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はじめに
前回の記事では、内装における壁紙以外の選択肢ということで、塗り壁や、タイルなど壁に貼るもののの基本的な概要を紹介しました。
家の雰囲気や室内環境を大きく左右する壁材は、その選び方が非常に重要です。この記事では、特に日本の注文住宅でよく使われる壁材の中で塗るものに焦点をあてて、その特徴や利点を掘り下げて紹介します。理想の住まいを実現するための参考にしていただければ幸いです。
塗る壁材の種類と特徴
ここでは、さまざまな塗る壁材の具体的な種類とその特徴について紹介します。
以下は、日本の左官屋さんが一般的に使用する素材とその主要成分を示した表です。成り立ち・生産方法は違ってもどれもカルシウムやケイ素の化合物でできていることがわかります。
素材 | 主成分 |
---|---|
漆喰 | 消石灰(水酸化カルシウム Ca(OH)₂)、炭酸カルシウム(CaCO₃) |
珪藻土 | 二酸化ケイ素(SiO₂)、酸化アルミニウム(Al₂O₃)、酸化鉄(Fe₂O₃) |
シラス壁 | 二酸化ケイ素(SiO₂)、酸化アルミニウム(Al₂O₃)、斜長石、石英 |
モルタル | セメント(酸化カルシウム CaO、二酸化ケイ素 SiO₂、酸化アルミニウム Al₂O₃)、砂、水 |
ドロマイト | 炭酸カルシウムマグネシウム(CaMg(CO₃)₂) |
石膏 | 硫酸カルシウム半水和物(CaSO₄·0.5H₂O) |
石灰 | 水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)、砂 |
注文住宅でよく使用されるのは、「漆喰」「珪藻土」、そして土間の床などに使われる「モルタル」です。
珪藻土
材質: 珪藻土は、珪藻(けいそう)という植物プランクトンの殻の化石を主成分とする自然素材です。調湿効果や消臭機能に優れており、室内の湿度を一定に保つ働きがあります。
積水ハウスでは、珪藻土を希望する場合シルタッチという製品がインテリアカタログから選べます。シルタッチSRは、フジワラが提供する内装仕上げ塗材で、以下のような特徴があります。
特徴
- 調湿機能: 室内の湿度を調整し、快適な空間を提供します。
- 脱臭性能: ホルムアルデヒドやその他の有害ガスを吸着し、再放散しない特性があります。
- 多彩な仕上がり: 25色の標準色と11種類のテクスチャー(こて仕上げ)から選択可能で、和風・洋風問わず多様なデザインに対応できます。
- 安全性: 合成樹脂エマルションはホルムアルデヒドを含まず、安全性に配慮されています。
調湿性能
周囲の湿度がかわると、一平方メートルあたり120gほどの水が吸収されたり放出されたりするという実験結果があります。結果のグラフはフジワラ化学株式会社からお借りしました。
部屋の面積や、珪藻土の施工範囲を考慮すると、120g/㎡がどれだけの機能を果たすのかは、機会をあらためて検証します。
仕様
- 成分: 総体積の40%が珪藻土で構成されています。
- 標準使用量: 4,600gで3.3~4.5㎡をカバーします。
- 塗厚: 標準で2~3mm。
- 適用下地: 石膏ボード、石膏プラスター、中塗土、モルタル、合板など。
説明に合成樹脂エマルションとありますが、重量にして10%強の樹脂がつかわれているようです。
珪藻土を固まらせるためには固化材が必要です。他社からは合成樹脂のかわりに消石灰などの自然素材を使った製品も出ているので、自然素材100%にこだわる場合はそういった製品がよいかもしれません。
一方で、施工性や長期的な安定性を考えると10%強の樹脂の配合比率というのは良い塩梅だと思います。
薩摩中霧島壁
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少し変わった素材としてシラス台地の火山灰堆積物を原料とした薩摩中霧島壁という商品があります。詳細は高千穂シラス公式ページで確認できます。
同じ自然素材でも、植物プランクトン由来より桜島の火山灰の方が印象が良くありませんか?ストーリーに惹かれたラクダは家のほとんどの壁を薩摩中霧島壁にしたいなと思っていました。
私たちの地域では積水ハウス参加で中霧島壁を施工できる施工店がいなかったこと、価格がシルタッチよりも格段に高かったことから諦めた経緯があります。シルタッチはずっと安価に施工可能だったのですが、当時は珪藻土は素材がプランクトンという点でピンとこなかったこともあり、妥協するぐらいなら、と塗り壁をやめました。
しかし、調べてみると薩摩中霧島壁と珪藻土は由来こそ違うものの成分はほとんど同じです。どちらもナノメートルからマイクロメートルの多孔質構造を持つことが調湿作用の決め手になっています。多孔質の大きさは珪藻土と薩摩中霧島壁では違うようですが、それによる機能性の差に関するデータは見つけることができませんでした。
改めて考えると、珪藻土はありだったかもしれません。
漆喰
写真は建材トレンドさんの記事からお借りしました。
漆喰は、消石灰を主成分とした伝統的な日本の壁材であり、調湿性や消臭効果、さらには抗菌性を持つなど、機能性に優れた素材です。これに加え、自然素材であることから環境にやさしく、シックハウス症候群のリスクが低いため、現代の住宅においても再評価されています。
デザイン面では、漆喰の白さや独特の質感が和の雰囲気を強く演出します。その柔らかい質感は、無垢材や他の自然素材と相性が良く、上品で落ち着いた空間を作り出すのに最適です。
漆喰の機能面での一番の特徴は、調湿性に加えて、pH12以上の強アルカリ性を持つことで防カビ性があることではないでしょうか?一方で、漆喰は経年劣化によるひび割れが発生することもありますので注意が必要です。
ポーターズペイント
ペイント系の素材でSNSでしばしば見るのがポーターズペイントです。
写真はPorter's Paintのホームページからお借りしました。
自然由来成分を使ったオーストラリア発のた水性塗料で、以下のような成分が含まれています。
- 石灰: 壁にマットな質感を与える基本的な成分です。
- 石英: 粗い粒子が含まれ、独特の質感を生み出します。
- 鉄: 金属的な風合いを出すために使用されます。
- 銅: 特定の塗料では、錆びた風合いを演出するために使われます。
- 錫(すず): 銅と組み合わせて金属的な表情を強調します。
独自の質感と豊富なカラーバリエーションが魅力です。マットな仕上がりや、メタリックな光沢を持つものなど、デザイン性を高く求める方に向いています。自然素材を活かした風合いが特徴で、DIYでも施工可能です。
選び方
塗り壁にしたいと決めたら、素材の絞り込みはさほど難しくありません。
自然素材であること・調湿機能などに惹かれて塗り壁にする場合にはポーターズペイント以外が魅力的に見えるだろうし、予算を押さえてデザイン性を追求したとなれば、ポーターズペイントのようなペイント系の素材が有力になります。
自然素材を選ぶ場合、漆喰の独特の風合いが好きか嫌いかが次の分かれ目です。好きであれば漆喰、そうでなければ珪藻土、もしストーリーに共感すれば薩摩中霧島壁、といった具合に素直に決まっていくのではないでしょうか。
家を建てているハウスメーカーで全く同じ商品を取り扱っていないとしても、他のメーカーからでている同様の成分の商品があると思います。
まとめ
壁材は、見た目やデザインだけでなく、室内環境や健康にも影響を与える重要な要素です。自然素材である漆喰、珪藻土、薩摩中霧島壁などは、調湿、消臭、抗菌といった多機能を持ち、快適な住環境を提供します。一方で、樹脂の添加や経年劣化などに注意する必要もあります。自分のライフスタイルや好みに合わせて最適な素材を選びましょう。
次回は、別の素材について詳しく取り上げていきますので、ぜひご期待ください。