積水ハウスで、夢をかたちに。

憧れをかたちに、はできなかったけど、3社で迷い積水ハウスになりました。

家全体の雰囲気を決定づける壁紙選び、徹底解説

1. はじめに:壁紙選びの重要性

壁紙は、インテリア全体の雰囲気を決定する重要な要素です。家の広い面積を占める壁紙は、部屋の印象を劇的に変える力がありますが、費用的には比較的安価でコストパフォーマンスの良い選択肢です。特にリフォームや新築の際には、壁紙を使って大きなデザイン変化を手軽に実現できるため、多くの人が壁紙に注目します。

一方で、インパクトが大きいからこそ壁紙選びにはインテリアの他の要素との調和を考えるなど押さえておくべきポイントがあります。更に機能面や、選べる建具の色などの現実的な制約も併せて考える必要があります。

本記事では、壁紙選びのポイントを解説し、家全体のデザインをまとめ上げるためのアドバイスを提供します。

2. 壁紙の種類と役割

壁紙を大きく「ベース壁紙」と「アクセント壁紙」にわけて考えると良いと思います。

2.1 ベース壁紙とは?

ベース壁紙は、家の大部分を占める壁に使用される基本的な壁紙です。通常、白やベージュ、グレーといったニュートラルカラーが選ばれ、空間に落ち着きと広がりをもたらします。ベース壁紙の役割は、インテリア全体の統一感を保ちながら、他の要素を引き立てることです。

ニュートラルな色調のベース壁紙は、リビングやダイニング、寝室、廊下など、家全体に適用しやすく、他のインテリア要素との調和が図りやすいです。控えめでありながらも、インテリアの基盤を作る重要な役割を果たしています。

2.2 アクセント壁紙とは?

アクセント壁紙は、部屋の一部にデザイン性や個性を加えるために使用されます。リビングの一角や玄関、トイレ、寝室のベッドヘッドなどに使うことで、視覚的なアクセントを与え、空間に動きを持たせます。アクセント壁紙を選ぶ際には、家全体のデザインテーマに沿ったものを選ぶことで、バランスを保ちながら空間に特徴を加えることができます。

ただし、アクセント壁紙は過剰に使いすぎると、部屋全体の統一感が崩れる可能性があります。アクセントを効果的に活用するためには、使用する場所や量に配慮し、全体の調和を意識することが大切です。

3. インテリア全体の調和を考えた壁紙選び

3.1 全体のイメージを整える

壁紙は床や天井、窓、家具、照明、装飾品などの他のインテリア要素と一体となり、空間を作り上げる重要な要素です。家全体や各居室のデザインテーマやイメージが明確であれば、壁紙選びもスムーズになります。

請負契約を結んだ後のインテリアの打ち合わせは順番が異なることもありますが、一般的には建具→設備→床材→壁紙→ウィンドウトリートメント→照明→家具といった具合に分野ごとに進んでいくことが多いでしょう。各段階でその部分だけに集中して好きなものを選ぶと、全体としての調和が損なわれる可能性があります。

明確なイメージがなくても、「明るい」「落ち着いた」「ゴージャス」「モダン」「コンテンポラリー」「ナチュラル」「アーバン」「ミニマリスト」といったキーワードや、ベージュ系、グレー系、ブラウン系などの色の系統を考えるだけでも、大きな違いが生まれます。

全体の方向性が決まっていれば、部屋ごとのアクセントを調整しつつ、全体的な統一感を維持することが可能です。

たとえば、ラクダは、大開口部を取り入れたリビング・ダイニング・キッチン(LDK)において、庭の緑との調和を考慮し、「落ち着いたアースカラーの組み合わせ」をイメージしました。また、家全体には「コンテンポラリーな静けさや落ち着き」「ミニマリスト的なすっきり感」「シャープな造形と柔らかな照明の組み合わせ」「日本の匠の技」などをイメージしてインテリアを考えました。

こうしたイメージは家づくりを考える中で徐々に具体化しましたが、常に全体と部分の関係を意識し、異なる分野を同時並行で検討したこと、そして何よりインテリアコーディネーターがうまく導いてくれたおかげで明確になりました。

3.2 過度な主張、うるささの排除

壁紙やその他のインテリア要素を選ぶ際には、各要素が主張しすぎないように配慮することが重要です。アクセント壁紙は、個性を表現するために使用されますが、同時に、照明や家具、装飾品なども空間内で重要な役割を果たします。これらの要素がすべて強く主張すると、空間全体が「うるさく」感じられ、視覚的な過負荷を生じさせる可能性があります。

たとえば、リビングルームでアクセント壁紙を使用する際、インパクトのある照明や目立つデザインの家具を同時に配置すると、それぞれが競い合い、結果的に落ち着きのない空間になってしまいます。このような状況を避けるためには、どの要素を主役にするのかをあらかじめ決めておくことが大切です。アクセント壁紙を主役にする場合、家具や装飾、そして照明ははシンプルなものを選び、逆に家具や照明に特徴を持たせる場合は、壁紙を控えめにするなどのバランスを取ることで、空間に調和をもたらすことができます。

さらに、各部屋ごとにテーマを変えること自体は問題ありませんが、家全体の一貫性を考慮しないと、過剰なデザインの違いによって「ごちゃごちゃした印象」を与えてしまいます。適度なアクセントを加えながらも、全体として落ち着きのある空間作りを目指すことが重要です。

4. ベース壁紙の選び方

ベース壁紙は、家全体の統一感を保ちつつ、他のインテリア要素を引き立てるための重要な要素です。

とはいえその役割からベース壁紙は主張が強くないものがよいし、施工範囲が広いために価格も大事です。このため、各ハウスメーカーの標準仕様に含まれている樹脂系壁紙の中から選べば十分だと思います。

それでも色とパターンの組み合わせで多数の候補があり、選ぶ際には、以下のポイントを考慮することが大切です。

4.1 統一感とカラーマッチング

ベース壁紙は家全体の統一感を保つために、白、ベージュ、薄いグレーといったニュートラルで明るめのな色がよく選ばれます。これらの色は他のインテリア要素と調和しやすく、部屋を広く見せる効果もあります。

また、壁紙を選ぶ際には、床材や建具とのカラーマッチングも重要です。たとえば、木目調の床やダークカラーの建具と合わせる場合、ベース壁紙が明るすぎると不自然なコントラストが生まれる可能性があります。そのため、ベース壁紙の色はインテリア全体のカラースキームと統一感を持たせることが求められます。

さらに、建具やスイッチ、コンセントの色はあまり豊富ではないため、ベース家具に一般的でない色を選んでしまうと、それらと合わせるのが難しくなることがあります。これも考慮に入れてカラーマッチングを行うことが重要です。

4.2 デザインと素材の選定

日本の住宅では耐久性・施工性・汚れにくさ・価格などのメリットが大きく日常生活に適しているため、樹脂系壁紙が好まれます。この他の自然素材系壁紙も特にアクセント壁紙として使われることがありますので、こちらは別の記事で紹介します。

更に、ベース壁紙には厚手で凹凸のあるエンボス加工した壁紙が選ばれます。このタイプの壁紙は、光の反射を抑え、石膏ボードの継ぎ目などからくる壁の凹凸や欠点を目立たなくする効果があります。

代表的なデザインには、以下のようなパターンがあります:

  • 織物調:織物の質感を再現したデザインで、柔らかく温かみのある雰囲気を演出します。特にリビングや寝室に適しています。

リリカラのホームページからお借りしました。

  • 石目調:自然石の質感を表現したデザインで、モダンでシャープな印象を与えます。玄関やキッチンなど、スタイリッシュな空間に最適です。

リリカラのホームページからお借りしました。

  • 塗り調:塗り壁のような仕上がりを持ち、シンプルかつ高級感のあるデザインが特徴です。全体的な統一感を持たせたい場合に適しています。

リリカラのホームページからお借りしました。

  • 木目調:自然の木材を再現したデザインで、温かみのあるナチュラルな空間を作り出します。リビングやダイニングなどにぴったりです。

さらにそれぞれのパターンの中で目が細かいもの、大きいのもなどいくつかのバリエーションがあったりします。

5. アクセント壁紙の選び方

アクセント壁紙は、空間に個性やインパクトを加えるために使われる重要なデザイン要素です。リビング、寝室、玄関など、特定の場所に使用することで、視覚的な焦点を作り、空間に動きを持たせます。アクセント壁紙を効果的に選ぶことで、部屋全体のデザインが引き締まり、バランスを保ちながら個性を加えることができます。

こちらは施工範囲が狭いのでコストの差が相対的に小さいこと、趣味性が高いので標準で提供されている壁紙の中にイメージに合うものが無い可能性があることも考えると、いろいろな壁紙メーカーの商品を検討する価値があります。

5.1. アクセントクロスの設置場所

アクセント壁紙は、部屋の中で視線が集まりやすい場所に配置するのが一般的です。たとえば、リビングの壁一面や、寝室のベッドヘッドの背後、トイレの一部の壁、玄関の壁など、特定の場所に取り入れることで、部屋にメリハリをつけることができます。

リビングや寝室では、壁の一部分だけにアクセント壁紙を使用することで、空間に深みと個性を与え、視覚的に印象的な仕上がりを作ることができます。また、トイレや玄関のような小さなスペースでも、アクセントクロスを使用することで、限られたスペースに効果的にデザイン性を持たせることができます。

5.2. デザイン選びのポイント

先ほども述べましたが、アクセント壁紙を選ぶ際には、家全体のデザインテーマや色調との統一感を保つことが重要です。無計画に異なるデザインを使いすぎると、全体がごちゃごちゃとした印象になり、統一感が損なわれてしまいます。そのため、インテリア全体のテーマに合わせて、アクセント壁紙の色やパターンを選ぶことがポイントです。

たとえば、モダンなインテリアには、幾何学模様やメタリックのデザインがよく合います。ナチュラルなテイストの部屋には、植物柄や木目調のアクセントクロスを取り入れることで、自然な雰囲気を演出することができます。アクセント壁紙は、部屋に動きを持たせる重要な役割を果たすため、色や柄の選定には十分な計画が必要です。

5.3. 機能性に応じた選定

通常、アクセント壁紙はデザイン性を重視する場所に使用されますが、場合によっては機能性も考慮する必要があります。たとえば、トイレや土間収納などの場所では、防水性や防汚性が求められることがあります。このような機能面が求められる場所では、見た目だけでなく、耐久性や清掃のしやすさも重要な選定基準となります。

アクセントクロスとしての役割と、機能性を両立させるためには、用途に応じた素材選びが重要です。たとえば、トイレや洗面所では、防水性のあるビニール素材のアクセントクロスが適しているでしょう。また、土間や玄関の収納スペースなど、泥や汚れが付きやすい場所では、汚れが目立ちにくく、掃除がしやすい壁紙を選ぶことが推奨されます。

6. 実務的な注意事項

壁紙選びの際には、サンプルを見ただけでは分からない実際の使用感や仕上がりを意識することが重要です。以下の実務的なアドバイスを参考にすることで、壁紙選びにおける失敗を防ぐことができます。

私たちが特に「やってよかった。」と思っているのが、壁紙のサンプルを住んでいる家の壁に並べて貼り、毎日眺めることでした。これにより下で触れるいくつかの注意点に対処でき、確信をもって壁紙を選べるようになりました。

6.1. サンプルより施工した壁の方が良く見える

壁紙のサンプルは、特に薄いものだと頼りなく見えることがありますが、実際に壁に貼るとサンプルよりもはるかに良く見えます。施工後のイメージを考慮して選定することが大切です。

とはいえ、なかなか施工後のイメージをつかむのは難しいものです。この際に役に立つのがモデルハウスや完成宅見学です。モデルハウスや完成宅で施工後の壁紙を見るとだいぶイメージがわくだけでなく、実際に使っている型紙の型番も教えてくれることがあります。型番をもとにサンプルを確認すると、施工前後のギャップを把握できるようになります。

6.2. 面積が広いと、色は明るく見える

色のついた壁紙は、広い面積に貼ると一段階明るく見えることがあります。この現象は壁紙だけでなく、ソファに張地やカーテンなどのインテリア素材にも当てはまります。そのため、色選びの際にはサンプルで見たときよりも少し落ち着いた色を選ぶことで、実際に施工したときに違和感のない仕上がりになります。

6.3. 壁紙を見る距離に注意

壁紙は、近くで見るのと実際に壁に施工してみるのでは印象が大きく異なります。サンプルを近くで見ると、細かなデザインや質感に注目しがちですが、実際には遠目で見たときの全体の印象が重要です。そのため、サンプルを部屋の少し離れた場所に置いて眺めることで、実際に施工した際の仕上がりをイメージしやすくなります。

6.4. 少し時間をかけて検討しよう

第一印象が良いものが本当に良いものとは限りません。例えば、新しくテレビを買おうと思って家電屋に行くと、コントラストが強くて色の出方が派手な機種に目を惹かれがちです。けれどこうした機種は往々にして目が疲れやすかったり、何でもハイファイ調で映されるために画像の深みにかけて飽きやすかったりすることがあります。

同じように、壁紙もデザインがはっきりとしていたり、インパクトのあるものに目がいきがち。だからこそ、壁紙選びは、時間をかけて慎重に行うことが重要です。私たちの場合、候補となる壁紙のサンプルを実際に壁に貼り、2週間ほどじっくりと眺めて過ごしました。

最初に良いと思っていたデザインでも、時間が経つにつれて違和感が出る場合もあります。そのため、サンプルを貼った状態で一定期間過ごし、他のインテリア要素とのバランスも確認することで、最終的な選定がより確実なものになります。

6.5. 壁紙の厚さもチェックしよう

薄い壁紙は、光の当たり方で下地が透けることがあります。時には石膏ボードの継ぎ目が壁紙の上からわかってしまうことも。また、下地処理がうまくいっていない場合、下地の凹凸を拾ってしまい、表面が均一にならないことがあります。これを不陸といいますが、壁紙メーカーは不陸が起きやすいかどうかを等級でつけていたりするので、凹凸が気になる人は確認することをお勧めします。

不陸が出にくい壁紙は厚手でエンボス加工をしたもので、黙っていればハウスメーカーがベース壁紙の候補に挙げてくるものはみな不陸に強いはずです。不陸が気になる人が自分で壁紙を選ぶ際の一つの判断基準として、リフォーム時にも使えるとされている壁紙は不陸耐性が強いと思って良いです。リフォーム時には前の壁紙を剥がした後に新しい壁紙を貼りますが、どうしても剥がしたあとはきれいにならないため、不陸耐性が高いものが必要になるのだそうです。逆に商業施設用の壁紙は、不陸をあまり気にしていないことが多いようで薄めのものが多いとか。

私たちはベース壁紙は不陸に強いものを選びましたが、ラクダとうさぎの書斎には、それぞれ薄くて不陸に敏感なアクセント壁紙を選んでしまいました。ICさんに「神経質でなければ、まあ大丈夫だと思います。」と後押しされたこともありますが、気に入った壁紙だったので、リフォーム時には使えないのだったらぜひ新築の時に、と思ったこともあります。ICさんには、「大丈夫です。リスクわかったうえで選びます。」と大見えをきったのですが、上手に施工してくれることを祈るばかりです。

壁紙を貼る前に石膏ボードの継ぎ目や、ビスをうったところ

7. まとめ

壁紙選びは、家全体のインテリアにおける重要な要素です。ベース壁紙によって空間に統一感を持たせ、アクセント壁紙で個性を加えることが、バランスの取れた美しい空間を作り出す鍵となります。壁紙は他のインテリア要素と比較してコストパフォーマンスが高く、比較的簡単に変更できるため、冒険してみることも可能です。

しかし、壁紙選びは慎重に行う必要があります。特に、建具やスイッチ、巾木、窓サッシといった固定要素との調和が取れていないと、全体のデザインに違和感が生じることがあります。サンプルを見て即断するのではなく、実際の使用感や全体のバランスを考慮しながら選定を進めることが大切です。

最終的には、家全体のテーマや雰囲気を意識し、全体の統一感とバランスを保つことが成功の鍵です。時間をかけてじっくり検討し、実際の生活空間に最適な壁紙を選び出すことで、満足のいくインテリアを実現できるでしょう。

ドイツは日本の5倍以上の暖房エネルギーを使っている

はじめに

以前の記事で、北欧やドイツと日本の気候の違いを定量的に比較できるように、暖房用エネルギー需要に最も関連が高いHeating Degree Dayという数値を計算してみました。

City HDD CDD Region HDD_normalized Ua(equivalent)
Helsinki 3994.18 2.66 EU 265 0.23
Oslo 3866.34 1.45 EU 256 0.23
Stockholm 3553.60 4.38 EU 236 0.25
Sapporo 3338.92 37.54 JPN 221 0.27
Copenhagen 3004.05 0.68 EU 199 0.30
Berlin 2853.08 13.29 EU 189 0.32
Sendai 2232.92 119.36 JPN 148 0.41
Madrid 1580.77 271.19 EU 105 0.57
Tokyo 1508.20 257.59 JPN 100 0.60

仮に家の性能・大きさ・暖房の使い方同じであるとすれば、暖房用エネルギーの必要量はこのHDDに比例する、と考えてもらって構いません。

今回は、単にUA値などの断熱性能を比べるだけでなく、実際の暖房用エネルギー使用量の比較を通じて、「日本の家が寒い。」という通説が妥当かどうかを調べてみたいと思います。

結論を先に行ってしまうと、

  • ドイツの家は断熱性能が高いが、気候の違いを加味すると違いは小さくなる
  • ドイツの家が暖かいのは、断熱性が高いことよりも常時全館暖房のおかげ
  • 暖房の違いから、ドイツの暖房エネルギー使用量は圧倒的に多く、省エネはより切実な課題

という結果が見えてきました。

エネルギー消費量の比較

ドイツの一戸当たり暖房エネルギー需要は日本の5倍以上

2010年前後の数字で少し古い統計になりますが、世帯あたり用途別エネルギー消費の国際比較のデータがあります。出典は家庭部門:世帯あたり用途別エネルギー消費です。

これによると、日本の暖房用エネルギー使用量は10GJであるのに対して、ドイツの暖房用エネルギー需要は53GJです。断熱性が高く光熱費がかかりにくいはずのドイツの家の方が、「寒い」といわれる日本の家よりも何倍もの暖房用エネルギーを使っているというのは驚くべきことだと思います。

逆に言えば、ドイツが温暖化対策としてのカーボンニュートラルを目指す上で、住宅の断熱性を高めることが大きな意味合いを持っていることがわかります。

他の要因を調整してもギャップは埋まらない

気候要因

日本の数字は北海道なども含まれた数字ですが、仮に全国が東京並みに暖かかったと考えて、東京とベルリンのHDDの比率を考えても2倍です。

ドイツの断熱性基準は数年ごとに厳しくなっていっていますが、2010年時点で比較しても日本よりずっと厳しい断熱性基準を持っていることを踏まえると、2倍より小さくなければ辻褄があいません。

家の大きさ

家の大きさについては正確な統計はないのですが、日本の戸建て住宅が120〜130㎡に対して、ドイツは130〜150㎡といった水準のようです。従って、他の条件が同じであれば最大二割程度ドイツのエネルギー消費が多くてもおかしくありませんが、それでも全くギャップが埋まりません。

エネルギー需要の統計は、戸建だけでなく集合住宅も含まれているため、厳密にはより細かく場合分けした議論が必要ですが、大きなギャップを埋めるほどのインパクトはないと思われるため、ここでは割愛します。

なぜドイツのエネルギー使用量が大きいのか

ドイツでは全館空調が一般的

このエネルギー使用量の謎を解き明かす鍵は、暖房の使い方の違いにあります。日本は、局所的に必要な時だけ暖房を使う方法が主流なのに対して、ドイツでは家全体を常時温める方法が一般的です

厳しい気候と暖房の使用法が組み合わさってドイツでは暖房用エネルギーが家庭用エネルギー使用量の70%以上(日本は25%以下)を占めるため、省エネ実現のためには家の性能に対する要求水準を著しく高める必要があったと結論づけることができます。

以下は、住環境研究所がこの点について触れた資料からお借りしたイラストです。家全体がほぼ20度に保たれていることがわかります。「省エネは大事だけれど、快適さは譲らない。」という主張が伝わってくるようです。

家庭におけるエネルギー構造と課題

ドイツと日本では暖房のエネルギー効率が違う

ヒートポンプは熱効率が非常に高い

エアコンや、エコキュート(電気式給湯器)、および最近の温水式床暖房(電気使用)はヒートポンプを使っています。

エネルギー効率を示す指標として、Coefficient of Performance (COP) があります。具体的には、システムが消費するエネルギーに対して、どれだけの有効な暖房または冷房を提供できるかを示す比率で、COPの値が高いほど、システムのエネルギー効率が高いことを意味します。

燃焼式ヒーター

ガスや灯油を燃焼させて直接熱を発生させます。燃料の化学エネルギーを熱エネルギーに変換するため、投入したエネルギー以上の熱は得られません。一般的に効率は0.7~0.9と言われています。

ヒートポンプ

ヒートポンプは、外部の低温の熱源(空気、地中、水など)から熱を吸収し、それを高温にして室内に移動させる装置です。蒸発、圧縮、凝縮、膨張のサイクルを利用し、冷媒を循環させることで熱を移動します。電力を動力源として使用し、消費電力の3〜6倍(COP 3~6)の熱エネルギーを移動できるため、高いエネルギー効率を持ちます。

実際に日本のエアコンでは冷房時でCOPが4、暖房時でCOPが5以上のものも珍しくありません。

ドイツはガス・オイルを使ったボイラーが多い

日本ではヒートポンプ式のエアコンが暖房の主流になっています。これに対してドイツで最も普及している暖房方式は、セントラルヒーティング方式のハイツング(Heizung)です。これは、ガスなどを利用して建物の地下室にあるボイラーで温水を作り、配管を通じて各部屋に供給する方式です。

以下はB.A.U.M Consultingからお借りした2021年のドイツの暖房用エネルギーの構成比を示したグラフです。

このグラフから分かるように、ガス・暖房用オイルを燃焼させる方式の割合が高くなっています。

ヒートポンプによる暖房は外気温が寒ければ寒いほどエネルギー効率が落ちること、ガスや灯油を燃焼する方式の方がすぐに温まりやすいことなど、寒冷地ではヒートポンプがやや使いにくい性質を持つことも普及が遅れている原因だと思います。

ドイツでも、近年の親切住宅におけるヒートポンプのシェアは50%を超えるなど変化しつつまりますが、既存住宅も含めた全体では、ヒートポンプの割合はまだまだ小さいです。

一次エネルギーと二次エネルギー

ここまでのところを見ると、ヒートポンプの圧勝ですが、エネルギー源として電気とガスを比較する際には、一次エネルギーと二次エネルギーの違いを無視できません。

一次エネルギー

一次エネルギーとは、自然界に存在するそのままの形で利用可能なエネルギーを指します。これには、以下のようなものが含まれます:

これらは直接採掘または収集され、そのままの形で利用されることが多いです。

二次エネルギー

一方、二次エネルギーは、一次エネルギーを変換・加工して得られるエネルギーです。具体的には以下のようなものがあります:

  • 電力: 火力発電や原子力発電によって生成される
  • ガソリンや灯油: 原油から精製される
  • 都市ガス: 天然ガスを加工して供給される

これらは最終的に消費者が使用する形態のエネルギーであり、一次エネルギーを使いやすく変換したものです。

電気

一次エネルギー換算係数: 電気の1MJは、一次エネルギー換算で約2.2〜2.7倍のエネルギーが必要です。具体的には、1kWh(3.6MJ)の電力を得るために、9.76〜10MJの一次エネルギーが必要とされています。

都市ガス

一次エネルギー換算係数: 都市ガスの場合、1MJはそのまま1MJとして扱われます。これは、都市ガスが天然ガスを主成分とし、そのまま利用される上、各家庭に送る際の損失も非常に小さいからです。

従って電気とガスの比較をすると、同じエネルギー量当たり電気の方が一次エネルギーを多く使っていることになります。この違いは同じ熱量当たりの電気料金とガス料金の違いにも跳ね返ってきます。

全体としてみると日本の暖房はエネルギー効率が良い

一次エネルギーでみたときのエネルギー効率を知るためには、上であげた二つの要素を併せて考えることが必要です。

ヒートポンプの場合には、一次エネルギーから電気にするところで損失が大きいものの、電気を使って取り出せるエネルギー量が大きいのに対して、ガスは天然ガスから都市ガスへの二次エネルギーへの変換の際の損失がほぼ無いのに対して、家庭でのエネルギー効率が低いことになります。

この二つの効果を組み合わせても、1.5倍~2倍程度はヒートポンプの方がエネルギー効率が良く、ひいてはヒートポンプ普及率の高い日本の暖房はエネルギー効率が高いということができます。

日本の家が寒いのは暖房を使いたがらないから

断熱性が高いはずのドイツでもこれだけ暖房用エネルギーが使用されていることから、言えるのは、高断熱でも暖房を適切に使わないと寒い、ということです。

こういうと反論としてパッシブハウスの例が出てくるかもしれませんが、全世界でパッシブハウスとして認定されたのは、2020年に累計25000軒、2023年に累計で38000軒といった水準に留まっています。本場ドイツを含めても新規住宅に占めるパッシブハウスの割合が極めて低いことを考えると、現実的な実用性のある仕様には到達していない実験的な試みと位置付けるのが妥当だと思います。

「日本の家は寒い。これは断熱性能が低いからです。」という説がまことしやかに流布されていますが、それにもまして、「日本の家は寒い。家全体を暖めるように暖房を設置したり、使ったりしないから。」と言う方が実態に即しているのではないでしょうか?

従って、「断熱性をあげれば寒くない。」のではなく、「寒くない家にするためには。適切に暖房を使う必要があるが、断熱性が上がれば暖房費が下がる。」と言うことで、コストパフォーマンスの議論として捉えるべきだと思います。

ドイツ・北欧の断熱性能の基準が高いのは事実

北欧・ドイツでは、家全体の平均熱貫流率ではなく、部材ごとにU値の上限が決まっているのが一般的です。

似たような枠組みとして、日本では、断熱等級4まではUa値を計算しないで部材ごとのU値で基準に適合しているか判断する、仕様規定ルートがあり、同じ枠組みで断熱等級5と整合的な基準が「誘導基準」として公表されています。

住宅の省エネルギー基準と評価方法2023

以下のテーブルでは、各国の仕様と日本の断熱等級5相当の仕様をまとめました。ヨーロッパでは基準改定の頻度が高いことから、以下の数値は最新のものではない可能性があります。また原語の資料にあたるのが難しいこともあり、英語で作成された二次資料を参考にしているため、数値に誤りがある可能性もあります。この点を踏まえて、参考程度に見ていただければ幸いです。

都市(国) 壁のU値 (W/m²K) 屋根のU値 (W/m²K) 床のU値 (W/m²K) 窓のU値 (W/m²K) ドアのU値 (W/m²K) 法律/ガイドライン 改訂・発効年
Helsinki (フィンランド) 0.17 0.09 0.16 1.0 1.0 National Building Code of Finland 2018
Oslo (ノルウェー) 0.18 0.13 0.10 0.8 0.8 Norwegian building code 2017
Stockholm (スウェーデン) 0.18 0.13 0.15 1.2 1.2 Swedish building code 2019
Copenhagen (デンマーク) 0.30 0.20 0.20 Danish building regulations 2018
Berlin (ドイツ) 0.28 0.20 0.35 1.3 1.8 EnEV (Energieeinsparverordnung) 2016
Madrid (スペイン) 0.66 0.38 0.49 2.7 2.7 CTE (Código Técnico de la Edificación) 2019
日本:等級5(1・2地域) 0.28 0.17 0.24 1.9 1.9 建築物エネルギー消費性能基準 2022
日本:等級5(6地域) 0.44 0.22 0.34 2.3 2.3 建築物エネルギー消費性能基準 2022

これをみると、断熱等級5(1・2地域)で、窓・玄関ドアを強化したものが、ドイツの基準と近い水準になります。ただしドイツは2020年にもう一段厳しい規定になっている一方で、日本では断熱等級5は必須ではないなど、運用面で差があります。

高い性能を求める背景

ドイツ政府は、2045年までに建築物全体をほぼ気候中立にするという大きな目標を掲げています。これは、温室効果ガスの排出を大幅に削減し、気候変動への影響を最小限に抑えることを目指しているからです。

この目標は、パリ協定に基づき、世界全体が気温上昇を産業革命前と比較して1.5度未満に抑えるという国際的な枠組みの一環でもあります。 なぜ2045年がターゲットとされているかというと、建物の寿命や改修の周期を考慮すると、すべての既存建築物をこの時期までにエネルギー効率の高い形に改修し、新築の建物を最初から気候中立の基準に適合させるために必要な時間がこれくらいだと見積もられているためです。 建築物は長寿命であるため、すぐに結果が出る分野ではありませんが、今から取り組まないと2045年の目標達成は難しいとされています。

この取り組みの中では、単に建物の断熱性能を向上させたり、再生可能エネルギーを用いた暖房設備を導入するだけでなく、全体のエネルギー消費量を最適化することが重視されています。さらに、建築物だけでなく、エネルギー供給全体も再生可能エネルギーへの移行が推奨されています。

ドイツでは、こうした考え方は他の分野でも広く推進されており、2035年から一部の例外を除きガソリン車およびディーゼル車の販売が禁止するという野心的な目標も掲げています。

地球環境を考えるとこうした措置が重要なことは言うまでもありませんが、「家の快適さ」や、「居住者にとってのメリット」を直接的な目標にした規制でないことは押さえておくべきだと思います。

まとめ

改めてデータが語ることをまとめると以下の通りです。

  • HDDを加味すれば、6地域の断熱等級5は、ドイツの気候におけるドイツの家と同程度のエネルギー効率を持っている。
  • ドイツの家が暖かいのは、常時全館暖房のおかげ。ただし、エネルギー効率の低い暖房器具が多いこともあって、ドイツの暖房用エネルギー使用量は日本に比べて格段に多い。
  • ドイツの規制は、気候中立・カーボンニュートラルの実現に必要な水準を目指したもの。家の快適さのために必要な水準を定めたものではない。
  • 日本は既にエネルギー効率が高い暖房(ヒートポンプ式エアコン)が普及している。エアコンを使うことを厭わなければ、快適に暮らせるはず。

寒冷地においては事情がやや異なるものの、「諸外国との比較で日本は遅れている。日本の家は寒い。だから断熱性能を大幅に向上させなければいけない」式の煽るような議論には少し距離をおいた方がいなと感じます。

とはいえ、断熱性能が高いことのデメリットはコストと、有効に使える床面積への影響のみ。どの程度の断熱性能が良いのかは、引き続き考えてみたいと思います。

北欧・ドイツと日本の気温を比較してみた

はじめに

断熱・気密の話になると、「日本は遅れている。海外ではもっと厳しい基準が採用されており、日本の家は寒い。」という説明をよく目にします。

日本の家がダメと言われているようでモヤモヤしないでもないのですが、調べてみると、確かに北欧やドイツにおいて断熱性や気密性で求められる条件は、日本のそれと比べるととても厳しいのです。こうした国の規制・基準については背景も含めて考えさせられる点があり、改めて掘り下げて考えてみたいと思います。

一方で、日本で北欧やドイツ並みの性能が必要かどうかを考える上で、気候の違いも大きく影響するはずです。下の図にあるように、日本の大半は北欧やドイツに比べて温暖とされています。

しかしながら、この図は日本国内の標高の影響などを反映しているように見えません。今回は気候の違いをより具体的なデータをもとに比較してみたいと思います。

データ

気温を比較するための代表例として日本からは東京(断熱地域区分:6地域)、仙台(断熱地域区分:3地域)、札幌(断熱地域区分:2地域)を選びました。

ヨーロッパでは、コペンハーゲンデンマーク)、オスロノルウェー)、ストックホルムスウェーデン)、ヘルシンキフィンランド)、ベルリン(ドイツ)、マドリッド(スペイン)を選びました。北欧諸国+ドイツに、東京と気温が近いと思われるマドリッドの組み合わせです。

日次データを

から取得し、2014年~2023年までの10年間分を使用しています。

毎日の最低気温、最高気温、平均気温などを取得することができますが、今回は平均気温を使いました。

平均気温は、昼の暑い時間から真夜中のやや涼しい時間(夏の場合)までを平均した数字なので、夏であれば感覚より低めに出ます。2024年8月の東京を例にとると、日中の最高気温と一日の平均気温では5度前後の差があります。

月次平均気温

実線が日本の3都市、破線がヨーロッパの都市に対応しています。

このグラフからは、

ことが見て取れます。ざっくりとまとめると、北欧+ドイツは2地域・3地域相当と考えると良さそうです。ちなみに今回のグラフでは省きましたが、旭川(1地域)はこれよりもぐっと気温が下がります。

グラフから大体の傾向はわかりますが、実際の暖房用エネルギー需要を知るためにはもう少し丁寧に分析する必要があります。このために一般的に使われるのが、HDDという指標です。

暖房度日: Heating Degree Day (HDD)の概念

HDDは、暖房の必要性を示す指標です。外気温が基準温度より低い日数とその温度差を累積して計算します。

$$HDD=\sum \max⁡(0, \text{基準温度}-\text{日平均気温} )$$ 基準温度が18度として、今日が16度、明日が12度、明後日が20度とすると、

$$(18-16) + (18-12) + (0)....$$

といった具合に1年分積み上げた数字です。3日目は、平均気温が基準温度を上回っているので0になります。この数値は、暖房で部屋の温度を外気温から基準温度まで温めようとしたときに、どれだけのエネルギーが必要かを推測するために使われます。

基準温度は、16.5度、18度、20度など、国によって異なる数字が使われます。このため、HDDが既に計算されていたとしても、異なる国のHDDをそのまま比較するのは危険です。今回は、基準温度を18度として、計算しました。

同様の概念で、冷房度日:Cooling Degree Day (CDD)という数値もあります。こちらの計算では、24度を基準温度にしました。

HDDで見る暖房用エネルギー需要

2014年から2023年の日次データに基づいて計算した結果は以下の通りです。

実際のデータはこちらです。東京のHDDを100とした場合の各国のHDDが最後の列にあります。また、東京で断熱等級5(Ua値=0.6)と同じ暖房エネルギー消費量を実現するために必要なUa値をHDDをもとに換算したものを、Ua(Equivalent)欄に記載しました。

City HDD CDD Region HDD_normalized Ua(equivalent)
Helsinki 3994.18 2.66 EU 265 0.23
Oslo 3866.34 1.45 EU 256 0.23
Stockholm 3553.60 4.38 EU 236 0.25
Sapporo 3338.92 37.54 JPN 221 0.27
Copenhagen 3004.05 0.68 EU 199 0.30
Berlin 2853.08 13.29 EU 189 0.32
Sendai 2232.92 119.36 JPN 148 0.41
Madrid 1580.77 271.19 EU 105 0.57
Tokyo 1508.20 257.59 JPN 100 0.60

この数値に基づけば、ベルリンは東京の1.9倍、ヘルシンキは東京の2.65倍、暖房用エネルギーが必要ということになります。逆に言えば、ベルリンではUa値=0.32、ヘルシンキではUa値=0.23を確保してようやく東京の断熱等級5と同程度の熱損失に抑えられるわけです。

札幌で断熱等級5をとるためにはUa値0.4が必要ですが、0.4では東京の家より寒く感じることも、この表から予想できます。

冷房用エネルギー需要について

CCDからわかるように、冷房用エネルギー需要では逆のことが言えます。しかし、外気と基準温度(概念的には冷暖房温度)との差は冬の方が夏より大きくなります。また、暖房が必要な 期間の方が、冷房が必要な期間より長くなりがちです。このため、HDDとCDDの間には大きな違いがあります。

従って、エネルギー需要を考える上では暖房用エネルギーをどう抑えるかという観点で考えればよいことがわかります。

まとめ

環境保護エコロジーが重要なご時世、エネルギー消費が少ないに越したことはありません。しかし、最近の断熱・気密ブームはマーケティングのためのツールになっているような気がしてなりません。

Ua値がいくつ、C値がいくつ、というのはアピールしやすいけれど、エネルギー消費を減らすという目的でいえば考えることは他にもあるはずです。また、

  • Ua値をが0.1小さくなるとどのぐらいエネルギー消費量が減る?
  • C値が0.5小さくなると、どのぐらいエネルギー消費量が減る?(寒くなくなる?)

といった問いに対してある程度の感覚がなければ、どの水準を目指せばよいのか、優先順位をどうつけるのかもわかりません。

更にこうした問いを考えるうえで、外気と屋内の温度差(天候)は一番重要なデータです。何回かにわけて、断熱・気密の影響を定量的に考察していきたいと思います。

積水ハウスの気密仕様

はじめに

中間気密測定が期待していた水準に全く届かず、残念ながらC値1.3という結果になってしまったことは、前回の記事でご紹介した通りです。

私たちの家の気密性能が見えてきたところで、現時点で積水ハウスの気密性能に関して、私が調べた内容や考えたこと・感じたことをまとめておきます。これは、2024年9月現在の情報です。

現実的な気密性能の水準は?

気密性能は特に鉄骨を商品として持っている大手HMにとっては鬼門です。こうした中で、意欲的な工務店や、一部のハウスメーカーは対大手HMでアピールポイントになることもあってか、積極的に取り組んでいます。

気密性能は、特に鉄骨を商品として持つ大手HMにとっては鬼門です。こうした中で、意欲的な工務店や一部のハウスメーカーは、大手HMに対抗するアピールポイントとして、積極的に取り組んでいます。

例えば、一条工務店は基準値がC値0.7(測定した結果の平均は約0.6)、アイ工務店(2023年9月以降契約分)やヤマト住建は、C値0.5を基準値として全棟気密測定を行っているようです。少し極端な例では、旭化成ホームズの実験的新商品ともいえるAsu-haus(木造)では、C値0.2を目指すという例もあります。

安定して気密性能を出せるのが一条工務店だけであれば、それは一条ルールといわれる設計・仕様面での厳しい縛りがあるからと言えそうですが、アイ工務店でこれができているのは象徴的です。

アイ工務店は、年間5000棟以上を建築している一方で、品質管理が難しいフランチャイズ制をとっています。フランチャイズと大量建築の組み合わせでも、安定して気密性能を提供できるということは、やる気さえあればC値0.5は意外と達成できるということでしょう。

Asu-hausは価格が高い印象もありますが、他の例を見る限り、気密性能を上げるために追加的な材料費やコストを大幅にかける必要はなく、設計・施工が気密を確保するポイントをしっかりと理解し、気密に配慮した工法に基づき丁寧に施工することが重要なようです。

こうして見ると、現代の技術水準であれば、C値0.5〜0.6ぐらいは、やる気があれば実現可能な範囲だと思います。この目線で、積水ハウスの気密性能について考えてみたいと思います。

積水ハウスの気密施工のグレード

積水ハウスは、気密について積極的に語らないHMです。気密に限らず、数値について語らず、スペック競争から距離を置いたハウスメーカーともいえるかもしれません。

このため、情報も非常に少ないのですが、ネット上の情報をまとめると、2024年春時点では、

標準仕様 → 気密施工オプション → スーペリア仕様

の3段階があることはほぼ間違いないようです。

標準仕様

積水ハウスの標準仕様では、室内と断熱材の間に防湿シートが入りません。シートではなく、合板等で気密ラインを形成する工法もあるようですが、特に気密性能を意識した施工は行っていないようです。

ネット上でも「シートが無い」という情報が散見されますが、信じがたく現場監督に確認したところ、やはり無いとのことでした。ここまでくると、積水ハウスの本音は「気密性能、そんなに重要ですか?」と考えているようにすら感じられます。

以前は「積水ハウスの家は寒い」という声もよく耳にしましたが、気密施工オプションの採用率が低いにもかかわらず、最近の施主コメントでは「エアコンをつければ十分に快適」という声が多く見られます。

「エアコンを極力使わず省エネ」とか「スペックが優れた家」という優先順位がない限り、これで十分なのかもしれません。

気密施工オプション

気密施工オプションは、防湿シートを施工する他、気密テープをより広範に貼る、コンセントに気密カバーを付けるといった内容です。また、3・4地域仕様と1・2地域仕様があり、天井の施工方法が異なります。

報告されている施主の方はみな1・2地域仕様気密施工オプションを採用しているようですし、私たちも1・2地域仕様気密施工でした。3・4地域仕様は中途半端なので、実際にはあまり提案されていないのかもしれません。

金額面では、私たちの例をとると、気密施工オプションは坪当たり1万円弱の追加費用でした。

気密施工オプションが目指す数値としては、「C値2.0を切ること」と、「C値1.2程度を目指している」といった例がネット上ではでています。

もう削除されてしまいましたが、かつて存在した次世代省エネ基準区分では、C値の基準は2.0(1・2地域)とされていました。ちなみに3地域以下はC値5.0です。歴史的経緯を踏まえると、公式には「C値2.0を切ること」とするのは十分に考えられます。

ラクダが中間測定の結果に遺憾の意を伝えたところ、現場監督が本社商品開発部門に問い合わせてくれたのですが、「C値1.3で十分に期待した性能がでているじゃないですか。問題ありません。」との回答だったそうです。

スーペリア仕様

スーペリア仕様は相当に価格があがるという声もありますが、2023年末に導入された新しい仕様のこともあり、情報がほとんどありません。これまでに報告されている施工例のほとんども、スーペリア仕様ではないようです。時期的にも今後少しずつ施工例がでてくるのではないかと思います。

また、積水ハウスは気密性能を断熱性能と一体で考えている節があり、スーペリア仕様と一言で言うと、断熱性能と気密性能双方がアップグレードされます。高額と言われていますが、断熱部分が高額で、気密性能だけをスーペリア仕様相当にアップグレードするのであれば、金額はそこまでしないのかもしれません。

ただ、現場監督の上司によれば、スーペリア仕様を踏まえても「積水ハウスにはC値1.0以下を保証するような仕様は無い」とのことです。

保証をしないということと、達成できないということは違いますし、公式には「鉄骨と木造で性能・やれることにほとんど違いが無い。」とアピールする中で、木造だけ良い性能を掲げにくい事情も理解できます。従って、実際には相応の性能が期待できるのかもしれませんが、気密施工の内容を考えると、ここで金額が大幅上乗せになるのは納得感が低い気がします。

気密測定の実例・参考値

シャーウッド

気密が気になる技術志向の施主さんはX(旧Twitter)と相性が良いのか、Xで検索するとちょこちょこ実例が出てきたりします。最近の例では、

といった感じです。数字は中間測定→完成時測定です。

キューブさん(最初の0.2)の方は、現場に細かく指示を出して気密に配慮したプラスαの施工をしてもらっているようで一般性に欠けます。従って、C値0.6ぐらいが上限だと思っていたのですが、最近になって別の方が0.2を出しています。

この方は、施主が気密測定業者から入手した「気密施工時に気を付けるポイント」の資料を現場監督・大工さんが勉強した上で施工をしてくれたようです。他にも、施工地域であまり経験が無いので、経験がある北陸の支店に問い合わせて施工したところ、0.6が実現できた、という例もありました。

これらの情報をまとめると、

  • 積水ハウスのマニュアルをただなぞるだけの施工では、C値1.0を切れなくてもおかしくない。
  • 気密施工オプションの仕様は、ポイントを理解して丁寧に施工すれば0.6程度を出せるだけのポテンシャルはある。
  • 本社はそもそも目指す水準が低く、ノウハウは支店レベル、あるいは施工チームレベルで偏在している可能性が高い。このため、ノウハウや意欲があるチームにあたるかどうかで、結果が大きく左右される。
  • ノウハウは支店レベル・協力工事店レベルで偏在している、
  • 気密施工オプションをつければ、C値1.5はほぼ切れそう。

と言えそうです。

鉄骨

そもそも気密にこだわる人は鉄骨をあまり選ばないこともあり、シャーウッドに較べて更に例が少ないのですが、二つ具体例が出ています。

最初の方は結果にとても不満だったようですが、木造であれば0.5ぐらいに匹敵する数字ではないでしょうか。鉄骨でこの数字は素晴らしいと思います。ご不満だった背景には、FPの家と比較していたころに、営業担当から鉄骨でも木造でも同じ性能が出せるので気密性能についても大丈夫、といった説明を受けていたためのようです。

二人目の方は、積水ハウスの仕様について詳しいYoutuberがかなり細かいところまで関与したと思われる家で、現在積水ハウスの鉄骨で到達できるほぼ限界のように思えます。

現場ガチャ

気密測定した実例を見ると、木造+気密施工オプションであれば、工法としては最初にあげたC値0.5-0.6に近い水準は出るし、現場の習熟度・理解度があがり、やる気があれば更に上も狙えるポテンシャルはあると言えそうです。

しかし、このポテンシャルを活かせるかどうかは現場次第でガチャの要素が強いのが今の積水ハウスだと感じました。

新設されたスーペリア仕様であれば、一層ポテンシャルは高いのかもしれませんが、気密施工は施工にあたる職人の理解力・経験が重要だとすれば、スーペリア仕様にしても同じ職人が施工する限り、ポテンシャルを活かせない気がします。

例えば「スーペリアであれば、C値0.5を保証します。」ということであれば、積水ハウスは絶対に成し遂げてくれる会社ですが「1.0以下を保証できる仕様は無い。」とのことなので、会社としてのコミットメントは期待薄です。

従って、「一定の気密性能を出すことが絶対条件」という施主には積水ハウスは向かないと思います。

それでも積水ハウスで気密にこだわるのなら

対応してもらえるかどうかわかりませんが、もし気密性能が絶対条件であるにもかかわらず、何らかの理由で積水ハウスで建てたい場合、ハードルは高いですが、以下のいずれか、あるいは組み合わせを試みると思います。

  • 施工を担当する協力工事店の気密施工経験と、もしあれば気密測定結果を聞く。これで、ある程度の数値が出ている協力工事店であれば、良い性能が出る可能性があがる。

  • 気密施工のポイントを知っている気密測定業者、あるいは積水ハウスの中で気密施工の経験値が高い支店から資料を入手し、施工を担当する協力工事店に渡した上で、対応できるかどうか確認してもらう。

  • 中間気密測定時、フォグマシーン等を用いて隙間を見つけ塞いでいく対応に協力してもらう。

まとめ

今回は、積水ハウスの気密性能についてのまとめです。次回は、気密に関する考察の最後として、気密性能がどれだけ重要か、改めて考えてみたいと思います。

悲報:中間気密測定の結果は…

はじめに

前回は、気密測定で数字を計測できるようにするだけでも、一苦労だった経緯をご紹介しました。今回は私たちが立ち会えなかった中間気密測定の結果の報告です。

期待していた数値の水準

ハウスメーカー積水ハウスに決めた時点で、積水ハウスは気密性に強いハウスメーカーではない、という認識はしていました。

それでも

  • 鉄骨ではなく木造
  • 引き違い窓の数を減らす
  • 営業担当、設計士に気密性を重視していることを伝え、設計面でも考慮してもらう
  • 気密施工オプションを追加
  • 気密測定を行うことを前提に施工してもらうよう依頼する

など、できることは全てしてきたつもりです。

中間気密測定が近づくなか、改めてSNS等で調べると、シャーウッド+気密施工オプションであればC値が0.6前後出ている例も複数件あるばかりか、なかにはC値が0.2という例も。一方でC値が1.4という例もありました。

こうした例を踏まえ、

ラクダ: あわよくば、C値0.5~0.6を期待。しかしながら、これまでの経緯を見ると私たちの現場では気密性への理解度や施工水準は期待できなさそう。なんとか、0.8ぐらいにならないかな。悪くても、せめて1.0を切ってくれれば・・・

と思っていました。

結果は?

測定日当日、どきどきしながら結果報告を待ちます。結果は、

インスペクター: 本日気密測定を実施しました。

C値は1.3でした。

現場では建設会社と共に可能な限り対応させていただいた状況です。

とC値1.3 (1.27)、n値1.58という結果でした。期待していたより相当に残念な数字です。その後、現場監督さんからも、連絡がありました。

現場監督さん: あらゆる箇所について隙間を確認しましたが大きな隙間等は無く、ビスの穴等隙間の積み重ねの可能性があります。

今後の工事の中でその部分についてはパテ処理にて埋まって来ます。

とのことですが、n値をみても、満遍なく細かい隙間があるのではなく、どこかに大きめの隙間があることが予想されます。「今後埋まっていく」という説明と合わせて、実体験に基づかない希望的観測でしかないことが伺われます。

なお、同じレポートによるACH(気圧差50Pa時の漏気回数)は、2.1回/hと、かなり高い数字(悪い数字)がでました。ただし、前提条件を考えると、この2.1回を、機械換気の目標数値である0.5と直接比較することは不適切に思えます。気密性能の解釈については、改めて考察したいと思います。

気密保証をしている工務店や、一部HMの例は別にして、大手HM(木造)の測定例をみても、1.3というのはとても残念な数字です。レベル感で言うと、鉄骨でがんばって気密施工をした家とほぼ同等といってよいでしょう。

積水ハウスの他の施主は、ずっと良い数値がでているところも多く、少なくともばらつきの大きさは積水ハウスの気密施工の弱さを表していると思います。この点については別途考察したいと思います。

家の形状の影響

間仕切り立ち合いの際に不満を率直に伝えたところ、立ち合いにいらしていた建築課(=施工部門)の一級建築士(設計担当とは別の人)から興味深いコメントがありました。

積水ハウス一級建築士: この家は、形も不利なんです。この家を建てるのと同じ材料を使ったら、倍ぐらい大きな家だって建てられます。気密性は家の外周の長さに比例しますから。

私たちの家は細長い上に特徴的な凹凸がある形状なので、同じ外周の長さでも、正方形に近い形にすれば床面積はずっと大きくなります。

C値を算出する際には、壁の隙間を床面積で割るので、隙間面積が壁の表面積(~壁の長さ×天井の高さ)に比例すると仮定すれば、正方形の総二階に近い形の家が最も有利、という指摘です。

配管周りの隙間など例外もありますが、壁の長さが重要なパラメーターという言い分は確かにもっともです。そこで、壁の長さの合計が同じままで、縦・横比が約3:2の長方形の家だったら、床面積がどうなるかを計算すると、なんと1.5倍以上です。

家の隙間が壁の長さに比例すると仮定すると、形状が変わっても隙間面積は変わらないのに、分母にあたる床面積が増えるため、C値は

$$\frac{\text{計測したC値}}{\text{床面積の比}} = \frac{1.27}{1.5}=0.84$$

と、0.8~0.9前後に収まる結果になりました。

言ってみれば数字遊びみたいなもので、私たちの家の性能が変わるわけではありませんが、「他の施工例とC値だけを比較することで、施工品質を評価するのは適切ではない」のは確かです。

エコであることを考えると家はできるだけ小さくして表面積・容積を押さえる方が良いのですが、それだけで家の形状や大きさはj決められません。住みたい家のイメージやデザインもとても大事なので。

「気密性能を上げるために家の形をシンプルな長方形にするという選択肢があったとしてもそれを選ぶか?」と自問すれば、答えは否。

この換算値が0.5とか、0.6になってくれれば尚良かったのですが、1.3と0.8ではだいぶ見え方が違い、少し心が休まりました。

まとめ

中間気密測定の結果は、期待を裏切る残念な数字になりました。現場監督は、「今後数字が良くなるかも」との希望的観測を言いますが、今後の焦点は、完成時気密測定で数字が悪化しないことに移ります。

ただし、数字が悪いのは、私たちがとても気に入っている家のデザインそのものの影響も大きいということがわかりました。

積水ハウスの気密施工に対する姿勢については、改めて掘り下げて考えてみたいと思います。また、負け惜しみ視点で、「気密性が無いとどういうデメリットがあるのか、実は気密性はそこそこでも良いのではないか?」という点をもう一度考えてみたいと思います。

気密測定開始までがひと悶着、からの計測不能

はじめに

中間気密測定は、必要に応じて気密不足を是正できるタイミングでやることに意味があります。

是正は、シート・フィルムや気密テープをしっかり貼ったり、隙間にウレタンを吹き付けたり、といった内容が中心になりますが、石膏ボードを貼る前でないと問題の個所を発見したり、アクセスしたりすることが難しくなります。

このため、中間気密測定は石膏ボードを設置する前に行うことが原則です。私たちも、インスペクターと現場監督で、このタイミングで中間気密測定を行う手筈を整えてもらっていましたが、実際に計測して数値を出すに至るまでが一苦労でした。

施工内容の認識が異なる?

はじまりは、ラクダから現場監督にむけて、「気密性については設計時点から配慮してもらっている。結果に期待しているが、施工面でも一層の配慮をお願いしたい。」と連絡したことでした。

これに対して現場監督からの返事が、

[!現場監督] 現仕様では外周石膏ボードを貼り終える事で気密ラインが形成される仕様になる為、ここでの数値は期待できません。(可能性として数値が出ない場合もあります。)

提案ですが、外周側の石膏ボードを貼った後(気密ラインを施工した後)はいかがでしょうか。 この場合は、石膏ボードの中に追加でフィルムを施工する等の処置は困難になりますが気密検査をやる意義は出てきます。

というもの。

私たちは、気密施工オプションを追加しているため、気密フィルムが施工されることは確認していました。この返事だけからすると、現場監督が、

(1)フィルムを施工しない仕様と勘違いしている。 (2)気密ラインがフィルムではなく石膏ボードと解釈しており、石膏ボードの有無で数値が大きく違う

のどちらを意図していた可能性があるのですが、この時点ではラクダは、現場監督は誤認して(1)だと思っている、と思い込んでいました。

石膏ボードの施工法や、他のHMの現場だけでなく、積水ハウスの他の現場でもフィルム施工後、石膏ボード施工前に中間測定を行っており、そこで計測した数値と、完成時気密測定の数字がさほどかわらない方も多いことを考えると、(2)は説得力が無いと思ったのです。

ブログやX(Twitter)を見ていると、積水ハウスでも気密性に関心が高く、気密施工オプションを追加したり気密測定をしたりする施主さんをちらほらと見かけますが、実際の採用率は非常に低いようです。

ひとまず気密測定の予定を延期し、設計士のOさんに確認をお願いしたところ、

[!設計士のOさん]

気密施工オプションとしては壁、天井に防湿シートを施工し床、壁、天井それぞれの隙間に テープや充填材を施工し隙間を減らしていく仕様を予定しております。

これに外周石膏ボードを貼り終えることで完成形に近い気密ラインが形成され全ての工程完了をもって完成となります。 (中略) 検査結果を踏まえてからの気密是正効果が高いタイミングを狙うのであれば石膏ボード施工前がよろしいかと思います。

ということで、シート(フィルム)があること、その段階で計測が可能であることは、確認できました。

Oさん、とてもバランス感覚があり政治的センス?もある方なので、現場監督の言い分とも食い違わない絶妙の言い回しです。従って、積水ハウスとして実際に石膏ボードが気密性を保つ要素として計算に入っているのかどうかは、わかりません。

いずれにしても、当初ラクダが想定していた通り、そして他の多くの施主の方が行われた通りのタイミングで気密測定をすることになり、一歩前進です。

初回は数字が計測できず

測定開始前

当初の予定より1週間遅れで気密測定が行われることになりました。一見すると、壁・天井にシートがぐるりと施工されており、ひとまず施工内容に関しての懸念は解消された感じ。

私たちの家はFIX窓が多く、一階で開くのは掃き出し窓2か所と玄関だけで、腰窓がありません。このため、玄関に気密測定の機器を設置することになりました。

職人さんたちは、結構しっかりとやったという手応えがある様子。現場監督も少し自信がありそうです。それでも少し緊張感が漂う中、床や壁で気になる個所に気密テープを追加で貼ったりしてくれていますが、ここらへんは気休めのようなものです。

ただでさえ私たちの地域では、積水ハウスでの気密施工の実施例が少ない中、会話の内容から察するに、現場監督も職人さんも気密測定は初めてなのではないかと思います。

さて、いよいよ計測に入ると、なんと計測不能と出ました。これは隙間が非常に多く、家の中に十分に負圧がかからないことを意味します。C値でいうと5より大きくてもおかしくない水準です。C値で5というと、私たちの家の場合約30㎝×30㎝の隙間があることになります。

原因1:床に大きな隙間が空いていた

負圧をかけ続ける中、職人さん・現場監督・インスペクターの皆さんが、気密が怪しげなところに手を当てながら、風を感じるところに気密テープを貼ってみますが、一向に数値が計測されるようになりません。

しばらくして、インスペクターの方が、「ここだ!これが大物で、これに較べたら他のところは小物です。」と、大きな原因の一つを発見します。

空気の流れを発見した場所は一階の天井だったのですが、外気が入る基礎に直接つながる約50平方センチメートル(1m×0.5m)の床開口部に繋がっていました。

ラクダはこのとき初めて床開口部の存在に気付いたのですが、現場の方々は知っていて問題があるとは思っていなかった様子・・・。この開口部は、気密だけでなく断熱性にも重大な影響を与えるだけに大問題です。この開口部問題については、機会があれば改めて纏めたいと思います。

この床開口部にしかるべき対応が気密測定どころではありません。初回の気密測定は終わりと思ったのっですが、現場監督はどうしても数値を出して気密測定を完了した形にしたかったようです。問題の開口部を暫定的にシートで塞いで気密測定を続けることで、この問題が解消された場合の性能を測定し、それで中間測定を終わりにしたいという提案がありました。

数値が計測できることが目標ではなく、結果を見ながら改善の余地を探ることが目的なので、場当たり的な対応にはひっかかりを覚えつつも、必要に応じて改めて中間測定を行うことを前提に、暫定措置に合意しました。

原因2:天井の気密シートの固定が弱い

職人さんが問題の個所に応急処置をしてから、再度計測をはじめます。今回は前回よりも負圧がかかりやすくなっているようですが・・・・・、やはりエラーになり数値が出ません。

どこが問題か見回り始めたインスペクターが二階にあがると、負圧に引っ張られて天井のシートの固定がはずれ、弛んでいるところが出ているとのこと。負圧をかけ続けると、更に複数の個所で弛みが出始めます。

天井シートを固定しなおして何回か試しましたが、やはり計測することはできませんでいた。このまま進めても、天井のシート施工が痛んでいくだけなので、計測を打ち切るようお願いをしました。

天井のシートが落ちてくる問題は、私たちの家だけではないようです。他の施主(積水ハウス・シャーウッド)で同じことが起こったケースでは、天井シートは両面テープで固定されていたようで、より接着力の高い両面テープを用いて固定することで問題が解消されたとのことです。

積水ハウスとしては気密測定を想定しておらず、シートの下に天井の石膏ボードを施工すればシートをしっかりと保持できることから問題ない、と考えているのかもしれません。

とはいえ、他のHM・工務店の例では石膏ボードを施工しないと気密測定ができないといった話もあまり耳にしません。積極的に調べていないから、かもしれませんが・・・。

次回に向けて

問題の床開口部を適切に処理をし、天井だけは石膏ボードを貼った上で、再度気密測定を行うことで合意して今回の気密測定は終わりになりました。

現場監督からは、「測定ができなかったのは当方の落ち度なので、今回の測定費用は積水ハウスで持たせてください。」との申し出がありましたが、それよりも実際の気密性能を確保する努力をしてほしいという思いを伝えた上で、申し出はお断りしました。

初回の気密測定が流れ、仕切り直しでも計測ができず、改めての測定ですが、次回の測定に私たちのスケジュールの都合で、残念ながら立ち合いができません。

気密測定に至るまでの経緯、初回気密測定の失敗とその要因を見るにつけ、積水ハウスに気密性能を期待するのは間違いなのでは、という印象が強まります。立ち会わずに計測を行った場合、どんな数値であれ、数字さえ出ればそれで終わりにされてしまうのだろうなという危惧も。

これまでの家づくりの過程で、積水ハウスは技術力もあり、信頼できるとても良いハウスメーカーだと感じています。意図や会社の考えと、実際の行動が一致しており、施主サポートも含め、積水ハウスが大事だと思うことは、本当にしっかりとやってくれます。

逆に言えば、気密についていえば、「気密性能って、本当に重要ですか?」というのが積水ハウスの本音なのだと思います。積水ハウスの気密性能に対する姿勢は興味深いところがあり、別途まとめて考察をしたいと思います。

まとめ

今回の中間気密測定では、床の開口部や天井の気密シートの固定不良が原因で、測定結果が得られませんでした。施工業者や現場監督も気密測定に不慣れな状況があり、問題の発見と対応に手間取りました。

次回は、床開口部の処理や天井の石膏ボード施工後に再度気密測定を行い、その結果をお伝えします。気密性に関する積水ハウスの姿勢や具体的な数値も踏まえ、今後の改善点についてさらに考察していきます。

断熱検査、足場解体前検査も無事終了

はじめに

上棟後、外装工事と並行して木工事が始まります。木工事は、建方工事によって柱と合板で作られた「箱」の境界から内側に向かって進んでいきます。そのため、最初に行うのは、壁に通気層を作り、断熱材を設置することです。この断熱材の設置が完了したタイミングで、断熱検査と足場解体前検査を実施しました。

私たちの場合、これらの検査は同じ日に行われましたが、インスペクターは別々の検査として扱っており、料金も2回分かかります。二人のインスペクターがそれぞれ、断熱検査と足場解体前検査に分かれて実施してくれました。

足場解体前検査についてはあまり書くこともないので、今回は、足場解体前検査と、以前に行った防水検査の二つの検査についてまとめておきます。

検査の概要

断熱検査

家の断熱性能はUA値で示すことができますが、UA値は壁・窓・床・天井に使用する材質や厚さなどを基に計算された理論値です。そのため、施工状況によっては実際の断熱性が大幅に劣る可能性があります。断熱検査の目的は、適切に施工されており、理論値に近い断熱性能が期待できるかを確認することです。

断熱材に隙間や欠損があると、そこから熱が逃げてしまい、断熱効果が大幅に低下します。このため、断熱材が隙間なく、かつ適切な厚さで施工されているかを丁寧に確認する必要があります。

具体的な確認ポイントとしては、以下の項目が挙げられます:

  1. 壁体内の断熱材の充填状況
  2. 天井裏や屋根裏の断熱材の敷設状況
  3. 床下の断熱材の施工状況
  4. 開口部周りの断熱材の施工状況
  5. 配管や電気配線などの貫通部周りの断熱処理

これらの箇所で、断熱材が隙間なく施工されているか、欠損や圧縮などの不具合がないかを確認します。特に、壁の隅や角、天井と壁の取り合い部分、床と壁の取り合い部分は、断熱材が不連続になりやすい箇所なので、注意深く確認する必要があります。

断熱材の施工状況は目視だけでは判断しにくい場合もあるため、サーモカメラを使用します。サーモカメラは物体の表面温度を可視化する装置で、断熱性能が低下している箇所を簡単に特定することができます。

サーモカメラを用いた断熱検査の手順は以下の通りです:

  1. 室内外の温度差を確保する(通常、5℃以上の温度差が必要)
  2. 建物の外周や室内の壁、天井、床などをサーモカメラで撮影
  3. 温度むらや異常な温度分布がある箇所を特定
  4. 特定された箇所の詳細な調査と原因分析

サーモカメラを使用することで、断熱材の隙間や欠損箇所が周囲よりも温度が高く(夏季)表示されるため、目視では確認が困難な壁体内部の断熱不良箇所も容易に発見することができます。

防水検査(足場解体前検査)

私たちの家にはバルコニーが無いため、主なチェック箇所は屋根・サッシ回り・外壁貫通箇所です。屋根や外壁を調べる必要があるため、この検査は足場を解体する前に行う必要があります。

取り合い部分の処理

  • 屋根防水: 屋根材と壁面との取り合い部分の処理、ドレン周りの防水処理
  • サッシ周り: サッシと外壁との取り合い部分のシーリング処理、サッシ枠と防水層の接合部分の処理
  • 外壁貫通箇所: 貫通部と外壁との隙間のシーリング処理

防水透湿シートの施工

  • 屋根防水: ルーフィングの重ね幅や接着状態の確認
  • サッシ周り: サッシ周りの透湿防水シートの施工状態の確認
  • 外壁貫通箇所: 貫通部周りの透湿防水シートの施工状態の確認

水切りの設置状況

  • 屋根防水: 屋根の勾配と雨水の排水経路の確認
  • サッシ周り: サッシ上部の水切りの設置状況の確認
  • 外壁貫通箇所: 貫通部の上部に水切りが適切に設置されているかの確認

シーリング材の状態

  • 屋根防水: 防水層の破損や膨れ、シーリング材の劣化の有無の確認
  • サッシ周り: シーリング材の劣化、亀裂、剥離の有無の確認
  • 外壁貫通箇所: シーリング材の劣化、亀裂、剥離の有無の確認

検査結果

防水検査 (前回)

防水に関しては問題ありませんでした。ただし、一部のサッシは運搬中に部品が破損していたため、検査時点では設置されていませんでした。これらのサ ッシは、施工後に積水ハウスからインスペクターへ写真を送り、写真ベースで確認することになりました。

足場解体前検査

いくつか細かい傷などタッチアップが望ましい点が指摘されましたが、おおむね適切に施工されているとの結果でした。

断熱検査

インスペクターの一人が時間をかけて、壁と2階天井の断熱材の状態を隅々まで確認していきました。

一階から確認を始めましたが、ほとんど欠損が見つかりません。インスペクターによれば、断熱材がこれほど丁寧に施工されているのは珍しいとのことです。

結局、一階で見つかったのは一箇所だけでした。断熱材はしっかりと入っていたのですが、配管が圧迫して断熱材が潰れ、その結果、断熱性能が落ちているようでした。

続いて2階の確認に移りました。同様に確認していきましたが、やはり壁・天井ともに全く欠損は見つかりませんでした。特に天井の梁の周りは隙間ができやすい箇所ですが、ここも問題ありませんでした。インスペクターは「腕の良い職人さんが担当されたんですね」と何度も言っていました。

ところが、最後に天井で5箇所ほど断熱材に隙間が見つかりました。これまでの丁寧な施工とは対照的に、次々と見つかる隙間に、インスペクターも「ここは別の職人さんが担当されたのでしょうか」と驚いていました。

5箇所を確認していくと、電気配線がある部分でした。インスペクターは、

「もしかすると、最初はきちんと施工されていたけれど、電気工事の際に配線を通すために断熱材を触り、その後、元通りに戻さなかったのかもしれませんね。断熱材を施工する人は重要性を理解していますが、電気工事を行う人が同じ認識を持っているとは限らないので、こういったことはよくあります」

と言っていました。実際のところはわかりませんが、納得のいく説明でした。

それぞれの箇所に目印となるテープを貼り、断熱検査は終了しました。下の写真で天井から垂れ下がっている緑のテープが目印です。

途中で、

積水ハウスの現場監督:「それが有名なサーモガンですね。結構高いんですか?」 インスペクター:「これはいいものなので、30万円ほどしますよ」

という会話が印象的でした。サーモガンを使えばすぐにわかるため、ハウスメーカーの自主検査でも使用した方が良いのではないかと考えながら聞いていました。

まとめ

断熱検査ではいくつかの指摘箇所がありましたが、インスペクターによると「基礎工事・建方工事に続き、木工事前半も施工品質は非常に高い。さすが大手HMだと感じます」とのことでした。

これで検査は、当初予定していた全6回(基礎配筋・基礎完成・上棟・防水・断熱・足場解体前)が終了しました。振り返ってみると、含水率の問題を除けば大きな指摘はなく、積水ハウスがしっかりとした施工体制を取っていることが裏付けられたように感じられます。

残るのは気密測定だけ。ところが、安心した頃にトラブルはやってくるものです。トラブルについては、改めてご紹介したいと思います。