積水ハウスで、夢をかたちに。

憧れをかたちに、はできなかったけど、3社で迷い積水ハウスになりました。

ドイツは日本の5倍以上の暖房エネルギーを使っている

はじめに

以前の記事で、北欧やドイツと日本の気候の違いを定量的に比較できるように、暖房用エネルギー需要に最も関連が高いHeating Degree Dayという数値を計算してみました。

City HDD CDD Region HDD_normalized Ua(equivalent)
Helsinki 3994.18 2.66 EU 265 0.23
Oslo 3866.34 1.45 EU 256 0.23
Stockholm 3553.60 4.38 EU 236 0.25
Sapporo 3338.92 37.54 JPN 221 0.27
Copenhagen 3004.05 0.68 EU 199 0.30
Berlin 2853.08 13.29 EU 189 0.32
Sendai 2232.92 119.36 JPN 148 0.41
Madrid 1580.77 271.19 EU 105 0.57
Tokyo 1508.20 257.59 JPN 100 0.60

仮に家の性能・大きさ・暖房の使い方同じであるとすれば、暖房用エネルギーの必要量はこのHDDに比例する、と考えてもらって構いません。

今回は、単にUA値などの断熱性能を比べるだけでなく、実際の暖房用エネルギー使用量の比較を通じて、「日本の家が寒い。」という通説が妥当かどうかを調べてみたいと思います。

結論を先に行ってしまうと、

  • ドイツの家は断熱性能が高いが、気候の違いを加味すると違いは小さくなる
  • ドイツの家が暖かいのは、断熱性が高いことよりも常時全館暖房のおかげ
  • 暖房の違いから、ドイツの暖房エネルギー使用量は圧倒的に多く、省エネはより切実な課題

という結果が見えてきました。

エネルギー消費量の比較

ドイツの一戸当たり暖房エネルギー需要は日本の5倍以上

2010年前後の数字で少し古い統計になりますが、世帯あたり用途別エネルギー消費の国際比較のデータがあります。出典は家庭部門:世帯あたり用途別エネルギー消費です。

これによると、日本の暖房用エネルギー使用量は10GJであるのに対して、ドイツの暖房用エネルギー需要は53GJです。断熱性が高く光熱費がかかりにくいはずのドイツの家の方が、「寒い」といわれる日本の家よりも何倍もの暖房用エネルギーを使っているというのは驚くべきことだと思います。

逆に言えば、ドイツが温暖化対策としてのカーボンニュートラルを目指す上で、住宅の断熱性を高めることが大きな意味合いを持っていることがわかります。

他の要因を調整してもギャップは埋まらない

気候要因

日本の数字は北海道なども含まれた数字ですが、仮に全国が東京並みに暖かかったと考えて、東京とベルリンのHDDの比率を考えても2倍です。

ドイツの断熱性基準は数年ごとに厳しくなっていっていますが、2010年時点で比較しても日本よりずっと厳しい断熱性基準を持っていることを踏まえると、2倍より小さくなければ辻褄があいません。

家の大きさ

家の大きさについては正確な統計はないのですが、日本の戸建て住宅が120〜130㎡に対して、ドイツは130〜150㎡といった水準のようです。従って、他の条件が同じであれば最大二割程度ドイツのエネルギー消費が多くてもおかしくありませんが、それでも全くギャップが埋まりません。

エネルギー需要の統計は、戸建だけでなく集合住宅も含まれているため、厳密にはより細かく場合分けした議論が必要ですが、大きなギャップを埋めるほどのインパクトはないと思われるため、ここでは割愛します。

なぜドイツのエネルギー使用量が大きいのか

ドイツでは全館空調が一般的

このエネルギー使用量の謎を解き明かす鍵は、暖房の使い方の違いにあります。日本は、局所的に必要な時だけ暖房を使う方法が主流なのに対して、ドイツでは家全体を常時温める方法が一般的です

厳しい気候と暖房の使用法が組み合わさってドイツでは暖房用エネルギーが家庭用エネルギー使用量の70%以上(日本は25%以下)を占めるため、省エネ実現のためには家の性能に対する要求水準を著しく高める必要があったと結論づけることができます。

以下は、住環境研究所がこの点について触れた資料からお借りしたイラストです。家全体がほぼ20度に保たれていることがわかります。「省エネは大事だけれど、快適さは譲らない。」という主張が伝わってくるようです。

家庭におけるエネルギー構造と課題

ドイツと日本では暖房のエネルギー効率が違う

ヒートポンプは熱効率が非常に高い

エアコンや、エコキュート(電気式給湯器)、および最近の温水式床暖房(電気使用)はヒートポンプを使っています。

エネルギー効率を示す指標として、Coefficient of Performance (COP) があります。具体的には、システムが消費するエネルギーに対して、どれだけの有効な暖房または冷房を提供できるかを示す比率で、COPの値が高いほど、システムのエネルギー効率が高いことを意味します。

燃焼式ヒーター

ガスや灯油を燃焼させて直接熱を発生させます。燃料の化学エネルギーを熱エネルギーに変換するため、投入したエネルギー以上の熱は得られません。一般的に効率は0.7~0.9と言われています。

ヒートポンプ

ヒートポンプは、外部の低温の熱源(空気、地中、水など)から熱を吸収し、それを高温にして室内に移動させる装置です。蒸発、圧縮、凝縮、膨張のサイクルを利用し、冷媒を循環させることで熱を移動します。電力を動力源として使用し、消費電力の3〜6倍(COP 3~6)の熱エネルギーを移動できるため、高いエネルギー効率を持ちます。

実際に日本のエアコンでは冷房時でCOPが4、暖房時でCOPが5以上のものも珍しくありません。

ドイツはガス・オイルを使ったボイラーが多い

日本ではヒートポンプ式のエアコンが暖房の主流になっています。これに対してドイツで最も普及している暖房方式は、セントラルヒーティング方式のハイツング(Heizung)です。これは、ガスなどを利用して建物の地下室にあるボイラーで温水を作り、配管を通じて各部屋に供給する方式です。

以下はB.A.U.M Consultingからお借りした2021年のドイツの暖房用エネルギーの構成比を示したグラフです。

このグラフから分かるように、ガス・暖房用オイルを燃焼させる方式の割合が高くなっています。

ヒートポンプによる暖房は外気温が寒ければ寒いほどエネルギー効率が落ちること、ガスや灯油を燃焼する方式の方がすぐに温まりやすいことなど、寒冷地ではヒートポンプがやや使いにくい性質を持つことも普及が遅れている原因だと思います。

ドイツでも、近年の親切住宅におけるヒートポンプのシェアは50%を超えるなど変化しつつまりますが、既存住宅も含めた全体では、ヒートポンプの割合はまだまだ小さいです。

一次エネルギーと二次エネルギー

ここまでのところを見ると、ヒートポンプの圧勝ですが、エネルギー源として電気とガスを比較する際には、一次エネルギーと二次エネルギーの違いを無視できません。

一次エネルギー

一次エネルギーとは、自然界に存在するそのままの形で利用可能なエネルギーを指します。これには、以下のようなものが含まれます:

これらは直接採掘または収集され、そのままの形で利用されることが多いです。

二次エネルギー

一方、二次エネルギーは、一次エネルギーを変換・加工して得られるエネルギーです。具体的には以下のようなものがあります:

  • 電力: 火力発電や原子力発電によって生成される
  • ガソリンや灯油: 原油から精製される
  • 都市ガス: 天然ガスを加工して供給される

これらは最終的に消費者が使用する形態のエネルギーであり、一次エネルギーを使いやすく変換したものです。

電気

一次エネルギー換算係数: 電気の1MJは、一次エネルギー換算で約2.2〜2.7倍のエネルギーが必要です。具体的には、1kWh(3.6MJ)の電力を得るために、9.76〜10MJの一次エネルギーが必要とされています。

都市ガス

一次エネルギー換算係数: 都市ガスの場合、1MJはそのまま1MJとして扱われます。これは、都市ガスが天然ガスを主成分とし、そのまま利用される上、各家庭に送る際の損失も非常に小さいからです。

従って電気とガスの比較をすると、同じエネルギー量当たり電気の方が一次エネルギーを多く使っていることになります。この違いは同じ熱量当たりの電気料金とガス料金の違いにも跳ね返ってきます。

全体としてみると日本の暖房はエネルギー効率が良い

一次エネルギーでみたときのエネルギー効率を知るためには、上であげた二つの要素を併せて考えることが必要です。

ヒートポンプの場合には、一次エネルギーから電気にするところで損失が大きいものの、電気を使って取り出せるエネルギー量が大きいのに対して、ガスは天然ガスから都市ガスへの二次エネルギーへの変換の際の損失がほぼ無いのに対して、家庭でのエネルギー効率が低いことになります。

この二つの効果を組み合わせても、1.5倍~2倍程度はヒートポンプの方がエネルギー効率が良く、ひいてはヒートポンプ普及率の高い日本の暖房はエネルギー効率が高いということができます。

日本の家が寒いのは暖房を使いたがらないから

断熱性が高いはずのドイツでもこれだけ暖房用エネルギーが使用されていることから、言えるのは、高断熱でも暖房を適切に使わないと寒い、ということです。

こういうと反論としてパッシブハウスの例が出てくるかもしれませんが、全世界でパッシブハウスとして認定されたのは、2020年に累計25000軒、2023年に累計で38000軒といった水準に留まっています。本場ドイツを含めても新規住宅に占めるパッシブハウスの割合が極めて低いことを考えると、現実的な実用性のある仕様には到達していない実験的な試みと位置付けるのが妥当だと思います。

「日本の家は寒い。これは断熱性能が低いからです。」という説がまことしやかに流布されていますが、それにもまして、「日本の家は寒い。家全体を暖めるように暖房を設置したり、使ったりしないから。」と言う方が実態に即しているのではないでしょうか?

従って、「断熱性をあげれば寒くない。」のではなく、「寒くない家にするためには。適切に暖房を使う必要があるが、断熱性が上がれば暖房費が下がる。」と言うことで、コストパフォーマンスの議論として捉えるべきだと思います。

ドイツ・北欧の断熱性能の基準が高いのは事実

北欧・ドイツでは、家全体の平均熱貫流率ではなく、部材ごとにU値の上限が決まっているのが一般的です。

似たような枠組みとして、日本では、断熱等級4まではUa値を計算しないで部材ごとのU値で基準に適合しているか判断する、仕様規定ルートがあり、同じ枠組みで断熱等級5と整合的な基準が「誘導基準」として公表されています。

住宅の省エネルギー基準と評価方法2023

以下のテーブルでは、各国の仕様と日本の断熱等級5相当の仕様をまとめました。ヨーロッパでは基準改定の頻度が高いことから、以下の数値は最新のものではない可能性があります。また原語の資料にあたるのが難しいこともあり、英語で作成された二次資料を参考にしているため、数値に誤りがある可能性もあります。この点を踏まえて、参考程度に見ていただければ幸いです。

都市(国) 壁のU値 (W/m²K) 屋根のU値 (W/m²K) 床のU値 (W/m²K) 窓のU値 (W/m²K) ドアのU値 (W/m²K) 法律/ガイドライン 改訂・発効年
Helsinki (フィンランド) 0.17 0.09 0.16 1.0 1.0 National Building Code of Finland 2018
Oslo (ノルウェー) 0.18 0.13 0.10 0.8 0.8 Norwegian building code 2017
Stockholm (スウェーデン) 0.18 0.13 0.15 1.2 1.2 Swedish building code 2019
Copenhagen (デンマーク) 0.30 0.20 0.20 Danish building regulations 2018
Berlin (ドイツ) 0.28 0.20 0.35 1.3 1.8 EnEV (Energieeinsparverordnung) 2016
Madrid (スペイン) 0.66 0.38 0.49 2.7 2.7 CTE (Código Técnico de la Edificación) 2019
日本:等級5(1・2地域) 0.28 0.17 0.24 1.9 1.9 建築物エネルギー消費性能基準 2022
日本:等級5(6地域) 0.44 0.22 0.34 2.3 2.3 建築物エネルギー消費性能基準 2022

これをみると、断熱等級5(1・2地域)で、窓・玄関ドアを強化したものが、ドイツの基準と近い水準になります。ただしドイツは2020年にもう一段厳しい規定になっている一方で、日本では断熱等級5は必須ではないなど、運用面で差があります。

高い性能を求める背景

ドイツ政府は、2045年までに建築物全体をほぼ気候中立にするという大きな目標を掲げています。これは、温室効果ガスの排出を大幅に削減し、気候変動への影響を最小限に抑えることを目指しているからです。

この目標は、パリ協定に基づき、世界全体が気温上昇を産業革命前と比較して1.5度未満に抑えるという国際的な枠組みの一環でもあります。 なぜ2045年がターゲットとされているかというと、建物の寿命や改修の周期を考慮すると、すべての既存建築物をこの時期までにエネルギー効率の高い形に改修し、新築の建物を最初から気候中立の基準に適合させるために必要な時間がこれくらいだと見積もられているためです。 建築物は長寿命であるため、すぐに結果が出る分野ではありませんが、今から取り組まないと2045年の目標達成は難しいとされています。

この取り組みの中では、単に建物の断熱性能を向上させたり、再生可能エネルギーを用いた暖房設備を導入するだけでなく、全体のエネルギー消費量を最適化することが重視されています。さらに、建築物だけでなく、エネルギー供給全体も再生可能エネルギーへの移行が推奨されています。

ドイツでは、こうした考え方は他の分野でも広く推進されており、2035年から一部の例外を除きガソリン車およびディーゼル車の販売が禁止するという野心的な目標も掲げています。

地球環境を考えるとこうした措置が重要なことは言うまでもありませんが、「家の快適さ」や、「居住者にとってのメリット」を直接的な目標にした規制でないことは押さえておくべきだと思います。

まとめ

改めてデータが語ることをまとめると以下の通りです。

  • HDDを加味すれば、6地域の断熱等級5は、ドイツの気候におけるドイツの家と同程度のエネルギー効率を持っている。
  • ドイツの家が暖かいのは、常時全館暖房のおかげ。ただし、エネルギー効率の低い暖房器具が多いこともあって、ドイツの暖房用エネルギー使用量は日本に比べて格段に多い。
  • ドイツの規制は、気候中立・カーボンニュートラルの実現に必要な水準を目指したもの。家の快適さのために必要な水準を定めたものではない。
  • 日本は既にエネルギー効率が高い暖房(ヒートポンプ式エアコン)が普及している。エアコンを使うことを厭わなければ、快適に暮らせるはず。

寒冷地においては事情がやや異なるものの、「諸外国との比較で日本は遅れている。日本の家は寒い。だから断熱性能を大幅に向上させなければいけない」式の煽るような議論には少し距離をおいた方がいなと感じます。

とはいえ、断熱性能が高いことのデメリットはコストと、有効に使える床面積への影響のみ。どの程度の断熱性能が良いのかは、引き続き考えてみたいと思います。