はじめに
どの壁紙を選ぶかによって、空間全体の雰囲気や使いやすさが大きく変わります。
壁紙選びというと、多くの方は色や柄を選ぶことを想像するでしょう。確かに、サンゲツ、リリカラ、東リといった主要メーカーの樹脂系壁紙だけでも、膨大なデザインが揃っており、選ぶ楽しさがあります。海外製の壁紙まで含めれば選択肢はさらに広がります。
さらに、タイル調、木質調、モルタル調といった他の素材を模した壁紙も豊富にラインナップされており、家の雰囲気を自由に演出できます。色や模様で部屋の印象は劇的に変わりますが、インパクトが強すぎると飽きやすくなったり、家具などとのコーディネートが難しいという問題も出てきます。
壁紙選びにおいて、一般的に使われる樹脂系の壁紙に代わって、自然素材を使った壁紙を選ぶこともできます。自然素材を使うことで、色や模様を控えめにしつつ、上品な質感を出すことが可能です。
表面に微妙な凹凸やムラが生じることが多く、特にコーニス照明(間接照明)やスポットライトで壁を照らすデザインと組み合わせると、陰影が一層引き立ちます。
今回は、自然素材の壁紙に焦点を当ててみたいと思います。なお、自然素材を使った壁紙以上に質感を変える方法としては、塗壁やタイル、石を貼ることもできます。私たちも塗り壁を検討しましたので、これらについては別途まとめたいと思います。
自然系素材の二つのメリット
デザイン面で独特の風合いがあること
自然系素材の最大の魅力は、やはり独特の風合いではないでしょうか?自然素材を用いた壁紙を使うことで、特に質感や照明が当たったときの陰影など、樹脂系壁紙では出すことのできない雰囲気を醸し出せることがあり、高級感を演出できます。
特に、和紙や布、金属箔など、素材によってはその素材ならではの質感を持つものがあります。和紙の柔らかな風合いや、金属箔の豪華な光沢は、特定のインテリアスタイルに大きなインパクトを与えます。
塩化ビニルの壁紙でレンガ調、タイル調、木質調など、様々なデザインのものが多数ありますが、これらは、たとえるなら床にシート材を使うのに似ています。遠目で見たデザインや写真写りでは本物との違いがわかりにくくても、やはり住んでいる人には本物を使った場合と大きな違いが感じられることでしょう。
一方、自然系素材の壁紙は、床材で言う「突板」のような位置づけに感じられます。表面は「本物」ですが、すぐ裏は紙などで裏打ちされており、素材自体の厚みはありません。ただし、床と違って直接踏んだり触ったりするわけではないので、厚みがなくても十分に本物感を演出できる、という立ち位置だと思います。
環境や健康に優しいと期待されること
ウッドチップ壁紙やケナフ壁紙のように、環境・健康面でのメリットをアピールする壁紙もあります。その背景には以下の理由があります。
- 塩ビ壁紙は燃焼時に有毒ガスが発生するため、住宅が火事になると被害が拡大しやすい。また、廃棄時の処理も難しい。
- かつて、塩化ビニル(塩ビ)壁紙を貼る際に使われていた糊に、シックハウス症候群を引き起こすホルムアルデヒドが含まれていた。
こうした背景から、塩ビ壁紙は健康や環境に悪いとされてきました。有毒ガスの問題は完全に解消されたわけではありませんが、通常の使用時には問題ありません。また、同じ樹脂系でもオレフィン壁紙は燃焼時に有毒ガスを発生しないため、オレフィン壁紙を使うことでこの問題を避けることができます。積水ハウスではオレフィン壁紙が標準仕様となっているため、安心です。
糊の問題についても現在ではホルムアルデヒドを含まない糊が一般的に使われています。確認したところ、積水ハウスで施工する場合、サンゲツなどの塩ビ壁紙を選んでも、オレフィン壁紙の時と同様にホルムアルデヒドを含まない糊を使用するとのことでした。
したがって、環境問題に非常に敏感な方以外は、環境・健康面だけを理由に自然素材の壁紙に限定する必要はないかもしれません。
ただし自然素材を用いた壁紙の中には調湿・消臭等の機能があったり、デザインよりもそうした機能を重視したものもあるので、気にある方は検討してみると良いでしょう。
自然素材壁紙の種類
自然素材でどのようなものがあるかを知るために一つカタログを見るとすれば、サンゲツ XSELECTシリーズのカタログをお勧めします。かなり高級路線ですが、それぞれの素材を活かすとどのような壁紙ができるか、イメージが沸きます。
もう少し幅広く知りたい方の為に、様々なタイプの自然素材について掘り下げてご紹介します。
紙系
紙系壁紙の種類
和紙や一般紙クロスは、紙を主材とし、そのまま壁に貼られることが多いですが、強度を増すために裏打ちが行われる場合もあります。
- 和紙: 日本の伝統的な和紙を使用した壁紙。通気性や吸音性に優れています。
- 一般紙: ヨーロッパやアメリカで使用されることが多い紙クロス。デザインが豊富です。
- ウッドチップ壁紙: 再生紙とウッドチップを使用し、ナチュラルな質感が特徴です。
独特の風合いを持った素材感という点では、和紙を使った壁紙が最も興味深く感じられるかもしれません。
和紙壁紙のメーカー
なじみのあるメーカーで言えば、サンゲツのXSELECTシリーズに和紙を使った製品が多く掲載されています。職人による手漉きの和紙は1㎡あたり3万円ほどするものもあり、なかなか手が出せませんが、機械漉きの和紙なら1㎡あたり1500円程度のものもあります。
和紙壁紙は、日本らしさを感じさせる独特の雰囲気や高級感があり、国内外のホテルやレストランでも人気があります。KAMISM株式会社やPYRAMID(ピラミッド)、凸版印刷など、和紙壁紙を重点的に扱うメーカーも存在します。
- KAMISM株式会社: 伝統技法と創造的なデザインを融合させた和紙壁紙を制作。オリジナル創作和紙や金銀箔を使った製品が特徴。高級レストランや国際的な施設で採用されています。
- PYRAMID(ピラミッド): 日本古来の技法で作られた和紙を使った壁紙。長い繊維を使用し、和紙ならではの美しさや強さを持つ製品です。
- 凸版印刷株式会社: 楮(こうぞ)を原料とし、高い意匠性を持つ「INSHU」ブランドの和紙壁紙を展開しています。
実際に採用するかどうかは別としても、KAMISMのカタログは非常に美しいので、一度見てみる価値があるでしょう。
繊維・布系
繊維・布壁紙の大きな魅力は、多様な繊維の種類と織り方を組み合わせることで、無限に近いデザインの可能性があることです。絹、麻、ウール、コットンなどの天然繊維から、ポリエステルやレーヨンといった化学繊維まで、それぞれの素材が持つ独特の質感や光沢を活かすことができます。さらに、平織、綾織、朱子織といった伝統的な織り方に加え、不織布やフロッキング、和紙織りなどの特殊な製法を用いることで、より多彩な表情を生み出すことが可能です。
例えば、絹の朱子織は上品な光沢とエレガントな雰囲気を、麻の平織はナチュラルでさわやかな印象を、ウールの綾織は温かみのある柔らかな質感を演出します。繊維・布壁紙は、素材と製法の組み合わせによって、まさに千変万化するデザインの宝庫です。
繊維・布系壁紙の種類
織物壁紙は、表面に布を使い、裏面には通常、紙や不織布を裏打ちしています。これにより、布の柔軟性と耐久性を保ちながら、施工しやすくしています。
- 織物壁紙: レーヨン、麻、絹、フェルトなどの布を使用。奥行きのある見た目と経年変化が楽しめます。
- コットンクロス: オーガニックコットンを使用し、柔らかい手触りと通気性が特徴です。
- ケナフ壁紙: 非木材の植物ケナフを使用し、環境に優しく、吸音性や調湿性に優れています。
繊維の種類と特徴
繊維・布壁紙に一般的に使用される繊維の種類は以下の通りです。
- 絹: 光沢があり、滑らかで柔らかい手触りが特徴。高級感と優雅さを演出します。
- 麻(ジュート、サイザル、リネン): ナチュラルな風合いで、素朴な雰囲気を醸し出します。環境にも優しい素材です。
- ポリエステル: 耐久性と耐熱性に優れ、しわになりにくい特徴があります。
- レーヨン: 絹のような光沢と柔らかい手触りを持つ再生セルロース繊維です。
- ウール: 柔らかく弾力性があり、保温性に優れた天然タンパク質繊維です。
- コットン: 柔らかく吸湿性・通気性に優れ、ナチュラルで温かみのある雰囲気を演出します。
- パルプ: 紙の原料として使われ、軽量で施工が簡単です。
私たちは、LDKにはレーヨン、寝室にはパルプを利用した壁紙を選びました。
繊維・布壁紙の織り方と製法
繊維・布の壁紙には、さまざまな織り方や製法が用いられ、それぞれ独自の風合いやデザインが特徴です。代表的な織り方として、基本的な平織では、シンプルで飽きのこないデザインが生まれ、綾織では斜めの畝が生地に厚みと高級感を与えます。光沢と滑らかさが特徴の朱子織は、エレガントな雰囲気を演出します。
一方で、織らずに繊維を直接シート状にする不織布は、吸音性や断熱性に優れており、フロッキングは静電気で繊維を植毛することでベルベットのような質感を持ちます。また、和紙織りや紙布は、和紙を用いたナチュラルな風合いが特徴であり、紙上繊維アートでは繊維を模様として配置することで、アート性の高い壁紙が作られます。
これらの多様な技法により、繊維や布を用いた壁紙は、デザインの幅が広がり、空間にさまざまな表情を与えることが可能です。
繊維壁紙のメーカー
壁紙全般で日本を代表するメーカーともいえるサンゲツエクセレクトシリーズや、リリカラは、織物壁紙も豊富です。加えて、私たちが採用したトミタのように繊維を用いた壁紙を重点的に取り扱っている専門メーカーもあります。
その他の素材
その他の素材として、珪藻土、木質、金属箔などを利用したクロスもあります。特に金属箔のものは独特の風合いをもちますが、これらはあまり一般的でなかったり、壁紙よりも一般的な施工法があったりするため、紹介のみにとどめます。
無機質系
珪藻土や漆喰のクロスは、不燃性の紙の上に無機質素材を施して作られています。これにより、防火性と調湿性を兼ね備えた壁紙となります。
- 珪藻土クロス: 調湿性や消臭効果がある無機質系の壁紙です。
- 漆喰クロス: 石灰を主成分とする漆喰を使った壁紙で、防火性や調湿性に優れています。
- エッグウォール: 卵の殻を再利用したクロスで、消臭性が高いのが特徴です。
木質系
木材やコルクを薄くスライスし、紙やアルミで裏打ちして作られます。これにより、自然素材の風合いを活かしつつ、施工性を高めています。
- 木材クロス: 薄くカットした天然木材を使用した壁紙で、自然な風合いが特徴です。
- コルククロス: コルクを薄くスライスして作られた壁紙。暖かみがあり、落ち着いた印象を与えます。
金属系
金属箔クロスは、表面に金属箔を使い、その下に紙や不織布で裏打ちされていることが多いです。この構造により、金属の光沢感と強度を兼ね備えた仕上がりになります。
- 金属箔クロス: アルミや銅などの金属箔を使用した壁紙で、光沢感があり、豪華でモダンな印象を与えます。
- メタリックフィニッシュ: 金属粉末や金属調の塗料を用いた壁紙。耐久性があり、洗練された雰囲気を演出します。
自然素材壁紙の注意点
樹脂系壁紙が広く使われている理由の一つが、施工性・メンテナス性の良さです。自然素材系壁紙を使う場合、いくつかの点に注意と覚悟が必要です。
汚れにくさ・耐水性
樹脂系壁紙は、汚れがついても拭き取ったり、水拭きすることができます。中には防汚加工が施された製品も多く、日常のメンテナンスが簡単です。実験として、オレフィン壁紙のサンプルの上に醤油をこぼして1時間放置するというテストをしましたが、水拭きできれいに拭き取れました。
一方、和紙・布・繊維・珪藻土などを利用した壁紙は、シミになりやすく、水分に対しても弱い傾向があります。また、引っかいたりといった接触によっても傷がつきやすい特徴があります。
施工性
壁紙の施工は、素材や壁面の状態によって難易度が異なります。自然素材系壁紙は、樹脂壁紙と比較すると、薄くて柔らかいため施工が難しい傾向があります。特に、普段から自然素材の壁紙を扱いなれている職人でないと満足な仕上がりにならない可能性があります。
耐久性・耐用年数
一般に樹脂系壁紙の耐用年数は10年~15年とされています。自然系素材が樹脂系に比べて特に耐用年数が短いわけではありませんが、日焼け、変色などの経年変化が目立ちやすい上に、汚れや水分に弱い特性があるため、環境によっては早めに張り替えたくなることもあるかもしれません。
コスト
コストを比較すると、
- いわゆる量産品(標準仕様)の壁紙:1,000円/㎡以下+工賃
- 1000番台と言われる壁紙:1,000〜2,000円/㎡+工賃
- 自然素材壁紙:3,000円/㎡〜60,000円/㎡+工賃
といった感じです。ちなみにサンゲツの金箔の壁紙は1㎡あたり6万円ほどします。例えば、長辺8.25m x短辺5mのLDK(25畳、41.25㎡)を想定し、天井の高さを2.6mとすると、短辺の壁面積は13㎡になります。この壁に施工すると仮定すると、
- 量産品:1〜2万円
- 1000番台:量産品+1.5〜2.5万円
- 自然素材系壁紙:量産品+5万円以上
といった水準を目安にすると良いでしょう。
量産品の壁紙は工賃が抑えられているようです。1000番台の壁紙も量産品と施工の手間はほぼ同じはずですが、工賃がやや高くなります。
積水ハウスを例にとると、壁紙などの素材の値段はほぼ定価で見積もられるため、工賃の差+αが見積もりに反映されます。私たちの場合、積水オリジナル(量産品)から1090円/㎡の壁紙に変更した場合の増額は、1300〜1500円/㎡程度でした。
自然素材の壁紙は施工の難易度が高いため、工賃もさらに高くなります。
まとめ
壁紙選びは空間の雰囲気や使い勝手に大きな影響を与えます。特に自然素材を使用した壁紙は、独特の風合いや高級感があり、和紙や布、金属箔などの素材を活かしたデザインが特徴です。光や照明との組み合わせで陰影が際立ち、空間を豊かに彩ります。和紙の柔らかい質感や金属箔の光沢は、特にインテリアに大きなインパクトを与え、自然素材ならではの魅力を引き出します。
一方で、自然素材の壁紙は汚れや水分に弱く、メンテナンスが難しい点がデメリットです。また、施工も樹脂系壁紙に比べて難易度が高く、専門の職人に依頼する必要があります。コストも高くなりやすく、特に高級素材を使用する場合は費用がかさむことが多いです。
しかし、自然素材の壁紙は環境への配慮や調湿機能があるものも多く、健康志向の高まりに応じた選択肢として注目されています。デザイン性と実用性のバランスを考慮しながら、自然素材の壁紙を選ぶことで、他にはない温かみのある空間を作ることができます。