(2025年6月~9月):平均気温27.3℃、期間122日 - 暖房デグリーデー:1,678度日(基準20℃) - 冷房デグリーデー:149度日(基準26.5℃) - 年間日照時間:約2,000時間 - 夏季平均湿度:70~80%(高湿度地域)

2.2 データの見方について

この記事では2種類の金額を使用します:

  1. 使用電力量コスト:HEMSで計測された総使用電力量(kWh)を、仮に全て電力会社から購入したと仮定した場合の金額。実際には太陽光発電で一部を自家消費しているため、実際の支払額とは異なります。

  2. 個別項目の積み上げ:各設備(エアコン、照明等)の使用量を積み上げた金額。

※ 両者には約10~20%の差があります(計測誤差、蓄電池ロス、分類外の消費等)。なお、4月までのデータは計測設定にエラーがあったため、5月以降のデータの方が信頼性が高くなっています。

2.3 太陽光発電システムの仕様

太陽光発電はやや効率が劣ると言われる屋根瓦一体式のもの。また寄棟屋根なので、容量をかくほするために南向きだけでなく東向きにもパネルをのせています。このため、同じ容量でも、より効率よく発電できる家も多々あるのではないかと思います。

それ以外にも、パワコンの容量とパネルの容量の関係など、実際の出力(発電量)に影響を及ぼすいくつかの要素があり、気象条件・容量が同じでも、発電量が大いに異なることが十分にありえます。

太陽光発電の実際の発電効率については、別の機会にご説明したいと思います。


3. やっぱり電気使い過ぎ?我が家の電気使用量

2025年1月~9月の想定電気代(使用料ベース)、買電(実際に購入した電気代)、売電(販売した余剰電力による収益)は以下のようになりました。

データはすべてHEMSから取得しており、買電の金額・使用量はTEPCOの数値とほぼ一致することは確認済みです。ただしHEMSは1日から月末までの周期で計算されますが、TEPCOは2日から翌月1日までで集計していることに起因する若干のずれはあります。

3.1 月次電力収支の全体像 (金額ベース)

HEMSベースでの月次の電力収支をグラフ化したものがこちらです。

月次電力料金

このグラフには、想定電力代に対する買電コストの比率も記載しました。詳細は下の表にまとめました。

使用電力量コスト 買電コスト 売電収入 ネット電気代 太陽光・蓄電池効果
1月 44,680円 25,978円 2,264円 23,714円 20,966円
2月 41,269円 24,154円 4,492円 19,662円 21,607円
3月 38,271円 22,324円 4,292円 18,032円 20,239円
4月 27,637円 16,080円 4,125円 11,955円 15,682円
5月 28,673円 16,713円 4,195円 12,518円 16,155円
6月 37,014円 21,527円 4,060円 17,467円 19,547円
7月 42,672円 24,824円 3,711円 21,113円 21,559円
8月 43,222円 25,156円 3,546円 21,610円 21,612円
9月 36,484円 21,227円 3,748円 17,479円 19,005円
平均 37,769円/月 21,998円/月 3,826円/月 18,172円/月 19,597円/月

3.2 月次電力収支の全体像 (電力ベース)

電気代は電力価格の影響も受けるので、違うタイミングや、違う電力会社の場合は比較が難しかったりもします。そこで、価格ではなく電力使用量のデータも取得しました。

月次電力使用量

1月〜9月の電力使用量(kWhベース)

使用電力量 買電 売電 ネット買電 太陽光・蓄電池効果
1月 1,325.5 kWh 766.4 kWh 141.5 kWh 624.9 kWh 700.6 kWh
2月 1,223.3 kWh 711.9 kWh 280.7 kWh 431.1 kWh 792.2 kWh
3月 1,129.0 kWh 652.3 kWh 268.3 kWh 384.0 kWh 745.0 kWh
4月 801.9 kWh 288.2 kWh 308.7 kWh -20.6 kWh 822.5 kWh
5月 834.2 kWh 353.7 kWh 228.4 kWh 125.3 kWh 708.9 kWh
6月 1,104.4 kWh 487.9 kWh 175.6 kWh 312.3 kWh 792.1 kWh
7月 1,282.0 kWh 497.6 kWh 187.2 kWh 310.4 kWh 971.6 kWh
8月 1,300.7 kWh 600.5 kWh 240.3 kWh 360.2 kWh 940.5 kWh
9月 1,089.0 kWh 504.9 kWh 183.2 kWh 321.7 kWh 767.3 kWh
平均 1,121.1 kWh/月 540.4 kWh/月 223.8 kWh/月 316.6 kWh/月 804.5 kWh/月

3.3 電力単価はどれぐらい?

これらのデータをもとに電力の平均単価も計算しました。なお、買電、および使用電力単価計算にあたっては、基本料金3,741円を総額から控除しています。

月額平均 使用電力 買電 売電 ネット電気 太陽光・蓄電池効果
金額(円) 37,769円 21,998円 3,826円 18,172円 19,597円
電力量(kWh) 1,121.1 kWh 540.4 kWh 223.8 kWh 316.6 kWh 804.5 kWh
平均単価(円/kWh)
(基本料金除外後)
30.4円 33.8円 17.1円 24.4円

買電は夜間中心なのでもうすこし単価安いのではないかと思っていたのですが、明細をみてびっくり。電力単価に、再エネと託送料金で13円/kWh程度上乗せされるのですね。そこから、燃料費調整や国の軽減措置の値引きなどで少しさがって34円前後、というのは妥当な数字のようです。

なお、日中に使う電気がより多く含まれる使用電力単価の方が、買電単価よりも高くなるはずですが、低くなっているのはすこし不自然です。4月上旬までは設定ミスなどもあり、誤差の影響ではないかと思います。修正後も、個別の使用電力量の積み上げは、5%程度少なく出ているように感じています。

3.4 ZEH住宅なのに、エネルギーを賄えてない?

ZEH住宅なのでネット買電がマイナスになることが理想ですが、現実にはなかなか難しく、売電量が買電量を上回ったのは4月だけでした。発電量ベースでは、使用電力の72%を太陽光発電で賄ったことになります。

実際には、仮に電力収支(買電-売電)がゼロになっても、ZEH達成にはまだ足りません。なぜならZEHは「一次エネルギー」で評価しており、同じ1kWhでも買電(火力発電等を含む系統電力)は売電(太陽光発電)の約2.7倍の一次エネルギーとして計算されるからです。つまり、売電量が買電量の2.7倍必要になる計算です。

一方で、ZEHの評価は空調・換気・給湯・照明のみが対象で、実際の総消費の30-40%を占める家電・調理用電力は含まれていません。このため、評価上はZEHを達成していても、実生活での電力収支がプラス(エネルギーを購入している)になることは珍しくありません。

この表からも、買電量は全体の約48%にとどまり、残り52%は太陽光発電による自家消費でまかなわれていることが分かります。

太陽光発電の詳細(発電量、蓄電池の運用戦略、売電 vs 自家消費の経済比較、エコキュート連携等)は別の記事で詳しく解説します。

4 標準的な家庭との比較

4.1 条件を揃えて試算してみる

標準的な家庭(戸建住宅)はどのぐらい電気量を使うのか調べてみると、月に400~500KWhといった数字が出てきました。これだと、うさぎラクダハウスは、二人家族なのに、標準の倍も電気を使っていることに・・・。やっぱりエネルギー浪費世帯なのだろうかと少しぎょっとします。

なお、ここでは10,11月を中間月、12月を冷暖房積極利用月と見做すことで、1月~9月の平均がほぼ年間平均に等しいと仮定し、うさぎラクダハウスは月平均1,120KWh使うものとしています。

しかし良く調べてみると、400-500KWhというのはガス併用住宅で、調理・給湯に加えて暖房の一部もガスを利用している世帯が想定されているようです。

ここで思考実験として、AI(OPUS4.1を使用)の助けを借りて、前提条件を変えたらどうなるか試算してみました。

補正項目 基準/変更内容 使用量変化 累積使用量 備考
ベースライン 4人家族・戸建(標準125㎡)・ガス併用 400kWh/月 400kWh/月 環境省統計基準値
面積補正 125㎡→185㎡(56坪):+48% +65kWh/月(+16%) 465kWh/月 面積比の0.3乗則適用
オール電化 ガス併用→オール電化 +430kWh/月 895kWh/月 詳細は別表参照
エアコン常時稼働 間欠運転→24時間運転 +120kWh/月(+13%) 1,015kWh/月 全館空調相当の運転
完全在宅勤務 標準→2名完全在宅 +60kWh/月(+6%) 1,075kWh/月 常時空調により増分
断熱等級5補正 標準(等級4)→等級5 -80kWh/月(-7%) 995kWh/月 高断熱による負荷削減
地域補正 地域区分6(温暖地) -25kWh/月(-2.5%) 970kWh/月 高断熱により効果減
最終推計:970kWh/月

これによると、ラクダうさぎファミリーと同じ条件の場合、平均的な月額電気使用量は970KWhとなりました。

4.2 オール電化による増分を検証

この試算の中で、一番効いているのはオール電化による増分(+430KWh)です。 この数字のレベル感を確認するためにデータを探してもらうと、いくつかの数字がありました。

データソース ガス併用世帯 オール電化世帯 差分
環境省統計 (2022) 4,744 kWh/年 (395 kWh/月) 11,815 kWh/年 (985 kWh/月) +590 kWh/月
関西電力調査 (2021) 4,322 kWh/年 (360 kWh/月) 10,682 kWh/年 (890 kWh/月) +530 kWh/月
東京電力エリア統計 4,500 kWh/年 (375 kWh/月) 10,800 kWh/年 (900 kWh/月) +525 kWh/月

更に、Opus4.1が430KWhと算出した根拠のブレイクダウンを見ると、以下の通りでした。床暖房・24時間換気・衣類乾燥機など、「標準」といってしまってよいか微妙なもののいくつかありますが、思考実験なのでよしとしましょう。

設備/用途 ガス使用量 ガス相当エネルギー 電化後の電力使用 月間増分 備考
給湯(エコキュート導入) 35m³/月 385kWh相当 110kWh/月 +110kWh/月 年間平均COP3.5で高効率でも増
風呂保温・追い焚き 10m³/月 110kWh相当 30kWh/月 +30kWh/月 深夜電力利用
暖房(ガス→エアコン) 50m³/月(冬季) 550kWh相当 250kWh/月(冬季) +83kWh/月 COP2.2の暖房効率、250kWh×4か月÷12か月
冷房 - - - ±0kWh/月 既に電気使用、ガス併用でも電気使用
調理(ガス→IH) 3m³/月 33kWh相当 37kWh/月 +37kWh/月 IH効率90%
浴室乾燥(ガス→電気) 5m³/月 55kWh相当 45kWh/月 +45kWh/月 標準的使用頻度
衣類乾燥機 - - 25kWh/月 +25kWh/月 オール電化で導入増
24時間換気 - - 20kWh/月 +20kWh/月 第3種→第1種熱交換、オール電化住宅標準装備
床暖房(導入時のみ) 30m³/月(冬季) 330kWh相当 200kWh/月(冬季) +67kWh/月 年平均(使用世帯のみ)
待機電力(ガス機器削減) - - - -10kWh/月 給湯器等の待機電力不要
合計 +430kWh/月
床暖房なし合計 +363kWh/月

4.3. 断熱性の影響

実は上の試算で、しれっと断熱等級4(標準世帯)→断熱等級5にすることで、月当たり80KWh、年間では約1000KWhの電力使用量削減、という数値が入っています。これは、金額にすると数万円と、皆さんが想像するよりもずっと小さいのではないでしょうか?

この点については、うさぎラクダハウスの実際の冷暖房費と併せて次の記事で詳細に調べてみたいと思います。


参考文献・データ出典


データ分析期間:2025年1月〜9月

分析ツール:HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)


  1. 気象庁「過去の気象データ」より実測値を使用(2024年11月~2025年9月)。6地域(関東地方)の観測地点データ。暖房期平均気温10.7℃(2024年11月~2025年4月、181日)、冷房期平均気温27.3℃(2025年6月~9月、122日)。暖房デグリーデー1,678度日(基準20℃)、冷房デグリーデー149度日(基準26.5℃)。

断熱等級5の家は快適なのか? 9ヶ月住んでみた実感

1. はじめに

ラクダとうさぎが新居に入居したのは2024年12月半ばでした。 それから9ヶ月以上がたち、真冬と酷暑をそれぞれ経験しました。

私たちの家は断熱等級5。断熱・気密競争が過熱している今日にあっては、高気密・高断熱とは認めてもらえなさそうなスペックですが、実際に住んだ経験を、データに基づいてご紹介したいと思います。

率直な疑問:「断熱等級5(UA値0.55)で本当に快適に暮らせるのか?」

2. 我が家のスペック

2-1. 基本仕様

  • 2024年時点での積水ハウス・シャーウッド(木造)の標準仕様(6地域仕様)+気密施工オプション
  • 断熱等級5(UA値0.55)
  • C値1.2~1.3
  • 全熱型熱交換器付き第一種換気
  • ほぼ総二階で延べ床面積約56坪
  • 大開口窓多数
  • 全館空調ではないが、全館空調的な使い方・住み方

2-2. 空調設備の構成

一階(40帖以上のワンルーム的空間)

一階は玄関・土間とLDKをあわせて40帖以上の一続きの空間に、パントリー・サニタリーがあります。パントリー、サニタリーの引き戸のドアは通常開けているので、空調を考える上では、一階全体が一つの空間になっています。

空調設備 - 床暖房(ダイキン製)LDKの広い範囲+サニタリーの一部に設置 - エアコン(ダイキン製):20畳用を2台設置

床暖房は、ヒートポンプを使った温水式のものです。設置面積がかなり広く、当初予定していた三菱電機の床暖房ではヒートポンプユニットが2台必要になり割高、ということでダイキンになりました。

室外機は1台になりましたが、マルチユニット対応の強力なものなので、「電気代もそこそこいってしまうかも...」との危惧もありました。はたして実際のところはどうだったでしょうか。

二階(居室4つ+サニタリー+WIC)

二階には、居室が4つ(書斎が二つ、寝室、廊下とつながったホールのような多目的ルーム)あります。これに加えてサニタリーとWICがあります。

二階は睡眠の質や、仕事中に集中できるようにとの配慮から、一階とは対照的に各部屋がしっかりと独立した造り。それぞれ引き戸で完全に区切れるようになっています。

ただし、二階の各部屋は締め切ったとしても、第一種換気の換気システムを通じて空気が循環することで、ある程度は各部屋の温度が均されることが期待されます。なお、換気効率を確保するため、引き戸の下に隙間が設けられており空気が通りやすくなっています。ただし、扉を閉めた時の防音効果が損なわれるのは残念なところです。

なお住んでみると、それぞれの書斎のドアを閉めることはあまりありませんでした。ただし寝室だけは、ラクダとうさぎのライフサイクルが大きく異なるために、就寝中は閉めることも多いです。

積水ハウスの第一種換気は、一階と二階で換気ユニットが独立しているため、二階の空気は二階の中でのみ循環することになります。このため、仮に全館空調的なアプローチがうまくいくとしても、一階とは独立して二階の空調を考える必要があります。

空調設備 - 床暖房:なし - エアコン:居室それぞれとサニタリーあわせて5台設置

居室それぞれにエアコンを設置していったら、なんと5台になってしまいました。この中で、廊下と隣接した開放空間(多目的ルーム)に設置したエアコン1台はやや出力が大きめ、それ以外は出力が小さいエアコンです。果たして実際の稼働状況はいかに...。

3. 季節別の使い方と快適性

3-1. 冬の暮らし(1-3月)

1階の空調戦略:床暖房メイン

冬のメインの空調(一階)は床暖房で、タイマーで17:00-22:00に中ぐらいから弱めの出力で設定しています。実際には18:00に暖かい温水がちゃんと循環するように16:30ぐらいからヒートポンプが稼働します。

床暖房の魅力

控えめにいっても、めちゃくちゃ快適です!私が気に入っているのは以下の4つ。

  1. 室内機が無いので稼働音がゼロ
  2. 床全面が暖かくなる感じで、部屋の中の温度ムラが少ない
  3. 温風が吹かない
  4. じんわりと優しく部屋が暖まる感じ

もう、やめられません。床暖房を採用して本当によかったと思います。設置面積が広いこともありかなり高額になった床暖房の採用を迷っていた際に、採用を勧める営業担当のIさん(ご自宅は積水ハウス建築)に少し意地悪な質問をしたことがあります。

らくだ:「やはり床がタイルで床暖房無しだと、寒いってことですか?」 Iさん:「エアコンでも十分に温まりますが、自分の家でも床暖房を使っていて、とても気持ち良いので、ぜひお勧めしたいんです!」

本当に気持ちよかったです。強く勧めていただき、ありがとうございます。

気になる電気代については、次の記事でご報告する予定です。ただエアコンより高いかもしれませんが、次に家を建てるとしても絶対に床暖房を採用し、メインで使う!とだけここでは言わせてください。

厳寒期の補助暖房

1月の厳寒期は、これに加えてタイマーで朝6:00-8:00ごろにエアコン1台をつける日もありました。日が出てくると、日射取得のおかげで部屋がより暖かくなるので、これより長くエアコンをつけていると、日中に暑くなりすぎることがあるぐらいです。

使わなくても寒くてしょうがない、という状態にはならないのですが、厳寒期に使わなかったとすると、日が昇って部屋が温まり始めるまでの間、理想より1-2度、温度が低くなってしまう、といった感じです。

こちらも最初は床暖房を利用していたのですが、立ち上がりが悪い床暖房をたった2時間程度使うのはさすがに効率が悪いので、機動性のあるエアコンにしました。この時間は、ラクダは動き回っており、うさぎはまだ寝ているため、エアコンのデメリット(床暖房のメリット)がさほど問題にならないことも理由です。

2階の空調戦略:エアコン1台で全体をカバー

二階の中心部(多目的ルーム)にあるエアコンは、夕方から朝までタイマーで20度設定の暖房モードで運転します。これで他の部屋のエアコンは使わなくても十分に温まります。

除湿を考えなくてよい上に、一階の温まった空気が上に上がってくる効果もあるのか、後述する夏の空調と比較すると、冬は各居室のエアコンをあまり使わず、十分に快適な環境を維持することができました。

実際の温度・湿度

データマニア、分析好きのラクダ。Switbotの温度計が家の中に計8台設置されています。 これによれば、真夜中を含め1日通じて土間収納を除き家全体が18-22度に維持されていました。

土間収納だけ、全く日が当たらないこと、扉が常時閉まっていることなどもあってか、他の部屋より1-2度温度が低くなる傾向がありました。

全体として温度の面ではもう申し分なく快適です。ただし、温度が高く維持される代償として相対湿度は20%台後半まで下がることも。このため、ダイニチ工業のハイブリッド式加湿器 LX TYPE HD-LX1024を、1階と2階でそれぞれ一台ずつ使うことで、家全体の湿度を40%前後に押し上げています。

湿度管理の考え方

ラクダとうさぎは、乾燥しがちな海外経験がなかったために、40%というのはとても快適な湿度で、逆に50%を超えると不快に感じます。このため問題がなかったのですが、一般的に言われる通り、冬でも50-60%をターゲットにする場合には、より強力な加湿が必要になりそうです。

室内温度が上がれば(相対)湿度は下がるので、目指す温度と湿度はセットで考えることが重要だと思います。

まとめ - 温度:18-22℃(1日通じて安定) - 土間収納のみ1-2℃低め - 厳寒期の早朝は1-2℃下がることも(エアコンを使わない場合) - 湿度:35-45%(加湿器を1階と2階でそれぞれ一台ずつ使用)

日射取得の威力

何度も言うようですが、日射コントロールはとても大事だと感じました。

私たちの場合は大開口の窓が東西+南にあり、特に太陽の高度が低い冬の南窓からの日射取得は強力で、冬の間恩恵をずっと実感していました。3月ぐらいになると、エアコンが無くても日中はTシャツ、短パンでも暑いことも...。

3-2. 夏の暮らし(6-9月)

1階の空調戦略:除湿運転24時間つけっぱなし

LDKに2台設置したエアコンですが、住んでみると1台で十分でした。パントリー・サニタリーを含めれば、50畳以上の空間を、20畳用エアコン1台で賄えたことになります。

24時間除湿運転の理由

エアコンの使い方ですが、温度もさることながら、湿度に弱いラクダとうさぎなので、夏の間は専ら湿気対策のため24時間、一台のエアコンをずっと除湿モードでつけっぱなしにしていました。外出中はおろか、長期旅行中でもこの一台はつけっぱなしです。

私たちと同じ市町村にお住まいの方で、湿気でひと夏でクローゼットの中の衣装がカビた方の話を聞いたことがあります。快適さだけであれば、家にいるときだけ環境が整っていればよいわけですが、カビ対策などを考えると家にいようがいまいが手は抜けません。省エネに逆行しますが、ここはあえて24時間連続運転。そのかわり、太陽光発電で多くを賄うことでご容赦いただきたい、という気分です。

暑さが厳しいときは除湿モードから、冷房モードに切り替えることもありますが、2台同時に使うことはありません。また、冷房モードに切り替えても、強風になることはなく静かです。

日射遮蔽の工夫

なお、ラクダが重視している日射コントロールに関しても説明する必要があります。一階には南(幅合計2.6m、高さ2.7m)、東(幅合計4.3m、高さ2.7m)、西(幅合計約4.3m、高さ2.7m)の3方向にかなり大きな窓がついています。

夏になると太陽の高度が上がるため、南向きの窓からは直射日光はほとんど入ってこず理想的な状態です。しかし、西側の窓は90cmの軒があっても、午後少し経つと陽が入りだし、夕方になると部屋の奥の方まで強い西陽が差し込みます。

この西日をそのまま入れてしまうと、温度が上昇するのが体感でもすぐわかるぐらい。このため、午後になると西側の窓のロールスクリーンを下ろすことで、日射遮蔽をしています。理想をいえば、窓の外側で遮蔽をするとなお効率が良いのですが、内側で遮蔽しても十分に役目を果たしてくれました。

夏を迎える前には、最悪の場合、屋外にタープのような遮蔽を追加設置することも考えないといけないかな、と危惧していたのですが、こちらも杞憂に終わりました。

なお、東側のロールスクリーンは全開放しているので、西側を閉じても部屋の明るさは十分で、内外のつながりや、開放感が失われない点も、重要なポイントです。

2階の空調戦略:中心部+個別対応

二階の中心部にあるエアコンは、1階のエアコンと同様に、不在時も含めて24時間除湿モードでつけっぱなしです。

ただし、一階と違って部屋が区切られているので、やはりこの一台で完全に賄うのは無理でした。二つの書斎のエアコンを書斎使用時にゆるくつけることもあります。うさぎは暑がりなので、うさぎの書斎では冷房運転をすることも多いようですが、ラクダは湿気が苦手なので、ラクダの書斎では湿気コントロールのために除湿運転をすることがほとんどです。

さらに、就寝時にドアを閉める場合、就寝前からタイマーで除湿モードでゆるくかける日もありました。寝室で実感したのは、人間は熱と蒸気を出すということ。

ドアを閉めた状態で人が数時間寝た後の寝室は、二階の他の部屋と比較して、湿度が10%程度上がっていたりします。ちゃんと換気が機能していても、他の部屋からくるとモワっとした感じがあったりします。こういう時は、最も弱い設定で除湿運転をするとちょうど良くなる感じでした。

実際の温度・湿度

  • 温度:25-27℃
  • 湿度:45-60%

家の中でほぼ温度差なく安定した温度が保てており、とても快適です。

除湿運転の課題

あえてけちをつけるとすれば、除湿運転の場合には、ターゲットの温度を絶対温度で指定できないため、温度調整がやや難しく、時に冷えすぎてしまうことがたまにあるぐらいでしょうか。

関連した話ですが、外気が湿気っている(夏の)日には、湿度を50%以下に抑えたくても難しいという点もあります。無理をすれば湿度は下げられるのですが、同時に部屋が寒くなり過ぎてしまうのです。これは、再熱除湿機能が強力なエアコンであったら、もう少し違っていたのかもしれません。

なお、強力なデシカント式除湿器も一階・二階用にそれぞれ2台持っているので、どんなに外気の湿度が高くても気温の低い時期にはこの問題は起きません。こちらは寒い梅雨の日など、温度は低いのだけれど湿気が高い日のために購入したものです。

本当に困った際には、夏でもエアコンの除湿(温度が下がる)と、このデシカント式除湿器(温度が上がる)を同時稼働すれば問題は解決するはずなのですが、さすがにそれはエコじゃなさすぎるな、と思うのと、そこまで困っていないということもあり、試したことはありません。

4. 住んでみての実感

4-1. 快適性:★★★★★

冬にうまく日射取得ができていたり、換気システムが想像以上にしっかりと機能してくれていたり、といった要因もあり、家の中でほぼ温度差なく安定した温度(冬18.5-22度、夏25-27度)が保てており、とても快適です。

湿度は冬が加湿器を入れて35-45%、夏は45-60%といった感じです。

さらに、空気の清浄さという点でも申し分ありません。

結論:エアコン、床暖房などを適切に利用するという前提であれば、断熱等級5でも、全く問題なく快適に暮らせます!

積水ハウス(特に鉄骨仕様)の施主さんの中には、「建ててみたら寒かった。」という方がいるのを見て若干気にしていたのですが、杞憂に終わりました。

4-2. しかし、ここで疑問が...

「エアコンや床暖房を使って快適なのはあたりまえ。そんな使い方をしていたら電気代はかなり高いのでは?

実際、TEPCO(東京電力)のレポートを見ると「二人暮らしとしては電気を非常に多く使っている」と表示される我が家。

やっぱり断熱等級5では足りないのでは?

もっと高断熱にすべきだったのでは?

この疑問に、次の記事でデータを使って答えます。