住友林業は、注文住宅で建てようと思った2021年から2023年秋ごろまで、ずっと意中のハウスメーカーでした。どこが気に入っていたか、そしてなぜ住友林業を断念したのかは、別の機会にまとめて書きます。ここでは、大手ハウスメーカーで家を建てると、どの程度の金額になるのか、家のコストはどのような要素から成り立つのかを理解するための参考例として、住友林業に登場してもらいます。
住友林業
住友林業は2020年12月に決算期の変更、2023年12月期より、住宅・建築事業を住宅事業と建築事業に分離するセグメント変更を行っています。
住宅・建築事業(単体)
住友林業の住宅部門の売り上げには、注文住宅とは異なるビジネスも一部入っていますが、売上高で見て注文住宅が住宅部門に占める割合は90%程度あります。従って、部門全体の数字を参照しても大きな相違はないはずです。
2019/3 | 2020/3 | 2020/12 | 2021/12 | 2022/12 | |
売上 | 339,923 | 361,921 | 257,600 | 378,777 | 398,913 |
売上総利益 | 82,343 | 84,947 | 57,768 | 79,147 | 76,166 |
売上総利益率 | 24.20% | 23.50% | 22.40% | 20.90% | 19.10% |
国内の注文住宅の利益率は24%程度あったものが、直近では19.1%まで下落しています。ただし後に別指標でみるように、収益性は23年に入って大きく回復しています。売上総利益率(粗利益率)の比率は20%-25%とみてよさそうです。
ただし、単体ベースで住宅セグメントの経常利益の数字を見つけることができなかったので、関連する指標を用います。
住宅事業(連結)
こちらは、住友林業グループ全体での連結ベースの数字です。単体と連結では2割ほど売上高が異なりますが、海外子会社の住宅事業は別セグメントに入っているので、この差がどこからくるかはわかりませんでした。ここでは、事業内容に大きな違いがないと仮定して、数字を読み替えることにします。
2019/3 | 2020/3 | 2020/12 | 2021/12 | 2022/12 | |
売上高 | 452,839 | 474,003 | 332,316 | 510,939 | 533,506 |
経常利益 | 21,598 | 22,570 | 8,454 | 19,641 | 15,899 |
経常利益率 | 4.80% | 4.8% | 2.5% | 3.8% | 3.0% |
連結ベースでは経常利益が計算されており、2.5%~5.0%の経常利益率になっています。この経常利益率は、経営的な観点からはとても低い数字、と感じます。実際に、株主総会における質疑応答資料を見ると、投資家からは「収益改善にむけてどのような施策があるか。」といった質問が出ていました。
総利益率と経常利益率の差が、売り上げに対する販売管理費比率で、約20%から約16%へと減少しています。粗利益率が落ちてくる(十分な価格で家を売れない)中で販売管理費を減らす努力をしながらも吸収しきれず、経常利益も減っていることわかります。
ただし、直近(2023年2Q)の経常利益率は数字は大きく改善しています。住友林業によれば、ウッドショックの鎮静化に伴うコスト低下と、値上げの双方が収益改善に寄与したとのことです。
23/1Q | 23/2Q | |
売上高 | 119,802 | 143,165 |
経常利益 | 3,074 | 12,453 |
経常利益率 | 2.6% | 8.7% |
感想
海外事業の躍進
住友林業の事業ポートフォリオをみると、海外子会社の買収を通じた海外部門の業績の著しい伸びとが目につきます。同時に、国内住宅事業が相対的に地盤沈下しているとみることもできます。
2019年は利益の約40%が国内住宅事業、約50%が海外事業でした。しかし海外部門が絶好調だった2022年の実績約10%と80%、海外部門の業績が落ちつく2023年の予想でも、国内住宅事業が20%、海外事業が73%となっています。
海外部門は売上高もさることながら経常利益率が高く、収益性・成長性が高いビジネスになっており、会社としても今後一層力をいれていきたい分野なのだと思います。
国内の注文住宅が直面する障害
国内部門で収益を回復させようとすると、より多くの家を売るか、価格を下げるか、コストを下げるか、のいずれかしかありません。国内部門は人口減少に伴いパイが縮小すると同時に住宅価格が高騰している中で、販売個数や単価を十分に上昇させることは難しそうです。一部中堅ハウスメーカーの躍進も、一層の競争激化につながっています。
コスト削減の点でも、施工の下請け工務店のコストは上がることはあっても下げるのは難しそうです。また、資材調達の効率化の面でも、積水ハウス、ヘーベルハウス、住友不動産、ダイワハウスのように、注文住宅以外に、賃貸住宅の請負(へーベルメゾン、シャーメゾンなど)、マンション分譲、ディベロッパーなどのビジネスが強いハウスメーカーは、資材の大量購入などのシナジーが期待でいますが、住友林業の住宅部門は、良質な木材を安定的に入手できる点を除けば、社内でのシナジーを期待することが難しそうです。
今後、どのような経営方針になるかがカギ
住友林業の会社としての将来性は高そうですが、国内住宅事業の先行きについては一層の工夫が必要でしょう。海外業務の発展度合いと経営陣の判断次第では、大和ハウスや、三菱地所グループのように、注文住宅事業の社内的な重要性を下げていくという事態も考えられそうです。